(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月3日01時00分
北海道落石岬南東方沖合
(北緯42度48.7分東経146度00.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第三十六功晶丸 |
漁船第三十一幸進丸 |
総トン数 |
4.9トン |
4.4トン |
全長 |
14.5メートル |
12.3メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
323キロワット |
213キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第三十六功晶丸
第三十六功晶丸(以下「功晶丸」という。)は,平成3年10月に進水した,流し網漁業などに従事する中央船橋型FRP製漁船で,操舵室にはレーダー1台,GPSプロッタ及び魚群探知機が装備されていた。
イ 第三十一幸進丸
第三十一幸進丸(以下「幸進丸」という。)は,平成3年5月に進水した,流し網漁業などに従事する中央船橋型FRP漁船で,操舵室にはレーダー1台,GPSプロッタ及び魚群探知機が装備されていた。
3 事実の経過
功晶丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,さんま流し網漁業の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成15年8月2日10時00分北海道歯舞漁港を発し,同漁港南東方約30海里の漁場に向かった。
A受審人は,12時ごろ漁場に到着して2回操業したのち,魚群探索を行い,22時00分北方に向かって投網を始め,22時15分落石岬灯台から135度(真方位,以下同じ。)30海里ばかりの地点で,全長810メートルの網の投入を終え,同網を3時間ほど流すこととし,網の北端にロープをとって船首に係止し,黄色回転灯,紅色全周灯,白色全周灯,両舷灯及び船尾灯のほかに作業灯2個を点灯し,機関を中立運転として漂泊を開始した。
A受審人は,単独の船橋当直に就いたものの,間もなく床に横になり,たまに立ち上がってレーダー画面を見たりしていたところ,翌3日00時30分ごろ,霧が濃くなって視程が350メートルほどに狭められたことを認めたが,霧中信号を行わず,レーダーに他船の映像を認めなかったことから,船首が風に立って北東を向首した状態で漂泊を続けた。
00時51分半わずか前A受審人は,床に横になっていたとき,左舷船尾85度2.0海里のところに幸進丸をレーダーで探知でき,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,周囲に他船はいないものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかったので,これに気付かず,幸進丸に対して汽笛を連吹するなどの注意を喚起するための措置をとることなく漂泊中,功晶丸は,01時00分落石岬灯台から134.5度29.9海里の地点において,045度を向首していたとき,その左舷中央部に幸進丸の船首部が後方から85度の角度で衝突した。
当時,天候は霧で風力2の北東風が吹き,視程は約350メートルであった。
また,幸進丸は,B受審人が単独で乗り組み,さんま流し網漁業の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同月2日22時30分北海道落石漁港を発し,同漁港南東方40海里の漁場に向かった。
ところで,この時期の幸進丸は,前夜半に出港し,深夜から未明にかけて操業を行い,09時ごろ入港して水揚げすることを繰り返し,B受審人は疲労が蓄積した状態となっていた。
B受審人は,航行中の動力船が掲げる灯火を表示し,23時05分落石岬灯台から169.5度3.8海里の地点に達したとき,針路を130度に定め,機関を全速力前進にかけ,14.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,自動操舵により進行した。
翌3日00時40分B受審人は,落石岬灯台から135.5度25.3海里の地点に至り,霧により視程が350メートルばかりに狭められたことを認めたが,霧中信号を行うことも,安全な速力とすることもなく続航した。
このときB受審人は,3海里レンジとしたレーダーに前路の他船映像を認めなかったことから安堵し,船橋左舷後部後壁に寄りかかってあぐらをかいた姿勢となったところ,連日の操業の疲れから,眠気を覚えたが,コーヒーを飲んだので眠ることはあるまいと思い,窓を開けて外気に当たるなり,立って当直するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく進行し,前方のレーダー画面を見ているうち,間もなく居眠りに陥った。
00時51分半わずか前B受審人は,落石岬灯台から135度27.9海里の地点に達したとき,漂泊中の功晶丸のレーダー映像を正船首2.0海里に探知でき,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,居眠りしてこれに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することもなく続航中,幸進丸は,原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,功晶丸は,左舷中央部に破口などを,幸進丸は,船首部に破口などをそれぞれ生じた。
(航法の適用)
本件衝突は,霧により視界制限状態にある水域において,航行している幸進丸と漂泊している功晶丸とが衝突したものであり,両船が互いに他の船舶の視野の内になかったことから,海上衝突予防法第19条の視界制限状態における船舶の航法が適用される。
(本件発生に至る事由)
1 功晶丸
(1)A受審人が,霧中信号を行わなかったこと
(2)A受審人が,床に横になり,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(3)A受審人が,幸進丸に対し注意を喚起するための措置をとらなかったこと
2 幸進丸
(1)B受審人が,霧中信号を行わなかったこと
(2)B受審人が,船橋左舷後部後壁に寄りかかってあぐらをかいた姿勢となり,眠気を覚えた際,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(3)B受審人が,居眠りに陥ったこと
(4)安全な速力としなかったこと
(5)功晶丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つ最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと
3 気象
(1)衝突地点付近が霧により視界制限状態となっていたこと
(原因の考察)
幸進丸が,霧中信号を行い,船橋当直者が眠気を覚えた際,居眠り運航の防止措置をとってレーダーによる見張りを十分に行い,安全な速力とし,功晶丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つ最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを停止していれば,本件衝突は回避できたものと認められる。
したがって幸進丸においては,B受審人が,霧中信号を行わなかったこと,船橋左舷後部後壁に寄りかかってあぐらをかいた姿勢となり,眠気を覚えた際,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと,居眠りに陥ってレーダーによる見張りを十分に行わなかったこと,安全な速力としなかったこと及び功晶丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つ最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを停止しなかったことは,本件発生の原因となる。
他方,功晶丸が,霧中信号を行うとともにレーダーによる見張りを十分に行い,幸進丸に対して注意を喚起するための措置をとっていれば,同船がこれに気付き,本件衝突は回避できたものと考えられる。
したがって功晶丸においては,A受審人が,霧中信号を行わなかったこと,床に横になり,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと及び幸進丸に対して注意を喚起するための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
衝突地点付近が霧により視界制限状態となっていたことは,日常発生する天候現象の一つであって,このような環境状況の航法として海上衝突予防法第19条が規定されているのであり,原因との関連を求める理由がなく,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,霧により視界が制限された北海道落石岬南東方沖合において,南下する幸進丸が,霧中信号を行わず,安全な速力としなかったばかりか,居眠り運航の防止措置が不十分で,漂泊中の功晶丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを停止しなかったことによって発生したが,功晶丸が,霧中信号を行わず,レーダーによる見張り不十分で,幸進丸に対して注意を喚起するための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,夜間,霧により視界が制限された北海道落石岬南東方沖合において,単独漁場向け南下中,眠気を覚えた場合,窓を開けて外気に当たるなり,立って当直するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,コーヒーを飲んだので眠ることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,船橋左舷後部後壁に寄りかかってあぐらをかいた姿勢となって居眠りに陥り,漂泊中の功晶丸に著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも,また,必要に応じて行きあしを停止することもなく進行して衝突を招き,功晶丸の左舷中央部に破口などを,幸進丸の船首部に破口などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は,夜間,霧により視界が制限された北海道落石岬南東方沖合において,漂泊中の当直に当たる場合,接近する幸進丸を探知できるよう,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,周囲に他船はいないものと思い,床に横になり,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,幸進丸の接近に気付かず,同船に対して汽笛を連吹するなど,注意を喚起するための措置をとらないまま同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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