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平成16年門審第131号
件名

貨物船第十八金栄丸貨物船ポクーイ衝突事件
第二審請求者〔理事官 濱田真人〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年4月7日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治,千手末年,寺戸和夫)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:第十八金栄丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
第十八金栄丸・・・右舷船尾部に凹損
ポクーイ・・・左舷船首部外板に破口

原因
第十八金栄丸・・・動静監視不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
ポクーイ・・・警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第十八金栄丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切るポクーイの進路を避けなかったことによって発生したが,ポクーイが,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月26日06時50分
 山口県六連島北方
 (北緯34度01.3分 東経130度50.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十八金栄丸 貨物船ポクーイ
総トン数 1,598トン  
国際総トン数   18,846トン
全長 94.75メートル  
登録長   165.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 10,298キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十八金栄丸
 第十八金栄丸(以下「金栄丸」という。)は,平成5年9月に進水した二層全通甲板を有する船尾船橋型鋼製砂利採取運搬船で,主に九州北部及び瀬戸内海西部の海域で砂利採取運搬に従事しており,船首部に砂利採取用クレーンを備えていたが,船橋からの見張りを妨げる死角はなかった。
イ ポクーイ
 ポクーイ(以下「ポ号」という。)は,1977年に竣工した船尾船橋型の鋼製貨物船で,操舵室には,操舵スタンド,テレグラフ,アルパ機能付きレーダー(以下「アルパ」という。)及びGPSなどが装備されていた。

3 事実の経過
 金栄丸は,B船長及びA受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,船首3.0メートル船尾4.4メートルの喫水をもって,平成16年8月26日02時10分大分県中津港を発し,山口県蓋井島北西方の海砂採取地に向かった。
 金栄丸は,同日早朝,B船長が急病となって関門海峡の西口で下船したことから,臨時に一等航海士が船長に就いてA受審人ほか2人と乗り組み,06時10分山口県彦島の北方わずか沖合を発し,当初の目的地に向かった。
 06時32分少し過ぎA受審人は,六連島灯台から023.5度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点で船橋当直に就き,針路を312度に定め,昇橋してきた機関長を見張りにあたらせ,機関回転数を徐々に上げながら航行していたとき,左舷船首方4海里ばかりのところに,南東方に向いたポ号を初認したが,一瞥しただけで同船は錨泊しているものと思い,その後同船に対する動静監視を行うことなく進行した。
 06時41分半わずか前A受審人は,大藻路岩灯標から089度2.4海里の地点に達したとき,船首少し左方0.8海里ばかりのところに認めていた錨泊中のフェリーを右舷方にかわすため,針路を301度に転じ,機関を全速力前進にかけ10.5ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で続航した。
 転針したとき,A受審人は,前路を左方に横切る態勢のポ号が右舷船首5度2.3海里のところに接近し,その後同船と方位が変わらず,衝突のおそれがある態勢で接近していたが,依然,動静監視を行っていなかったので,このことに気付かず,右転するなどして同船の進路を避けることなく続航中,同時49分わずか前大藻路岩灯標から061度1.5海里の地点で,ふと右舷方を見たとき自船に向首接近するポ号を認め,衝突の危険を感じて,慌てて,左舵一杯をとるとともに機関を極微速力前進とし,その後キックを利用して衝突を避けるつもりで右舵一杯,次いで機関を増速したが及ばず,金栄丸は,06時50分大藻路岩灯標から055度1.3海里の地点において,ほぼ原速力のまま210度を向いたとき,その右舷船尾部にポ号の左舷船首部が,後方から10度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視程は良好であった。
 また,ポ号は,C船長ほか19人(全員ポーランド共和国籍)が乗り組み,フェロアロイ約20,248トンを積載し,船首9.35メートル船尾10.40メートルの喫水をもって,同月22日22時40分中華人民共和国チンタオ港を発し,関門海峡を経由する予定で,千葉港に向かった。
 26日06時30分C船長は,六連島沖合の関門水先区水先人乗船地点到着の時間調整のため,大藻路岩灯標から357度2.0海里の地点で,針路を134度に定め,一等航海士を操船補佐に,甲板長を見張りに,甲板手を手動操舵にそれぞれ就け,機関を極微速力前進にかけ,5.0ノットの速力で進行した。
 06時38分C船長は,大藻路岩灯標から013度1.6海里の地点で,船首少し左方3海里ばかりのところに金栄丸を初認し,同時41分半わずか前同灯標から022.5度1.5海里の地点に達したとき,同船が左舷船首8度2.3海里に接近したところで左転し,前路を右方に横切る態勢となり,その後同船と方位が変わらず,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となった。
 06時43分C船長は,アルパによって金栄丸と衝突のおそれがある態勢で接近することに気付いたが,錨泊中のフェリーをかわすために左転したもので,そのうちに右転するだろうと思い,速やかに警告信号を行わず,右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中,同時45分時間調整のため,機関を6.5ノットの微速力前進に令し,同時46分半大藻路岩灯標から040.5度1.4海里の地点に達したとき,金栄丸が右転しないまま0.9海里ばかりに接近したことを知って,衝突の危険を感じ,右舵一杯をとり,同時47分舵効を良くするため,機関を全速力前進に,同時48分ごろ機関を停止,次いで後進に令したが及ばず,ポ号は,約5ノットの速力で,200度を向首したとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,金栄丸は,右舷船尾部に凹損を生じ,ポ号は,左舷船首部外板に破口を生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,山口県六連島北方において,北西進中の金栄丸と南東進中のポ号の両動力船が,互いに他の船舶の視野の内にある状況の下,互いに進路を横切る態勢で衝突したものであり,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法第15条によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 金栄丸
(1)A受審人がポ号を初認した際,錨泊船と思ったこと
(2)A受審人がポ号に対する動静監視を行わなかったこと
(3)A受審人がポ号の針路を避けなかったこと

2 ポ号
(1)C船長が金栄丸の右転を期待していたこと 
(2)C船長が警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
1 金栄丸が,ポ号を初認した際,同船に対する動静監視を行い,右転するなどして同船の進路を避けていれば,本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,ポ号を一瞥しただけで同船は錨泊していると思い,その後同船に対する動静監視を行わず,右転するなどして同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
2 ポ号が,金栄丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った際,速やかに警告信号を行い,右転するなど衝突を避けるための協力動作をとっていれば,本件は発生していなかったと認められる。
 したがって,C船長が,金栄丸の右転を期待して,警告信号を行わず,右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,山口県六連島北方において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,西行中の金栄丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切るポ号の進路を避けなかったことによって発生したが,ポ号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,山口県六連島北方において,西行中,船首方にポ号を認めた場合,同船との衝突の有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,一瞥して同船は錨泊しているものと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,右転するなどして同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,自船の右舷船尾部に凹損を生じさせ,ポ号の左舷船首部外板に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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