(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月2日12時11分
日比水道北口
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船富士丸 |
モーターボートポセイドン |
総トン数 |
4.8トン |
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登録長 |
11.86メートル |
4.45メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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44キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
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3 事実の経過
富士丸は,船体後部甲板上に船室があってその上部に操舵室を設け,レーダー,GPS及び魚群探知機を備えたFRP製漁船で,A受審人(昭和52年11月一級小型船舶操縦士免許取得)が甲板員の妻と2人で乗り組み,いか一本釣りの目的で,船首0.7メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成16年5月2日11時50分佐賀県高串漁港を発し,長崎県的山大島北西方沖合約2海里の漁場に向かった。
発航後,A受審人は,甲板員を船室で待機させ,自らは操舵室で操舵操船に当たって防波堤入り口を出航したのち,11時54分高串港沖防波堤北灯台から299度(真方位,以下同じ。)800メートルの地点に達したとき,機関を回転数毎分1,500の半速力前進に上げ,日比水道に向けて北上した。
12時03分少し前A受審人は,日比水道南口に当たる肥前宮埼灯台(以下「宮埼灯台」という。)から158度1,350メートルの地点に達したとき,同水道北方沖合に設置された日比水道北曾根灯浮標に向首するよう,針路を330度に定め,機関を半速力前進としたまま,11.0ノットの速力で,手動操舵で進行した。
定針したとき,A受審人は,前方を一見したところ,左舷船首方約1,400メートルのトワタシ瀬と称する浅所付近の海域に散在する数隻の船を認め,平素のように釣り船があると思って,その後その様子を見ながら続航した。
12時07分半A受審人は,宮埼灯台から295度330メートルの地点に達し,散在する釣り船を左舷側に離して航過し終えたとき,日比水道北口に当たる正船首方1,200メートルのところに,漂泊中のポセイドンが存在したが,定針したとき正船首方に他船が見当たらなかったこともあって,前路には航行の支障となる他船はないものと思い,船首方の見張りを十分に行うことなく,ポセイドンの存在にも,その後同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近することにも気付かず,操舵室右舷側に立った姿勢で左手で操舵に当たり,日比水道を進行した。
こうして,富士丸は,A受審人が,右転するなどしてポセイドンを避けずに続航中,12時11分宮埼灯台から323度1,480メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その右舷船首が,ポセイドンの船尾に後方から36度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の南風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,付近には北北西方に向かう潮流が少しあった。
また,ポセイドンは,船体中央部に操舵スタンドがあって船尾端に船外機を備え,有効な音響による信号を行うことができる設備を有さないFRP製モーターボートで,B受審人(昭和53年3月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,友人3人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,同日07時45分佐賀県仮屋漁港を発し,釣り場に向かった。
09時00分B受審人は,宮埼灯台から153度1,300メートルの地点に当たる,日比水道南口付近の釣り場に到着し,パラシュート型シーアンカーを船尾から海中に投入し,引き索を約10メートル延出してこれに掛かり,漂泊して4人で魚釣りを始め,その後,潮流によって同水道内を北西方ないし北北西方に圧流されながら魚釣りを続けた。
12時08分B受審人は,前示衝突地点において,折からの南風を船尾から受けて船首が352度を向き,漂泊した状態で右舷側の操縦席に座り,右舷方を向いて魚釣りをしていたとき,右舷船尾22度1,000メートルのところに,自船に向首する態勢で接近して来る富士丸を視認したが,自船は漂泊しているので相手船の方で避航してくれるものと思い,その後その動静を監視することなく,富士丸が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かなかった。
こうして,B受審人は,シーアンカーの引き揚げ索を引いて船外機を前進にかけるなど,衝突を避けるための措置をとらないで漂泊したまま魚釣りを続けているうち,12時11分少し前,ふと船尾方を見たとき,自船に向首したまま約100メートルに接近した富士丸を認め,シーアンカーに掛かったまま急ぎ船外機を始動して右舵一杯,全速力前進としたが,ポセイドンは,過負荷運転となって船外機が停止し,船首が006度を向いたとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,富士丸は,右舷船首外板に亀裂を伴う擦過傷を生じ,ポセイドンは,船外機に損傷及び船尾外板に擦過傷を生じ,B受審人が頸椎捻挫を負った。
(原因)
本件衝突は,日比水道北口において,定係地から沖合の漁場に向けて航行中の富士丸が,見張り不十分で,前路で漂泊中のポセイドンを避けなかったことによって発生したが,ポセイドンが,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,日比水道北口において,発航地から沖合の漁場に向けて航行する場合,前路で漂泊中のポセイドンを見落とすことのないよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,前路には航行の支障となる他船はないものと思い,船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ポセイドンに向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,右転するなどして同船を避けないまま進行して衝突を招き,富士丸の右舷船首外板に亀裂を伴う擦過傷を生じさせ,ポセイドンの船外機に損傷及び船尾外板に擦過傷を生じさせて船長に頸椎捻挫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,日比水道北口において,船尾からシーアンカーを海中に投入してこれに掛かり,漂泊して魚釣り中,右舷船尾方から自船に向首する態勢で接近して来る富士丸を視認した場合,衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう,その動静を監視するべき注意義務があった。しかしながら,同人は,自船は漂泊しているので相手船の方で避航してくれるものと思い,富士丸の動静を監視しなかった職務上の過失により,同船が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,シーアンカーの引き揚げ索を引いて船外機を前進にかけるなど,衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて富士丸との衝突を招き,前示のとおり両船に損傷を生じさせ,自身が負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。