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平成16年門審第125号
件名

貨物船昭有丸漁船順福丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年4月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,千手末年,織戸孝治)

理事官
島友二郎

受審人
A 職名:昭有丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:順福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
昭有丸・・・右舷中央部のハンドレールに曲損
順福丸・・・船首部を圧壊及びバルバスバウに亀裂

原因
順福丸・・・動静監視不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
昭有丸・・・停泊当直員を配置しなかったこと,注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は,順福丸が,動静監視不十分で,錨泊中の昭有丸を避けなかったことによって発生したが,昭有丸が,停泊当直員を配置せず,注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月24日03時13分
 別府湾口北部
 (北緯33度21.3分 東経131度39.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船昭有丸 漁船順福丸
総トン数 294トン 4.92トン
全長 50.01メートル  
登録長   10.18メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット  
漁船法馬力数   15
(2)設備及び性能等
ア 昭有丸
 昭有丸は,昭和63年7月に進水した船尾船橋型の液化ガスばら積船で,積載貨物がアセトアルデヒドに限られており,主として,大分,徳山下松及び水島各港間の輸送に従事していた。
 同船の船橋には,エアーホーン及びモーターサイレンが装備され,また,錨泊中の灯火設備として,前部マスト上部に白色全周灯が,同マスト中ほどに船首楼甲板を照射する作業灯が,後部マスト上部に紅色全周灯が,船橋両舷に上甲板を照射する作業灯が,船尾マストの上部に白色全周灯が,それぞれ設置されていた。
イ 順福丸
 順福丸は,昭和54年12月に進水したFRP製漁船で,船体中央部に設けられた操舵室には,舵輪,機関遠隔操縦装置,自動操舵装置,レーダー及びGPSプロッタなどが装備されていた。

3 事実の経過
 昭有丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,平成16年5月21日08時30分大分港に入港し,桟橋で燃料油及び潤滑油を補油したのち,空倉のまま,船首1.60メートル船尾3.00メートルの喫水をもって,同日11時30分同桟橋を発し,12時00分臼石鼻灯台から213度(真方位,以下同じ。)3.7海里の地点に至り,同港での積荷役待機の目的で,水深約20メートルの海底に左舷錨を投下し,錨鎖を3節延出して錨泊した。
 ところで,昭有丸は,引火性可燃液体類であるアセトアルデヒドの輸送に従事している運航状況下にあり,揚荷後であっても貨物タンク内には,貨物ガス及び揚荷困難な少量の貨物液体が残留する危険物積載船であった。
 A受審人は,錨泊後,夜間には,前部マスト上部及び船尾マストの上部に錨泊中であることを示す白色全周灯並びに後部マスト上部に危険物積載船であることを示す紅色全周灯をそれぞれ表示したほか,甲板を照射する作業灯を前部マスト中ほどに1個及び船橋両舷に各1個点灯したが,自船が危険物積載船であり,かつ,別府湾内の各港を出入りする船舶の通航路となる海域に錨泊していたものの,付近に数隻の錨泊船がいたことから,航行中の他船が自船を含めた錨泊船を避けて行くだろうから大丈夫と思い,停泊当直員を配置しなかった。
 同月24日03時11分A受審人は,船首が322度に向首していたとき,右舷正横後30度500メートルのところに,順福丸の白,紅,緑3灯を視認でき,その後,同船が自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近することが分かる状況であったが,停泊当直員を配置しておらず,その報告が得られなかったので,このことに気付かず,同船に対し注意喚起信号を行わなかった。
 こうして,昭有丸は,03時13分臼石鼻灯台から213度3.7海里の地点において,322度に向首していたとき,その右舷中央部に順福丸の船首が後方から60度の角度で衝突した。
 A受審人は,自室で就寝中,衝撃を感じて直ちに昇橋し,順福丸と衝突したことを知り,事後の措置に当たった。
 当時,天候は晴で風力1の北東風が吹き,波浪はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
 また,順福丸は,B受審人ほか1人が乗り組み,船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,同月23日18時00分大分県大神漁港を発し,臼石鼻南東方の漁場に至り,同漁場で底びき網漁を行ったのち,帰港の目的で,翌24日02時43分臼石鼻灯台から143度3.4海里の地点を発進し,同港に向かった。
 発進時,B受審人は,針路を大神漁港港口に向く262度に定め,機関を全速力前進にかけ,8.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,マスト灯,両色灯及び船尾灯をそれぞれ表示したほか,船尾甲板に作業灯4個を点灯し,同甲板上で漁獲物の選別作業を行いながら自動操舵によって進行した。
 03時02分B受審人は,臼石鼻灯台から191度3.0海里の地点に差し掛かり,身体を舷側に寄せ前方を見たとき,正船首1.5海里のところに,白2灯及び紅1灯を表示したほか,数個の作業灯で甲板を照らした昭有丸を初認し,同船が船首を北西方に向けて錨泊中であることを知り,再び漁獲物の選別作業に当りながら続航した。
 03時11分B受審人は,臼石鼻灯台から210度3.6海里の地点に達したとき,昭有丸に500メートルまで近づき,その後同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが,初認したとき,距離が十分にあるので大丈夫と思っていたことから,漁獲物の選別作業に熱中していて,動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,同船を避けずに進行し,順福丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,昭有丸は,右舷中央部のハンドレールに曲損を,順福丸は,船首部を圧壊及びバルバスバウに亀裂を生じたが,のちそれぞれ修理された。

