(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月13日05時08分
徳島県瀬戸漁港堂ノ浦地区
(北緯34度13.0分 東経134度35.3分)
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第5栄丸 |
モーターボート幸丸 |
総トン数 |
1.9トン |
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全長 |
8.49メートル |
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登録長 |
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7.04メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
35キロワット |
30キロワット |
3 事実の経過
第5栄丸(以下「栄丸」という。)は,風防ガラスを前方に取り付けた操縦席が船体後部にあるFRP製遊漁船で,平成14年10月に一級小型船舶操縦士の免状を交付されたA受審人が単独で乗り組み,釣り客1人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同16年6月13日05時05分徳島県瀬戸漁港堂ノ浦地区を発し,大鳴門橋付近の釣り場に向かった。
A受審人は,発航後,内海(うちのうみ)を経由して釣り場に向かうこととしたが,風防ガラスに塩が付着して前路が見通しづらかったので,立ったまま顔を同ガラスの上に出して見張りを行いながら,舵柄をつかんで内海の入り口へ向かって進行した。
05時06分半少し過ぎA受審人は,瀬戸港堂ノ浦西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から034度(真方位,以下同じ。)130メートルの地点で,針路を175度に定め,9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)としたとき,正船首350メートルのところに幸丸を視認することができ,やがて同船が漂泊しており,これに衝突するおそれのある態勢で接近しているのを認めることができる状況であったが,平素からこの海域には釣り船などを見かけなかったので,航行の支障となる他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行うことなく,このことに気付かないまま続航した。
05時08分わずか前A受審人が,ふと前方を見て幸丸に気付き,機関を後進としたものの効なく,原針路,原速力のまま05時08分西防波堤灯台から156度260メートルの地点において,栄丸の船首が幸丸の右舷後部に後方から83度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の初期であった。
また,幸丸は,船体中央に操舵室を備えたFRP製モーターボートで,平成14年9月に四級小型船舶操縦士の免状を交付されたB受審人が単独で乗り組み,タコ釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって,同日05時ごろ瀬戸漁港堂ノ浦地区を発した。
05時03分B受審人は,衝突地点に至り,機関を中立として漂泊を開始し,船首を258度に向けた幸丸の右舷船尾甲板上に船首方を向いて座り,右手でテグスを持ってタコ釣りを始めたが,遠隔操縦装置が手元にあったので,随時移動を開始することは可能であった。
05時06分半少し過ぎ,B受審人は,右舷正横後7度350メートルのところに,自船に向首する態勢の栄丸を視認でき,その後,同船に避航の気配がなく,衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが,陸岸に近い釣り場であったので,通航する他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
05時08分わずか前B受審人が,ふと右方を振り向いたとき,栄丸の船首部を認め,立ち上がって大声を出したものの,効なく,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,栄丸は右舷船首部船底に擦過傷を生じたものの,修理を要せず,幸丸は,右舷船尾寄りのガンネル部に割れ損などを生じたが,のち修理された。また,B受審人が,衝突の衝撃で落水し,栄丸のプロペラによって約1箇月間の加療を要する右大腿部裂傷を負った。
(原因)
本件衝突は,徳島県瀬戸漁港堂ノ浦地区において,南下中の栄丸が,見張り不十分で,前路で漂泊中の幸丸を避けなかったことによって発生したが,幸丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,徳島県瀬戸漁港堂ノ浦地区を釣り場に向け航行する場合,前路で漂泊中の他船を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,平素からこの海域には釣り船などを見かけなかったので,航行の支障となる他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊してタコ釣り中の幸丸に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,栄丸の船首部船底に擦過傷を,幸丸の右舷船尾寄りのガンネル部に割れ損などを生じさせ,またB受審人に栄丸のプロペラによる約1箇月間の加療を要する右大腿部裂傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,徳島県瀬戸漁港堂ノ浦地区において,漂泊してタコ釣りを行う場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,陸岸に近い釣り場であったので,通航する他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船に向けて接近する栄丸に気付かず,衝突を避けるための措置をとることなく,同船との衝突を招き,前示の損傷等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。