(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年1月31日20時23分
和歌山県勝浦港南東方沖合
(北緯33度33.2分東経136度02.8分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第十五寶進丸 |
貨物船ミンジョウ12 |
総トン数 |
18トン |
5,012トン |
全長 |
18.80メートル |
118.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
|
3,309キロワット |
漁船法馬力数 |
160 |
|
(2)設備及び性能等
ア 第十五寶進丸
第十五寶進丸(以下「寶進丸」という。)は,平成6年2月に進水したまぐろはえ縄漁に従事するFRP製漁船で,船体中央部に上下2箇所の操舵室を備えていた。
上部操舵室は,船首尾方向の長さ約1.0メートル幅約2.9メートル床から天井までの高さ約0.9メートルで,右舷側後面に出入口が,前面に5個及び両舷側壁に各2個の窓がそれぞれ設けられ,左舷側にレーダー及びGPSプロッター,右舷側前面に磁気コンパスと,舵及び主機の遠隔操縦装置が備え付けられていた。また,同操縦装置は下部操舵室からケーブルで導かれており,自動操舵で進行中,遠隔操縦装置による操舵が優先するシステムになっていた。
イ ミンジョウ12
ミンジョウ12(以下「ミ号」という。)は,西暦1977年に建造されたコンテナ専用船で,船橋にレーダー2台及びGPSを備え,京浜,名古屋,大阪,神戸及び門司の本邦諸港と,中華人民共和国ニンボウ港間における貨物輸送に従事していた。
また,海上公試運転成績表によれば,初速15.5ノットで舵角35度をとったとき,90度回頭するまでの旋回縦距,旋回横距及び所要時間は,左旋回で414メートル,212メートル及び1分16秒,右旋回で405メートル,199メートル及び1分15秒であった。さらに,15.2ノットの前進速力で航走中,全速力後進発令から船体停止までに要する時間及び航走距離は,それぞれ4分04秒及び1,110メートルであった。
3 事実の経過
寶進丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成16年1月15日15時00分千葉県銚子漁港を発し,同月18日北緯28度30分東経145度00分付近の漁場に至って操業を開始し,その後漁場を移動しながら操業を続け,同月30日まぐろ10トンを獲て操業を終え,翌31日05時00分北緯32度00分東経137度30分の地点を発進し,水揚げのため和歌山県勝浦港に向かった。
A受審人は,船橋当直について,入出港前後の数時間を自らが,それ以外の漁場往復路を乗組員全員による輪番制で行うこととしており,入港間近となったので,乗組員から同当直を引き継ぎ,所定の灯火を表示して上部操舵室で操船に当たり,19時00分梶取埼灯台から124度(真方位,以下同じ。)15.8海里の地点に達したとき,針路を310度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,8.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
ところで,A受審人は,上部操舵室の天井が低いので同室右舷側の床に座り,レーダーを3海里レンジとして物標が2海里以内となったら警報ブザーが鳴るように設定し,レーダー映像の監視と,同室の窓から目視によって周囲の見張りを行っていた。
20時10分ごろA受審人は,紀伊半島南東岸沖合の船舶交通が輻輳(ふくそう)する海域に差し掛かり,レーダー映像の2海里以内に数隻の他船を探知して警報ブザーが鳴っていたものの,視界が良好だったことから特に気にせず,主として目視による見張りを行いながら北上した。
20時13分半少し過ぎA受審人は,梶取埼灯台から115度6.0海里の地点に至ったとき,右舷船首71度2.0海里にミ号が表示する白,白,紅3灯を視認し得る状況であったが,そのころ船首方約2海里に認めた他船の灯火に気をとられ,操舵室側壁の窓から外を覗(のぞ)いたり,レーダーを活用したりするなど,右舷方の見張りを十分に行わなかったのでミ号の存在に気付かず,その後,同船が,方位に変化のないまま前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したことも,手持ち投光器で自船を照らしたことにも気付かないまま続航した。
A受審人は,ミ号と更に接近しても,依然,右舷方の見張りが不十分で,右転するなど同船の進路を避けずに進行中,20時23分梶取埼灯台から111度4.8海里の地点において,寶進丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船首がミ号の左舷中央部に,後方から10度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力4の北西風が吹き,視界は良好であった。
また,ミ号は,中国人船長B及び一等航海士Cほか同国人船員22人が乗り組み,コンテナ214個を載せ,船首5.0メートル船尾6.0メートルの喫水をもって,同月31日00時30分京浜港東京区を発し,中華人民共和国ニンボウ港に向かった。
C一等航海士は,17時00分三木埼灯台の南東方約17海里沖合で,操舵手1人とともに船橋当直に就き,所定の灯火を表示して熊野灘を南下し,19時15分梶取埼灯台から070度17.6海里の地点で,針路を238度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,12.6ノットの速力で進行した。
20時10分C一等航海士は,梶取埼灯台から092度6.8海里の地点に達したとき,左舷船首37度2.7海里に寶進丸が表示する白,緑2灯を初認し,20時13分半少し過ぎ同灯台から096度6.2海里の地点に至ったとき,同船が方位に変化のないまま2.0海里となり,その後,前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め,操舵手を舵輪に就けて手動操舵に切り替えたものの,警告信号を行わず,同船が避航する様子のないまま更に間近に接近したが,手持ち投光器で同船を照らしただけで,速やかに大きく右転するなど,衝突を避けるための協力動作をとらずに続航した。
20時22分C一等航海士は,寶進丸が至近に迫ってようやく衝突の危険を感じ,右舵一杯とし,汽笛による長音1回を吹鳴して機関を停止したが及ばず,ミ号は,300度に向首し残存速力約9ノットになったとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,寶進丸は右舷船首及び中央部外板に亀裂と擦過傷を生じたが,のち修理され,ミ号は,左舷中央部及び後部外板に擦過傷を生じた。
(航法の適用)
本件衝突は,紀伊半島南東岸沖合において,北西進する寶進丸と,南西進するミ号とが衝突したものであり,本件発生海域は海上衝突予防法が適用され,両船の運航模様及び視界の状況から,互いの視野の内にある2隻の動力船が,互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがある状況であったことから,同法第15条により律することとなる。
(本件発生に至る事由)
1 寶進丸
(1)船橋当直が操舵室右舷側の床に座って行われていたこと
(2)レーダーが十分に活用されていなかったこと
(3)A受審人が,右舷方の見張りを十分に行わなかったこと
(4)A受審人が,ミ号の進路を避けなかったこと
2 ミ号
(1)C一等航海士が,警告信号を行わなかったこと
(2)C一等航海士が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
3 海域の状況
(1)紀伊半島南東岸沖合の船舶交通が輻輳する海域であったこと
(2)寶進丸の船首方に他船が存在したこと
(原因の考察)
寶進丸が,右舷方の見張りを十分に行えばミ号の接近に容易に気付き,避航動作をとることに支障がなかったのだから,右転するなど同船の進路を避けることにより,本件は発生していなかったものと認められる。
したがって,A受審人が,右舷方の見張りを十分に行わず,ミ号の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
寶進丸のレーダーが十分に活用されていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,目視による見張りが十分に可能であったので,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
寶進丸の船橋当直が上部操舵室右舷側の床に座って行われていたことは,視線が固定されやすく,右舷方の見張りがおろそかになりやすい状況であったといえるが,このことは,同操舵室の天井が低い同船の構造によるものであり,これを前提に周囲の見張りを十分に行うことは可能であるので,本件発生の原因とはならない。
ミ号が,警告信号を行い,適当な時期に右転するなど,衝突を避けるための協力動作をとることは可能であって,これらの措置をとっていれば,本件発生を避けることができた蓋然性が高いと認められる。
したがって,C一等航海士が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
衝突地点付近が,紀伊半島南東岸沖合の船舶交通が輻輳する海域であったことは,安全航行が不可能であったというほどの特別な状況でなかったのだから,本件発生の原因とすることはできない。
寶進丸の船首方に他船が存在したことは,A受審人が右舷方の見張りを十分に行わなかった心理的背景ではあるが,航行中に起こり得る通常の状況であって,本件発生の原因とはならない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,和歌山県勝浦港南東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,北西進中の寶進丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切るミ号の進路を避けなかったことによって発生したが,南西進中のミ号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,和歌山県勝浦港南東方沖合において,同港に向けて北西進する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,上部操舵室側壁の窓から外を覗くなど,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船首方向の他船の灯火に気をとられ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するミ号に気付かず,右転するなど同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き,寶進丸の右舷船首及び中央部外板に亀裂と擦過傷を,ミ号の左舷中央部及び後部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
(拡大画面:14KB) |
|
|