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 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年横審第2号
件名

漁船第十八甚昇丸漁船第五清洋丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年4月27日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂)

理事官
河野 守

受審人
A 職名:第十八甚昇丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第五清洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十八甚昇丸・・・船尾楼甲板及びブルワーク等を圧壊
第五清洋丸・・・右舷船首外板に破口等

原因
第五清洋丸・・・居眠り運航防止措置不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
第十八甚昇丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第五清洋丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,漁ろうに従事している第十八甚昇丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第十八甚昇丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月12日05時35分
 三重県長島大島南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八甚昇丸 漁船第五清洋丸
総トン数 19.75トン 17.0トン
全長 21.90メートル 22.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 132キロワット 625キロワット

3 事実の経過
 第十八甚昇丸(以下「甚昇丸」という。)は,沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和50年12月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか4人が乗り組み,操業の目的で,船首0.8メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,平成16年3月12日02時00分三重県長島港を発し,同港南東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は,長島港南東方5ないし6海里沖合を北東から南西にかけて魚群探索を行った後,魚群を認めた長島大島灯台の南東方4海里付近で1回目の操業を行うこととし,投網に引き続き,約1,800メートルの引綱を延出し,05時32分同灯台から139度(真方位,以下同じ。)3.8海里の地点で,針路を085度に定めて手動操舵とし,機関を半速力前進にかけ,1.5ノットの対地速力で曳網(えいもう)を始めた。
 A受審人は,操舵スタンドの前に立った姿勢で見張りに当たり,鼓型形象物を操舵室マスト上部に掲げ,動力船の灯火に加えて同マスト上に黄色回転灯を点灯したものの,漁ろうに従事していることを示す灯火を表示することなく曳網し,定針したとき右舷船尾52度1,480メートルに,第五清洋丸(以下「清洋丸」という。)の灯火を視認でき,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,前方の操業漁船と接近しないよう,船首方を見張ることに気を取られ,右舷船尾方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま,警告信号を行わず,更に間近に接近してからも機関を停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもしないで続航中,05時35分長島大島灯台から138度3.9海里の地点において,甚昇丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船尾に清洋丸の船首が,後方から46度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の北西風が吹き,視界は良好で,日出時刻は06時10分であった。
 また,清洋丸は,4隻で編成する中型まき網船団の探索と漁獲物運搬に従事するFRP製漁船で,B受審人(平成5年1月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.8メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,同月11日17時00分三重県奈屋浦漁港を発し,新宮市沖合5海里ほどの漁場に向かい,22時ごろ目的の漁場に至って操業後,翌12日04時10分猪ノ鼻灯台から187度5.6海里の漁場を発進して帰航の途に就いた。
 ところで,B受審人は,毎日夕刻出航して操業後,翌朝8時ころの市場に合わせて帰航することから,昼前に寝て16時30分に起床する昼夜逆転の生活を送っており,睡眠時間は5ないし6時間と短く,当日が週に1度の休みの日で,それまで連日の出漁で疲労が蓄積していた。
 B受審人は,正規の灯火を掲げ,操舵室左舷側の窓際に設置した背もたれ付きのいすに腰を掛けて同窓を開け,甲板員を操舵室後部の畳敷きの部屋で休ませ,04時35分三木埼灯台から211度6.2海里の地点に達したとき,針路を神前湾口の見江島に向首する039度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて17.0ノットの対地速力で進行した。
 B受審人は,04時56分三木埼灯台から143度0.8海里の地点に達したころ,それまで連日の出漁で疲労が蓄積していたことから眠気を催したが,まさか居眠りすることはないと思い,甲板員を起こして2人で当直に就くなどの居眠り運航の防止措置をとることなく,同じ針路,速力で続航中,いつしか居眠りに陥った。
 こうしてB受審人は,05時32分長島大島灯台から150度4.1海里の地点に達したとき,左舷船首6度1,480メートルに甚昇丸を認めることができ,同船の掲げる灯火及び停止に近いような極めて遅い速力や船型から,付近一帯で見かける曳網して漁ろうに従事中の漁船と分かる状況で,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,居眠りしていてこのことに気付かず,同船の進路を避けないまま続航中,05時35分清洋丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,甚昇丸は船尾楼甲板及びブルワーク等を圧壊し,清洋丸は右舷船首外板に破口等を生じたが,のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は,夜間,三重県長島大島沖合において,北上する清洋丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,曳網して漁ろうに従事している甚昇丸の進路を避けなかったことによって発生したが,甚昇丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,三重県長島大島沖合において,同県奈屋浦漁港に向け帰航中,眠気を催した場合,連日の出漁で疲労が蓄積していたから,居眠り運航とならないよう,甲板員と2人で当直に就くなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠り運航となり,甚昇丸の進路を避けないまま進行して衝突を招き,同船の船尾ブルワーク等を圧壊し,清洋丸の船首外板に破口等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,夜間,三重県長島大島沖合において底びき網を曳いて漁ろうに従事する場合,接近する清洋丸を見落とすことのないよう,右舷船尾方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船首方の見張りに気を取られ,船尾方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,接近する清洋丸に気付かないまま,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらずに曳網を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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