日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年仙審第25号
件名

漁船第七十八源榮丸漁船第151関丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年5月31日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄,半間俊士,大山繁樹)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:第七十八源榮丸漁ろう長兼一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第151関丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第七十八源榮丸・・・右舷側船首部などに擦過傷
第151関丸・・・操舵室前部を圧壊及び左舷側中央部外板に破口,のち沈没

原因
第七十八源榮丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第151関丸・・・見張り不十分,注意喚起信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第七十八源榮丸が,見張り不十分で,漂泊中の第151関丸を避けなかったことによって発生したが,第151関丸が,見張り不十分で,有効な音響による注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月13日14時50分
 青森県むつ小川原港東方沖合
 (北緯41度01分東経141度48分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第七十八源榮丸 漁船第151関丸
総トン数 138トン 19トン
全長 41.33メートル  
登録長   16.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関ディーゼル機関
出力 735キロワット 478キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第七十八源榮丸
 第七十八源榮丸(以下「源榮丸」という。)は,平成15年2月に進水した従業区域を乙区域とする長船尾楼付一層甲板型鋼製いか一本釣り漁船で,船橋中央に操舵装置が,その左舷側には順に2台のレーダー(うち1台はアルパ付)及び主機関用遠隔操縦盤が,その右舷側には順にGPSプロッター及び魚群探知器等が設置され,レーダーの下方にソナーと魚群探知器が備えられていた。
 ところで,2台あるレーダーのうち,主レーダーの最大探知距離は100海里であったものの,海面反射などの除去能力が低下した状態となっていた。
 漁労設備としては,いか釣り機を両舷にそれぞれ15台及び船尾に2台備えており,集魚灯は3キロワットのものを83個装備していた。
 海上公試運転成績表によれば,舵角35度で360度旋回するのに右旋回で1分23秒を,左旋回で1分25秒の時間を要し,その旋回径は1.5Lであり,機関回転数毎分395の全速力前進にかけ,12.799ノットの速力で航行中,全速力後進を発令したとき,船体停止までの所要時間は41秒を要し,その停止距離は70メートルであった。
 また,源榮丸の操舵室は,船体ほぼ中央部にあり,その高さは甲板上約2メートルと一般の船に比べて低く,特に空船の状態で航行中,両舷にそれぞれ約16度の死角を生じる状況にあった。
イ 第151関丸
 第151関丸(以下「関丸」という。)は,昭和58年4月に進水した従業区域を丙区域とするFRP製漁船で,船体中央部やや後方に操舵室があり,上甲板上には船首端から順に甲板長倉庫,作業甲板,機関室開口部,賄室,及び網置場となっており,上甲板下には同じく船首水槽,1番魚倉,2番魚倉,3番魚倉,4番及び5番魚倉,機関室,1番燃料油タンク,2番燃料油タンク,清水タンク,船員室及び船尾水槽となっていた。
 また,翼数3枚の固定ピッチプロペラを装備し,バウスラスターも装備していた。

3 事実の経過
 源榮丸は,A受審人ほか6人が乗り組み,操業の目的で,船首1.2メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,平成15年10月13日10時00分青森県八戸港を発し,北海道襟裳岬付近の漁場に向かった。
 発航後,A受審人は,襟裳岬付近で操業中の僚船から天候が悪い旨の情報を得たので,漁場を変更して青森県むつ小川原港の東方沖合で操業することにし,反転して同港の東方沖合で探索を始め,14時10分むつ小川原港新納屋南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から089度(真方位,以下同じ。)14.7海里の地点で,針路を035度に定め,機関回転数を全速力前進より少し落として9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,主レーダーを12マイルレンジとして周囲の状況を監視しながら,自動操舵により進行した。
 14時46分半A受審人は,南防波堤灯台から074.5度18.7海里の地点に達したとき,正船首1,000メートルのところに漂泊中の関丸を視認できる状況であったが,レーダーを監視しているので,前路に他船がいれば画面に映るものと思い,船首を左右に振るなどして前路の死角を補う見張りを十分に行なっていなかったので,このことに気付かず,同船を避けることなく続航した。
 こうして,源榮丸は,A受審人がレーダーの感度が低下していることに気付かないまま進行中,14時50分南防波堤灯台から073.5度19.0海里の地点において,原針路,原速力のまま,その右舷船首部が関丸の左舷中央部外板に後方から60度の角度をもって衝突した。
 当時,天候は曇で風力6の北西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 また,関丸は,B受審人ほか5人が乗り組み,大目流網漁を行う目的で,船首0.7メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,同月10日07時00分岩手県宮古港を発し,漁場に向かった。
 15時30分B受審人は,むつ小川原港東方沖合の漁場に至って北上しながら操業を始め,越えて13日07時ごろ3回目の操業を終えたとき,折から低気圧が接近しており,時化模様となってきたが,良いかじきまぐろが掛かったことでもあり,漁場を確保するため,船首からパラシュート型シーアンカーを投入して漂泊し,天候の回復を待つことにした。
 ところで,B受審人は,平素,漁場までの航海時間が5時間以上かかるときには単独2時間の船橋当直を組むようにしていたが,3回目の操業が終わったばかりであったので,少しでも乗組員を休ませようと思い,衝突のおそれがある態勢で接近する他船を早期に把握できるよう,船橋当直を組まないまま,13時00分前示衝突地点付近で漂泊を始めた。
 13時15分B受審人は,レーダーを12マイルレンジとして周囲に自船に向かって接近する他船がいないことを確認したのち,操舵室を無人としたまま,同室後方右舷側のベッドで横になり,少しでも仮眠して身体を休めることにした。
 14時46分半B受審人は,前示衝突地点で船首が335度を向いていたとき,左舷船尾60度1,000メートルのところに,衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近する源榮丸を視認することができたが,船橋当直を立てず,自らも周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,有効な音響による注意喚起信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けた。
 こうして,関丸は,B受審人が周囲の見張りを十分に行うことなくベッドで仮眠中,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,源榮丸は,右舷側船首部などに擦過傷を生じ,関丸は,操舵室前部を圧壊及び左舷側中央部外板に破口をそれぞれ生じ,のち沈没した。

