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平成16年門審第141号
件名

遊漁船オーシャン クィーン漁船大勝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年4月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,清重隆彦,織戸孝治)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:オーシャン クィーン船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:大勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
オーシャン クィーン・・・右舷船首外板に破口
大勝丸・・・船首部を切断

原因
オーシャン クィーン・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
大勝丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は,オーシャン クィーンが,見張り不十分で,停留して漁ろうに従事している大勝丸を避けなかったことによって発生したが,大勝丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月9日05時45分
 別府湾口
 (北緯33度20.3分東経131度50.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 遊漁船オーシャン クィーン 漁船大勝丸
総トン数 19トン 6.6トン
全長 24.00メートル  
登録長   12.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット  
漁船法馬力数   90
(2)設備及び性能等
ア オーシャン クィーン
 オーシャン クィーン(以下「クィーン号」という。)は,平成10年11月第1回定期検査を受け,同15年8月県知事に遊漁船業の届出を行った,最大搭載人員を旅客30人と船員2人としたFRP製遊漁船で,船体中央部に操舵室を,同室前方に船員用の船室を,操舵室後方に釣り客用の船室を有する構造で,操舵室には,中央やや右舷寄りに舵輪が,右舷側にレーダーが,左舷側にGPSプロッタが備えられていた。
 操船者が舵輪後方に設置したいすに腰を掛けた姿勢で前方を見たとき,前方の視界を遮る構造物はなく,航海全速力で航走中,船首浮上による死角を生じることもなく,見通し状況は良好であった。
イ 大勝丸
 大勝丸は,平成7年3月に進水したFRP製漁船で,船体ほぼ中央部に操舵室があり,船尾両舷にひき綱を巻き揚げるためのドラム形ウインチが装備されていた。そして,機関のクラッチ操作については,後部の機関室囲い左舷壁に同クラッチを連結したロッドを貫通させ,これに取り付けた棒を船尾まで導いてあり,船尾で揚網作業を行いながらの遠隔操作が可能であった。
ウ 大勝丸の漁具
 大勝丸のごち網漁具は,漁網が,幅約70メートル,高さ約10メートルの長方形で,上辺の浮子綱(あばづな)には数百個のフロートを,下辺の沈子綱(ちんじづな)には錘約500個をそれぞれ均等に取り付け,浮子綱及び沈子綱の両端にはロープがブライドルに取られ,これに長さ約700メートルのひき綱がそれぞれ取り付けてあり,全重量は,約300キログラムであった。
エ 大勝丸の漁法
 投網は,右舷側のひき綱端に取り付けたたるを投入し,同ひき綱,漁網,左舷側のひき綱の順に,網口が潮上に向くよう,時計回りに円を描きながら投入し,たるのところに戻ってこれを回収したのち,ひき綱及び漁網の着底を待って,揚網に取り掛かっていた。
 揚網は,船首を潮上に立て,両ひき綱を船尾両舷のドラム形ウインチを介して船橋前部の両舷側にあるロープ捌き機に取り,ひき綱がたるまないよう機関を適宜前進にかけて同ウインチ及び同捌き機を操作して両ひき綱を揃えて巻き,これらを操舵室前方の魚倉に繰り込み,漁網の先端部が船尾端まで揚がったとき,機関を中立とし,船尾に3人が並んで人力により漁網を引き揚げていたので,同作業に約10分を,たるの投入から揚網終了までの1回の操業に約30分を要していた。

3 事実の経過
 クィーン号は,A受審人ほか父及び従業員1人が乗り組み,釣り客18人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,平成16年6月9日05時15分大分港を発し,山口県八島南方の釣り場に向かった。
 05時30分A受審人は,大分港日吉原泊地北防波堤灯台から042度(真方位,以下同じ。)1.5海里の地点に達し,針路を八島南方に向く037度に定め,機関を全速力前進にかけ,18.0ノット(対地速力,以下同じ。)の速力とし,発航時から操舵室にて見張りの補助を行っていた父が前夜の遅くまで飲酒していたことから,同人を操舵室前方の船室で仮眠をとらせ,従業員を甲板上で釣り道具の準備に当たらせ,舵輪後方のいすに腰を掛けて,単独の見張りで自動操舵によって北上した。
 05時40分A受審人は,関埼灯台から307度5.1海里の地点に差し掛かったとき,以前から深刻な悩みごとであった家庭の問題についてふと考え始め,その後,俯(うつむ)いた姿勢となって続航した。
 05時43分半A受審人は,関埼灯台から319度5.3海里の地点に達したとき,正船首830メートルのところに,大勝丸を視認でき,同船が漁ろうに従事していることを示す形象物を表示していなかったものの,自船が大分港を基地として別府湾口を繰り返し航行しており,大勝丸の船型や,停留状態で船尾から漁網が海中に伸びていることも視認できることから,同船がごち網により漁ろうに従事していることが分かる状況であり,その後,同船に向かって衝突のおそれのある態勢で接近したが,依然,俯いた姿勢で考えごとに没頭していて,前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 こうして,A受審人は,停留状態の大勝丸を避けずに進行中,05時45分関埼灯台から324度5.4海里の地点において,クィーン号は,原針路,原速力のまま,その船首が大勝丸の右舷船首部に後方から88度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視界は良好で,日出時刻は05時03分ごろであった。
 また,大勝丸は,B受審人ほか妻と息子の合計3人が乗り組み,船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同日04時10分大分県東国東郡武蔵町の武蔵川河口の係留地を発し,別府湾口の漁場に向かい,同時48分同漁場に至り,漁ろうに従事していることを示す形象物を表示しないまま,ごち網漁を開始した。
 ところで,B受審人は,自船に備えていた汽笛が故障していることを知っていたが,高速で航行する漁船は機関音が大きいので,汽笛を鳴らしても気付かないものと思い,汽笛を吹鳴できるよう整備していなかった。
 05時17分B受審人は,当日2回目の投網を開始したのち,船首を北西に向けてひき綱を巻き終え,同時37分前示衝突地点付近で,漁網の先端が船尾端まで揚がり,船首が南東方を向いたところで,機関を中立として停留状態とし,船尾に3人が並んで漁網の引き揚げを開始し,同時41分半少し過ぎ船首が125度に向首していたとき,右舷船尾88度1.0海里のところに,クィーン号を初認し,大分港の方向から出港した船であることを認めたものの,一瞥(いちべつ)しただけで気に留めることなく揚網を続けた。
 05時43分半B受審人は,クィーン号が,同方位830メートルとなり,その後自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが,初認したとき,接近する他船が揚網中の自船を避けていくものと思い,その後,クィーン号に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,避航の気配を見せずに接近する同船に対し,汽笛不整備により警告信号を行わないまま,揚網を続けた。
 05時45分わずか前B受審人は,ふと右舷正横方向を見て至近に迫ったクィーン号に気付き,衝突の危険を感じて直ちに船尾で共に揚網を行っていた妻と息子に危険を知らせて身を伏せさせ,クラッチ棒を操作して機関を後進に入れ,船体がわずかに後退したところで,船首が125度に向首したまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,クィーン号は,右舷船首外板に破口を生じ,大勝丸は,船首部を切断したが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,別府湾口において,釣り場に向かうクィーン号と漁ろうに従事中の大勝丸とが衝突したものであり,同海域は海上交通安全法の適用海域であるが,同法には本件に対し適用する航法規定が存在しないから,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 大勝丸は,漁ろうに従事していることを示す形象物を表示していなかったものであるが,A受審人に対する質問調書中,「0.5海里ぐらいに近づけば網揚げローラーが見えるので,ごち網漁船と分かり,停まっていたり,低速力であれば網が入っていると思う。」旨の供述記載により,大勝丸の船型や,停留状態で船尾から漁網が海中に伸びていることを視認でき,同船が,漁ろうに従事中であることが分かる状況であったと認められる。すなわち,海上衝突予防法第18条に規定する航行中の動力船と漁ろうに従事中の船舶の関係にあったもので,同条を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 クィーン号
(1)見張りの補助者がいなかったこと
(2)A受審人が,俯いた姿勢で考えごとに没頭していて,見張りを十分に行わなかったこと
(3)A受審人が,大勝丸を避けなかったこと

2 大勝丸
(1)B受審人が,故障して作動不能の汽笛を整備しなかったこと
(2)B受審人が,漁ろうに従事していることを示す形象物を表示していなかったこと
(3)B受審人が,接近する他船が揚網中の自船を避けていくものと思い,動静監視を十分に行わなかったこと
(4)B受審人が,警告信号を行わなかったこと

(原因の考察)
 クィーン号は,見張りを十分に行っていれば,前路で停留して揚網中の大勝丸を視認することができ,同船が漁ろうに従事中の船舶であることが分かり,余裕を持って同船を避けることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,俯いた姿勢で考えごとに没頭していて,見張りを十分に行わなかったこと及び大勝丸を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 また,平素は,父が操舵室にて見張りの補助に当たっていたところ,当時,A受審人が,単独で当直を行うことになったものであるが,深刻な悩みごとを抱えた状況であったとしても,見張りが疎かにならないよう安全運航に努めることは,単独での当直となっても多数の釣り客を乗船させて運航する船長として厳に遵守すべきことに変わりはなく,見張りの補助者がいなかったことは,本件発生の原因とするまでもない。
 一方,大勝丸は,揚網中であり,自船の動作によって衝突を避け得なかったのであるから,クィーン号の動静を十分に監視し,自船に向首したまま避航の気配を見せない同船に対し,警告信号を行う必要があった。
 したがって,B受審人が,故障して作動不能状態の汽笛を整備しなかったこと,接近する他船が揚網中の自船を避けていくものと思い,動静監視を十分に行わなかったこと及び警告信号を行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 B受審人が,漁ろうに従事していることを示す形象物を表示していなかったことは,クィーン号が大勝丸を視認していなかったことから,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正すべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,別府湾口において,クィーン号が,釣り場に向け北上中,見張り不十分で,前路で停留してごち網により漁ろうに従事している大勝丸を避けなかったことによって発生したが,大勝丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,別府湾口において,釣り場に向け北上する場合,停留してごち網により漁ろうに従事している大勝丸を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,俯いた姿勢で考えごとに没頭していて,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,同船に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,クィーン号の右舷船首外板に破口を生じさせ,大勝丸の船首部を切断させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,別府湾口において,停留してごち網により漁ろうに従事中,接近するクィーン号を視認した場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,接近する他船が漁ろうに従事中の自船を避けていくものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,汽笛不整備により警告信号を行うことなく揚網を続けて同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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