(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月16日12時10分
愛媛県津和地島北東方沖合
(北緯33度59.8分 東経132度31.4分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船清運丸 |
モーターボート第二なお丸 |
総トン数 |
4.9トン |
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全長 |
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11.06メートル |
登録長 |
10.45メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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139キロワット |
漁船法馬力数 |
15 |
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(2)設備及び性能等
ア 清運丸
清運丸は,船体中央部に機関室囲壁を有し,その後端上部の左舷側に操舵輪を,同右舷側に機関操縦レバーをそれぞれ備えており,レーダーはなく,操船者は操舵輪後方で船横方向に渡した板に座って操船に当たり,操船位置からの見通し状況は,前方がプラスチック製の風防で,見張りの妨げとなる構造物はなく,良好であった。
速力は,機関の回転数毎分2,100のとき9.0ノット,1,800のとき7.0ノット,旋回径は約10メートルで,最短停止距離等は不詳であった。
イ 第二なお丸
第二なお丸(以下「なお丸」という。)は,船体後部に機関室囲壁を有し,その後部に操舵輪と機関操縦レバーを備えており,レーダーはなく,操船者は操舵輪後方で船横方向に渡した板に座って操船に当たり,前部甲板にはオーニング用の支柱4本を,後部甲板にはスパンカーをそれぞれ設備し,操船位置には,避航を促す音響信号を行うことができる笛が置かれていたが,B受審人は,身に付けておくなど,直ちに使用できる状態にしておかなかった。
速力は,機関の回転数毎分2,500のとき20.0ノット,旋回径は約20メートルで,機関を中立にすると船体はすぐに停止することができた。
3 事実の経過
清運丸は,ごち網漁に従事するFRP製漁船で,A受審人が甲板員の妻と2人で乗り組み,船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,操業の目的で,平成16年7月16日11時58分愛媛県津和地漁港を発し,津和地島北方沖合の漁場に向かった。
A受審人は,甲板員に船尾甲板で操業の準備を行わせ,自らは操舵輪後方の板に座って1人で操舵と見張りに当たり,12時04分オコゼ岩灯標から228度(真方位,以下同じ。)980メートルの怒和島水道において,針路を小流レ児島に接航する345度に定め,機関を半速力前進にかけ7.0ノットの対地速力とし,手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は,右舷方で操業中の僚船を視認し,同船と同じ場所では漁獲を望めないなどと考えながら続航していたところ,12時07分オコゼ岩灯標から268度900メートルの地点に達したとき,正船首方650メートルのところに,西方を向いたなお丸を視認することができ,ほとんど移動しないことから漂泊中と分かる状況であったが,前示の僚船に気をとられ,船首方の見張りを十分に行わなかったので,なお丸の存在に気付かなかった。
A受審人は,なお丸に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが,漂泊中の同船を避けずに進行し,12時10分オコゼ岩灯標から300度1,200メートルの地点において,清運丸は,原針路原速力のまま,その船首部が,なお丸の左舷船首部に,直角に衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の末期であった。
また,なお丸は,FRP製の漁船型モーターボートで,B受審人が1人で乗り組み,友人2人を同乗させ,船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,釣りの目的で,同日05時00分広島県倉橋漁港を発し,津和地島北東方沖合の釣り場に向かった。
B受審人は,05時25分前示衝突地点付近の釣り場に至り,機関を中立運転として漂泊し,自らは操舵輪後方に渡した板の右舷側に,同乗者は前部甲板の左右各舷にそれぞれ腰掛け,船体が圧流されると潮上りを繰り返しながら,さお釣りを行った。
11時55分ごろB受審人は,衝突地点において,釣果がなくなったので同乗者とともに後片付けを開始したところ,12時07分船首が255度に向いていたとき,左舷正横650メートルのところに,自船に向け衝突のおそれがある態勢で接近する清運丸を視認することができる状況であったが,右舷方を向いた姿勢で釣り道具の後片付けに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,同船の存在に気付かなかった。
B受審人は,清運丸に対し避航を促す音響信号を行わず,さらに同船が間近に接近しても,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続け,12時10分少し前至近に迫った清運丸の船首部を認めたものの,どうすることもできず,なお丸は,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,清運丸は,船首部船底外板に亀裂とFRPの剥離を,なお丸は,左舷船首部外板に破口をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。また,B受審人が頸椎捻挫などを,同乗者2人が腰部打撲傷及び頸部捻挫などを負った。
(航法の適用)
本件は,愛媛県津和地島北東方沖合において,北上中の清運丸と漂泊中のなお丸とが衝突したもので,海上衝突予防法には適用できる定型航法の規定がないので,同法第38条及び第39条の船員の常務で律することになる。
(本件発生に至る事由)
1 清運丸
(1)A受審人が,小流レ児島に接航したこと
(2)A受審人が,操業中の僚船に気をとられ,船首方の見張りを十分に行わなかったこと
(3)A受審人が,漂泊中のなお丸を避けなかったこと
2 なお丸
(1)B受審人が,笛を操舵位置に置いていたものの,身に付けておくなど,直ちに使用できる状態にしておかなかったこと
(2)B受審人が,右舷方を向いた姿勢で釣り道具の後片付けに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかっこと
(3)B受審人が,避航を促す音響信号を行わなかったこと
(4)B受審人が,衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
A受審人が,船首方の見張りを十分に行っていれば,なお丸を視認することができ,ほとんど移動しないことから漂泊中と分かる同船を避けることができたと考えられるので,操業中の僚船に気をとられ,船首方の見張りを十分に行わなかったこと及び漂泊中のなお丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,小流レ児島に接航したことは,通常の運航形態であるので,本件発生の原因とならない。
B受審人が,周囲の見張りを十分に行っていれば,清運丸を視認することができ,避航を促す音響信号を行い,衝突を避けるための措置をとることができたと考えられるので,右舷方を向いた姿勢で釣り道具の後片付けに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったこと,避航を促す音響信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
B受審人が,笛を操舵位置に置いていたものの,身に付けておくなど,直ちに使用できる状態にしておかなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,愛媛県津和地島北東方沖合において,北上中の清運丸が,見張り不十分で,漂泊中のなお丸を避けなかったことによって発生したが,なお丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,愛媛県津和地島北東方沖合を北上する場合,なお丸を見落とさないよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,右舷方で操業中の僚船に気をとられ,船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,なお丸の存在に気付かず,ほとんど移動しないことから漂泊中と分かる同船を避けないまま進行して衝突を招き,清運丸の船首部船底外板に亀裂とFRPの剥離を,なお丸の左舷船首部外板に破口をそれぞれ生じさせ,B受審人に頸椎捻挫などを,同乗者2人に腰部打撲傷及び頸部捻挫などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,愛媛県津和地島北東方沖合において,釣りのため漂泊する場合,自船に向け接近してくる清運丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,右舷方を向いた姿勢で釣り道具の後片付けに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,清運丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き,前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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