(航法の適用)
 本件は,魚群の探索を行いながら北上中の源榮丸とパラシュート型シーアンカーを投入して漂泊中の関丸とが衝突したものであり,両船は互いに視野の内にあって適用すべき航法がない場合であるから,海上衝突予防法第38条及び第39条の船員の常務を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 源榮丸
(1)航行中,前路に死角を生じる船であったこと
(2)A受審人が感度が低下したレーダーを使用していたこと
(3)A受審人がレーダーを過信していたこと
(4)A受審人が船首を左右に振るなどの死角を補う見張りをしていなかったこと

2 関丸
(1)B受審人が自動衝突予防援助装置を作動させていなかったこと
(2)B受審人が周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(3)B受審人が自ら船橋当直を行わなかったこと
(4)B受審人が乗組員に船橋当直を行わせなかったこと

(原因の考察)
 A受審人がむつ小川原港東方沖合を北上する際,自船が航行中前路に死角を生じることを知っていたのであるから,レーダーによる監視だけに頼らず,船首を左右に振るなどして前路の死角を補う見張りを十分に行っておれば本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,前路の死角を補う見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 なお,A受審人がレーダーの感度が低下していることに気付かないまま使用していたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件事故と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,B受審人がむつ小川原港東方沖合において,低気圧の接近により時化模様となり,漁場を確保するため,船首からパラシュート型シーアンカーを投入して漂泊し,天候の回復を待つ際,同人が自ら船橋当直を行うか,他の乗組員に船橋当直を行わせるかして周囲の見張りを十分に行っていれば,事前に衝突を回避する措置がとれ,本件は発生しなかったものと認められる。
 したがって,B受審人が,自らが船橋当直を行わなかったこと,または他の乗組員に船橋当直を行わせなかったことは本件発生の原因となる。
 なお,B受審人が自動衝突予防援助装置を作動させていなかったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件事故と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)

 本件衝突は,青森県むつ小川原港東方沖合において,源榮丸が,見張り不十分で,漂泊中の関丸を避けなかったことによって発生したが,関丸が,見張り不十分で,有効な音響による注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)

 A受審人は,青森県むつ小川原港東方沖合において,前路に死角を生じた状態で単独の船橋当直に当たって魚群探索を行う場合,前路でパラシュート型シーアンカーを入れて漂泊中の関丸を見落とすことのないよう,船首を左右に振るなどして前路の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,レーダーで監視しているので,前路に他船がいれば画面に映るものと思い,前路の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,感度が低下した主レーダーに第151関丸が映らなかったことから,死角の中に入った同船に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,自船の右舷側船首部に擦過傷を生じさせ,関丸の操舵室前部を圧壊し,左舷側中央部外板に破口を生じさせ,沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対して,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,青森県むつ小川原港東方沖合において,パラシュート型シーアンカーを入れて漂泊する場合,衝突のおそれがある態勢で接近する他船を早期に把握できるよう,乗組員を船橋当直にあたらせるなどの周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,乗組員を少しでも休ませようと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,乗組員を船橋当直にあたらせるなどしないまま,船橋後部にあるベッドに入って休息し,操舵室を無人としていたので,衝突のおそれがある態勢で接近する源榮丸に気付かず,有効な音響による注意喚起信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:13KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION