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平成16年函審第88号
件名

漁船第三十八 八幡丸貨物船ヴィクトリー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年5月18日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志,西山烝一,堀川康基)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第三十八 八幡丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三十八 八幡丸・・・船首部が圧壊

原因
ヴィクトリー・・・動静監視不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第三十八 八幡丸・・・居眠り運航防止措置不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,ヴィクトリーが,動静監視不十分で,前路を左方に横切る第三十八 八幡丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第三十八八幡丸が,居眠り運航の防止措置不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月23日17時30分
 北海道神威岬北西方沖合
 (北緯43度22.0分東経140度17.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十八八幡丸 貨物船ヴィクトリー
総トン数 19.56トン 2,280トン
全長   91.29メートル
登録長 17.84メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 573キロワット 1,471キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第三十八 八幡丸
 第三十八 八幡丸(以下「八幡丸」という。)は,昭和56年6月に進水したいか一本つり漁業などに従事する,ほぼ船体中央部に船橋があるFRP製漁船で,操舵室にはレーダー2台,GPSプロッタ及び魚群探知機が装備されていた。
イ ヴィクトリー
 ヴィクトリー(以下「ヴィ号」という。)は,西暦2004年に建造した船尾船橋型の鋼製貨物船で,操舵室にはレーダーやGPSプロッタなどが装備されていたものの,ジャイロコンパスが故障していた。

3 事実の経過
 八幡丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,平成16年7月23日15時40分北海道美国漁港を発し,神威岬西方7海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで,この時期の八幡丸の操業形態は,美国漁港を夕方に出漁し,積丹半島周辺海域で夜間操業を行い,早朝に入港することを繰り返すものであり,A受審人は,操業中や入港中に休息をとっていたが,同月18日同漁港沖合で発生した海難による行方不明者の捜索を,19日及び20日は昼間に同捜索を実施し,続いて夜間操業を行い,その後通常の操業形態に戻ったものの,休息が十分にとれず疲労が蓄積した状態にあった。
 A受審人は,単独の航海当直に就いて積丹半島の北東岸をつけ回し,16時51分神威岬灯台から053.5度(真方位,以下同じ。)3.4海里の地点に達したとき,針路を270度に定め,8.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 16時55分半A受審人は,神威岬灯台から046.5度2.9海里の地点に至り,折からの南西の風波を受けるようになったことから開けていた両舷の窓のうち,左舷側を閉めるとともに,自動操舵に切り替えて操舵室左舷側の長いすにあぐらをかき見張りに当たっていたところ,眠気を覚えたが,間もなく漁場に到着するのでそれまで我慢できるものと思い,休息中の乗組員を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく続航した。
 こうしてA受審人は,いつしか居眠りに陥り,17時25分半少し前神威岬灯台から318度2.7海里の地点で,左舷船首35.5度1.5海里のところに北東行するヴィ号を認めることができ,その後同船の方位が変わらず,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,このことに気付かず,警告信号を行うことも,更に接近しても機関を停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
 八幡丸は,A受審人が居眠りに陥ったまま,17時30分神威岬灯台から309.5度3.2海里の地点において,原針路原速力のまま,その船首部がヴィ号の右舷後部に前方から70度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力5の南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
 また,ヴィ号は,ベトナム社会主義共和国国籍の一等航海士Bほか同国籍人19人が乗り組み,空倉のまま,船首1.8メートル船尾3.3メートルの喫水をもって,7月21日茨城県鹿島港を発し,北海道石狩湾港に向かった。
 翌々23日16時00分B一等航海士は,神威岬南西方20海里ばかりの地点で甲板員1人とともに船橋当直に就いて北東進し,17時24分神威岬灯台から286度3.3海里の地点に達したとき,甲板員を操舵につけ,針路を034度に定め,機関を全速力前進にかけて13.3ノットの速力で進行した。
 定針したときB一等航海士は,右舷船首20.5度1.9海里のところに西行する八幡丸を初めて視認し,17時25分半少し前神威岬灯台から291度3.2海里の地点に至り,同船の方位に変化がないまま1.5海里となり,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,右転するなど,同船の進路を避けずに進行した。
 17時29分半B一等航海士は,間近に迫った八幡丸にようやく衝突の危険を感じ,甲板員に左舵一杯を令したが及ばず,ヴィ号は,原速力のまま,020度を向首したとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,八幡丸は,船首部を圧壊した。

(航法の適用)
 本件衝突は,北海道神威岬北西方沖合において,互いに他の船舶の視野の内にある,西行する八幡丸と,北東行するヴィ号とが,互いに針路を横切り衝突するおそれがあったことから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 八幡丸
(1)A受審人が,疲労が蓄積した状態にあったこと
(2)A受審人が,操舵室左舷側の長いすにあぐらをかき見張りに当たっていたところ,眠気を覚えた際,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(3)ヴィ号に対し警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 ヴィ号
(1)ジャイロコンパスが故障中であったこと
(2)B一等航海士が,八幡丸に対する動静監視を行わなかったこと
(3)八幡丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,ヴィ号が,八幡丸に対する動静監視を行っていたなら,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのが分かり,同船の進路を避けることにより,回避できたものと認められる。
 したがってB一等航海士が,八幡丸に対する動静監視を十分に行っていなかったこと及び同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 ヴィ号のジャイロコンパスが故障中であったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,マグネットコンパスなどにより他船の方位変化の観測が可能であり,またレーダーなどによっても衝突のおそれの有無の判断ができることから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から,このことは発航前に点検して修理すべき事項である。
 他方,八幡丸が,居眠り運航の防止措置をとっていたなら,ヴィ号に対し警告信号を行い,更に接近しても衝突を避けるための協力動作をとっていれば,本件衝突は回避できたものと認められる。
 したがってA受審人が,操舵室左舷側の長いすにあぐらをかき見張りに当たっていたところ,眠気を覚えた際,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと,ヴィ号に対し警告信号を行わなかったこと,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,疲労が蓄積した状態にあったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,眠気を覚えた際,休息中の乗組員を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることが可能であったことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から,体調の管理を十分に行って出漁すべきである。

(海難の原因)
 本件衝突は,北海道神威岬北西方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北東行するヴィ号が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る八幡丸の進路を避けなかったことによって発生したが,西行する八幡丸が,居眠り運航の防止措置不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,北海道神威岬北西方沖合において,単独の航海当直に就き西行中,眠気を覚えた場合,休息中の乗組員を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,間もなく漁場に到着するのでそれまで我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,長いすにあぐらをかいたまま居眠りに陥り,ヴィ号と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,八幡丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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