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平成17年門審第10号
件名

貨物船第三十三日港丸漁船朝日丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年4月7日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第三十三日港丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:朝日丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三十三日港丸・・・左舷中央後部外板に擦過傷,同部タラップのハンドレールが曲損
朝日丸・・・左舷船首部を圧壊

原因
朝日丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第三十三日港丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,朝日丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る第三十三日港丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第三十三日港丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月17日15時00分
 大分県杵築湾東部

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三十三日港丸 漁船朝日丸
総トン数 696トン 4.99トン
全長   14.50メートル
登録長 52.13メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 第三十三日港丸(以下「日港丸」という。)は,前部甲板上に旋回式ジブクレーンを備えた船尾船橋型貨物船で,A受審人ほか4人が乗り組み,港湾施設建設用の捨石約1,000トンを積載し,船首2.90メートル船尾3.10メートルの喫水をもって,平成16年10月17日07時45分山口県向島の砕石積出し桟橋を発し,大分港住吉泊地に向かった。
 12時00分ごろA受審人は,姫島灯台の南東方4.0海里ばかりの地点で,前直の一等航海士と船橋当直を交替して国東半島の沿岸寄りを南下し,14時42分半臼石鼻灯台から089.5度(真方位,以下同じ。)650メートルの地点で,針路を住吉泊地の沖合に向く218度に定め,引き続き機関を全速力前進にかけ,5.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵によって進行した。
 14時55分A受審人は,臼石鼻灯台から200度1,600メートルの地点に達したとき,左舷船首20度1.0海里のところに,前路を右方に横切る態勢の朝日丸を視認でき,その後同船の方位が変わらず互いに衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,右舷前方に帆走するセールボード数隻がいて,これらの接近状況に見とれ,朝日丸を見落としたまま続航した。
 14時57分半A受審人は,臼石鼻灯台から204度1,960メートルの地点に至ったとき,左舷船首20度900メートルのところに朝日丸を初めて視認し,同船が前路を右方に横切る態勢で接近することを知ったが,自船が保持船であるから接近すれば同船が右転して避航するものと思い,その後再びセールボードの方に視線が移り,これらに見とれて,朝日丸に対する動静監視を行わなかったので,同船と互いに衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行わず,更に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
 15時00分少し前A受審人は,ふと左舷前方を見たとき,近距離に朝日丸を認め,急いで汽笛による短音4回を吹鳴して右舵一杯をとったが,及ばず,15時00分臼石鼻灯台から206度1.27海里の地点において,日港丸は,原針路,原速力のまま,その左舷中央やや後部に朝日丸の左舷船首が前方から32度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北北東風が吹き,視界は良好であった。
 また,朝日丸は,操舵室を中央部に設けたFRP製漁船で,専ら別府湾や国東半島沖合における小型底びき網漁に従事し,昭和50年12月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が単独で乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同月17日05時00分大分県美濃崎漁港を発し,同漁港南方沖合の別府湾東部の漁場に向かった。
 ところで,朝日丸は,操舵室すぐ後方の後部甲板上に漁網の巻き込みが可能なトロールウインチ(以下「ネットウインチ」という。)を備え,同ウインチは,ドラム幅が約1.5メートル,ドラム枠の高さが甲板上約1.3メートルで,その中央部が船体中心線上に置かれて船尾方に向けて設置され,揚網時には,船尾側から長さ約150メートルのワイヤーロープ製の曳網索を,これに連なる長さ約50メートルの合成繊維製の手綱を,更に長さ約25メートルの漁網の袖網から袋網の前端部までをそれぞれ同ドラムに上巻き回転で巻き込んでおり,揚網終了時には網嵩がドラム枠一杯になる状態であった。
 06時00分B受審人は,別府航路第2号灯浮標付近の漁場に至り,同灯浮標の西側海域において,2回の曳網で小あじ及びたちうおなど約40キログラムを漁獲したところで,当日の操業を終えて帰途に就くこととし,14時20分臼石鼻灯台から190度5.9海里の漁場を発進し,針路を006度に定め,機関を全速力前進と半速力前進の中間ぐらいにかけ,約7ノットの速力で,自動操舵によって進行した。
 定針して間もなく,B受審人は,後部甲板で袋網から出した漁獲物の選別及び箱詰め作業を終えたのち,当日,小魚が多く入網したことから,ネットウインチのドラム後方の,甲板上に広げた袋網の上で膝立ちの姿勢をとって同ドラム側に向き,同網前端部の網目に刺さった小魚の取り外し作業にかかり,外した魚が一定量になると選別及び箱詰めなどを行いながら続航した。
 14時50分ごろB受審人は,臼石鼻灯台から196度2.5海里の地点付近に差しかかり,同じ針路及び7.5ノットの速力で進行していたとき,立ち上がって,ネットウインチのドラム及び操舵室の窓越しに前方を一瞥したものの,このとき,右舷前方約2.0海里のところに南下する日港丸が存在したが,これを見落としたまま,再び前と同様の姿勢をとって魚の取り外し作業にかかった。
 14時55分B受審人は,臼石鼻灯台から199度1.9海里の地点に達したとき,右舷船首12度1.0海里のところに前路を左方に横切る態勢の日港丸を視認でき,その後同船の方位が変わらず互いに衝突のおそれがある態勢で接近したが,5分ばかり前に前方を一瞥したとき他船を認めなかったことから,前路に接近する他船はいないと思い,前示作業に熱中し,前路の見張りを十分に行わなかったので,同船の存在も,同船と互いに衝突のおそれがある態勢で接近することにも気付かなかった。
 14時57分半B受審人は,臼石鼻灯台から201.5度1.58海里の地点に達したとき,日港丸が同方位900メートルに接近していたが,依然として見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同船の進路を避けることなく進行中,15時00分わずか前,前方を見張るつもりで立ち上がったとき,眼前に同船の船体を認めたが,何をする間もなく,朝日丸は,前示のとおり,衝突した。
 衝突の結果,日港丸は左舷中央後部外板に擦過傷を生じたほか,同部タラップのハンドレールを曲損し,朝日丸は左舷船首部を圧壊した。

(原因)
 本件衝突は,大分県杵築湾東部において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北上する朝日丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る日港丸の進路を避けなかったことによって発生したが,南西進する日港丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,漁場からの帰港目的で,大分県杵築湾東部を北上する場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,5分ばかり前に立ち上がって前方を一瞥したとき他船を認めなかったことから,前路に接近する他船はいないと思い,後部甲板で膝立ちの姿勢をとって網目に刺さった魚の取り外し作業に熱中し,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する日港丸に気付かず,同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き,日港丸の左舷中央後部外板に擦過傷及び同部タラップのハンドレールに曲損を,朝日丸の左舷船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,大分県杵築湾東部を南西進中,左舷前方に前路を右方に横切る態勢で接近する朝日丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船が保持船であるから接近すれば同船が右転して避航するものと思い,帆走するセールボードに見とれて,朝日丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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