(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月11日12時25分
播磨灘
(北緯34度38.0分 東経134度40.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船八幡丸 |
漁船第1成栄丸 |
総トン数 |
499トン |
4.8トン |
全長 |
70.91メートル |
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登録長 |
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11.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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1,471キロワット |
漁船法馬力数 |
15 |
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3 事実の経過
八幡丸は,鋼製砂利採取運搬船で,A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,船首1.3メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,平成16年3月11日09時30分大阪港を発し,宮崎県細島港に向かった。
A受審人は,出港操船に引き続いて明石海峡を西行し,11時47分ごろ播磨灘北航路第10号灯浮標南方において,無資格のB指定海難関係人に単独で船橋当直を行わせるにあたり,他船の接近に際して自ら操船指揮を執ることができるよう,他船が接近した際には,報告するよう指示を与える必要があったが,船橋当直者の経験が長かったことから,特に航行上の注意を与えるまでもないと思い,針路及び速力を伝えただけで,他船が接近した際に報告するよう指示を与えることなく,降橋した。
B指定海難関係人は,船橋中央に設置された操舵スタンドの後方のいすに腰掛けて見張りにあたり,12時15分上島灯台から180度(真方位,以下同じ。)3.1海里の地点において,針路を271度に定め,機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵によって進行した。
12時22分B指定海難関係人は,上島灯台から202度3.3海里の地点に達したとき,底びき網による漁ろうに従事する第1成栄丸(以下「成栄丸」という。)を右舷船首方に認め,成規の形象物を表示し,南下して接近する状況を知ったが,A受審人から他船が接近した際の報告について指示を受けていなかったので,その状況を船長に報告することなく,単独で船橋当直を行っていたことから,接近する成栄丸の前方を替わした方がよいと思い,手動操舵に切り換え,針路を261度とし,成栄丸を右舷船首22度1,100メートルのところに認めて続航した。
12時23分八幡丸は,同一方位のまま680メートルとなった成栄丸と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,食事をしていたA受審人は,接近する成栄丸の報告を得られず,自ら操船指揮を執ることができないまま,この状況に気付かず,同船の進路を避けることなく進行した。
12時25分少し前,B指定海難関係人は,至近に迫った成栄丸の船首が自船の船尾に衝突する危険を感じ,慌てて左舵一杯としたが及ばず,八幡丸は12時25分上島灯台から210度3.7海里の地点において,船首が240度を向いたとき,原速力のまま,成栄丸の船首が八幡丸の右舷船尾に後方から72度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力2の南西風が吹き,海上は穏やかで視界はよく,潮候は上げ潮の末期であった。
また,成栄丸は,小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で,船長C(一級小型船舶操縦士免状を受有し,受審人として指定されていたが,死亡したため指定を取り消された。)が1人で乗り組み,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日11時10分兵庫県妻鹿漁港を発し,同漁港南方5海里の地点に至り,操業を開始した。
C船長は,漁ろうに従事していることを示す鼓型の形象物を掲げ船尾から200メートルのワイヤロープを延出し,先端にソリ状の鉄板を付けた網を引くまんが漁と称する,底引き網漁を始め,12時15分上島灯台から218度3.2海里の地点において,針路を168度に定めて自動操舵とし,機関回転数毎分2,400の全速力前進にかけ4.0ノットの速力で進行した。
このとき,C船長は,左舷船首61度2.1海里のところに西行する八幡丸を認めたものの,自船の後方を替わすものと思い,その後,船尾甲板に移動して船尾方を向いて座り,漁獲物の選別に取りかかった。
12時22分C船長は,上島灯台から213度3.5海里の地点に達したとき,左舷船首71度1,100メートルに八幡丸を認めることができたが,漁獲物の選別作業に専念し,見張り不十分で,これに気付かず続航した。
12時23分C船長は,同一方位のまま680メートルとなった八幡丸と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,依然,見張り不十分で,この状況に気付かず,警告信号を行うことも,同船が間近に接近したとき,機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
12時25分わずか前C船長は,八幡丸の機関音を聞き,船首方を振り返ったとき,至近に迫った八幡丸の右舷中央部を認めたものの,どうすることもできず,成栄丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,八幡丸は右舷船尾舷梯に凹損等を生じ,成栄丸は船首部及び漁労設備の一部を損傷した。
(原因)
本件衝突は,播磨灘北東部において,西行中の八幡丸が,動静監視不十分で,漁ろうに従事している成栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,成栄丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
八幡丸の運航が適切でなかったのは,船長が無資格の船橋当直者に対し接近する他船を認めた際に報告することの指示が不十分であったことと船橋当直者が接近する他船を認めた際,船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人が,播磨灘北東部を西行中,無資格者に単独で船橋当直を行わせる場合,他船が接近した際に自ら操船指揮を執ることができるよう,他船が接近した際に報告するよう指示を与えるべき注意義務があった。しかるに同人は,無資格の甲板員が船橋当直の経験が長かったから特に航行上の注意を与えるまでもないと思い,他船が接近した際に報告するよう指示を与えなかった職務上の過失により,船橋当直者から接近する成栄丸を認めた際の報告が得られず,同船の進路を避けずに進行して成栄丸との衝突を招き,八幡丸の右舷船尾舷梯に凹損等を,成栄丸の船首部及び漁労設備の一部に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が,播磨灘北東部を単独で船橋当直中,右舷船首方に接近する成栄丸を認めた際,船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,勧告しない。