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平成16年長審第67号
件名

漁船光洋丸漁船竜西丸2衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年4月22日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:光洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:竜西丸2船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
光洋丸・・・船首外板に擦過傷
竜西丸2・・・船尾左舷側外板に破口

原因
光洋丸・・・船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
竜西丸2・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,光洋丸が,操舵室を無人とし,漂泊中の竜西丸2を避けなかったことによって発生したが,竜西丸2が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月27日13時00分
 長崎港第6区

2 船舶の要目
船種船名 漁船光洋丸 漁船竜西丸2
総トン数 4.9トン  
登録長 11.85メートル 4.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   18キロワット
漁船法馬力数 90  

3 事実の経過
 光洋丸は,船体ほぼ中央に機関室があってその上部甲板上に船室と操舵室を設け,レーダー,GPS及び魚群探知機を備えたFRP製漁船で,A受審人(昭和57年8月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,操業前に氷を積み込む目的で,船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成16年7月27日12時35分長崎港木鉢浦の係船地を発し,長崎県三重式見港に向かった。
 ところで,A受審人は,2日ほど前から歯痛のために食事を摂ることができないまま水ばかり飲んでいたので腹具合が悪く,体調をくずしていた。
 A受審人は,発航して間もなく便意を催すようになったが,そのまま操舵室で操舵操船に当たって港内を西行したのち,12時53分長崎港口防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から338度(真方位,以下同じ。)880メートルの地点に達したとき,針路を三重式見港沖合に向首するよう331度に定め,機関を回転数毎分1,400(以下,回転数については毎分のものを示す。)の半速力前進にかけ,9.0ノットの速力で,長崎港第6区を手動操舵で進行した。
 定針したのち,A受審人は,腹痛を覚えて便意を強く催すようになったので,12時55分防波堤灯台から335.5度1,430メートルの地点に達したとき,船尾甲板上右舷側に設けた便所に赴くことにしたが,しばらくは大丈夫と思い,操舵室を無人としたまま航行しないよう,行きあしを止めて停留することなく,機関回転数を1,200に下げて速力を7.0ノットに減じ,自動操舵として操舵室を離れ,便所に赴いた。
 こうして,A受審人は,操舵室を無人としたまま続航し,12時57分少し前防波堤灯台から335度1,800メートルの地点に達したとき,正船首方700メートルのところに,左舷側を見せて漂泊中の竜西丸2(以下「竜西丸」という。)が存在したが,便所で用便を続けていたので,同船が存在することも,その後同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近することにも気付かず,右転するなどして竜西丸を避けないまま進行中,光洋丸は,13時00分防波堤灯台から333.5度2,500メートルの地点において,原針路及び7.0ノットの速力のまま,その船首が,竜西丸の左舷側後部に直角に衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の西南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は,衝突したことに気付かないまま用を終えて操舵室に戻り,三重式見港に向けて航行中,後方から自船に接近して来た竜西丸の乗組員が手を振って合図するのを認め,何事かと思って行きあしを止め,B受審人から衝突したことを知らされて事後の措置に当たった。
 また,竜西丸は,船尾端に船外機を備え,有効な音響による信号を行うことができる設備を有さないFRP製漁船で,B受審人(平成14年12月四級小型船舶操縦士免許取得後,同免状を紛失。翌15年11月再発行時に二級小型船舶操縦士・特殊小型船舶操縦士免許に変更。)が1人で乗り組み,一本釣り漁の目的で,船首0.15メートル船尾0.45メートルの喫水をもって,同日09時30分長崎県福田漁港を発し,同時40分防波堤灯台から336度2,150メートルの地点に当たる長崎港第6区の釣り場に到着して一本釣りを始め,時折,釣り場を移動したのち,12時50分前示衝突地点に移動し,シーアンカーを船首から海中に投入してこれに掛かり,漂泊して釣りを開始した。
 12時57分少し前B受審人は,折からの西南西風を受けて船首が241度を向いた状態で右舷船尾に座り,右舷方を向いて一本釣りをしていたとき,左舷正横700メートルのところに,自船に向首する態勢で接近して来る光洋丸が存在したが,自船は漂泊して釣りをしているので航行中の他船が避航してくれるものと思い,折から入れ食い状態となったこともあって,釣りをすることのみに気を奪われ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,光洋丸が存在することも,その後同船が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近することにも気付かなかった。
 こうして,B受審人は,シーアンカーを解き放って船外機を前進にかけるなど,衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊して一本釣り中,13時00分わずか前背後に機関音を聞いてふと左舷方を見たとき,自船に向首したまま至近に迫った光洋丸を認め,急ぎ船首に移動して両手を振りながら大声を上げた直後,竜西丸は,船首が241度を向いたまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,光洋丸は,船首外板に擦過傷を生じ,竜西丸は,船尾左舷側外板に破口を生じた。
 B受審人は,衝突の衝撃で海中に投げ出されたが,自力で自船に戻って光洋丸を追い掛け,やがて同船に追い付いてA受審人に衝突したことを告げ,事後の措置に当たった。

(原因)
 本件衝突は,長崎港第6区において,係船地から長崎県三重式見港に向けて航行中の光洋丸が,操舵室を無人とし,前路で漂泊中の竜西丸を避けなかったことによって発生したが,竜西丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,長崎港第6区において,係船地から長崎県三重式見港に向けて航行中,操舵室を離れて便所に赴く場合,操舵室を無人としたまま航行しないよう,行きあしを止めて停留するべき注意義務があった。しかしながら,同人は,しばらくは大丈夫と思い,行きあしを止めて停留しなかった職務上の過失により,操舵室を無人としたまま航行を続け,前路で漂泊中の竜西丸を避けないで同船との衝突を招き,光洋丸の船首外板に擦過傷を生じさせ,竜西丸の船尾左舷側外板に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,長崎港第6区において,船首からシーアンカーを海中に投入してこれに掛かり,漂泊して一本釣りを行う場合,自船に向首する態勢で接近して来る光洋丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,自船は漂泊して釣りをしているので航行中の他船が避航してくれるものと思い,釣りをすることのみに気を奪われ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,光洋丸が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,シーアンカーを解き放って船外機を前進にかけるなど,衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き,前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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