(航法の適用)
 本件は,海上交通安全法が適用される別府湾口北部において,錨泊中の昭有丸と航行中の順福丸とが衝突したものであるが,同法には,錨泊中の船舶と航行中の船舶との航法に関する規定は存在しないから,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 海上衝突予防法上,錨泊中の船舶と航行中の船舶との関係について個別に規定した条文はないから,同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 昭有丸
(1)A受審人が,停泊当直員を配置しなかったこと
(2)注意喚起信号を行わなかったこと

2 順福丸
(1)B受審人が,漁獲物の選別作業に熱中していたこと
(2)B受審人が,距離が十分にあるので大丈夫と思い,動静監視を十分に行わなかったこと
(3)B受審人が,錨泊中の昭有丸を避けなかったこと

(原因の考察)
 順福丸は,前路に錨泊中の昭有丸を認めたのであるから,動静監視を十分に行っていれば,同船に衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり,余裕を持って同船を避けることができたものと認められる。
 したがって,B受審人が,距離が十分にあるので大丈夫と思い,動静監視を十分に行わなかったこと及び錨泊中の昭有丸を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 さらに,B受審人が,漁獲物の選別作業に熱中していたことは,動静監視が不十分となった要因であり,本件発生の原因となる。
 一方,昭有丸は,船員法の規定に基づき定められた航海当直基準III停泊中の当直基準(平成8年12月24日運輸省告示第704号)を遵守し,停泊当直員を配置して周囲の見張りを行っていれば,順福丸が自船に対し衝突のおそれのある態勢で接近してくることに気付き,同船に対して注意喚起信号を行うことにより,衝突のおそれを順福丸に気付かせ,同船に避航の措置をとらせることが可能であり,本件は発生しなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,停泊当直員を配置しなかったこと及び注意喚起信号を行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,別府湾口北部において,順福丸が,漁場から帰航中,動静監視不十分で,前路で錨泊中の昭有丸を避けなかったことによって発生したが,昭有丸が,停泊当直員を配置せず,注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,別府湾口北部において,漁場から帰航中,前路に錨泊中の昭有丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,距離が十分にあるので大丈夫と思い,船尾甲板で漁獲物の選別作業に熱中していて,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,昭有丸の右舷中央部のハンドレールに曲損を,順福丸の船首部を圧壊及びバルバスバウに亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,夜間,別府湾口北部において,積荷役待機の目的で錨泊する場合,自船が危険物積載船で,かつ,出入港船の通航路となる海域に錨泊しているのであるから,停泊当直員を配置すべき注意義務があった。ところが,同人は,付近に数隻の錨泊船がいたことから,航行中の他船が自船を含めた錨泊船を避けて行くだろうから大丈夫と思い,停泊当直員を配置しなかった職務上の過失により,順福丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,同船に対して注意喚起信号を行わないまま錨泊を続けて同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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