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平成16年第二審第29号
件名

油送船第二伊都丸押船第一邦栄丸被押バージ第一邦栄衝突事件
[原審・横浜]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年5月27日

審判庁区分
高等海難審判庁(上野延之,安藤周二,上中拓治,竹内伸二,長谷川峯清)

理事官
東 晴二

受審人
A 職名:第二伊都丸甲板員 海技免許:六級海技士(航海)
B 職名:第一邦栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

第二審請求者
理事官 松浦数雄

損害
第二伊都丸・・・右舷船首部外板に凹損
第一邦栄丸・・・船首部に凹損

原因
第二伊都丸・・・船員の常務(新たな衝突の危険)不遵守(主因)
第一邦栄丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第二伊都丸が,無難に航過する態勢の第一邦栄丸被押バージ第一邦栄に対し,左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが,第一邦栄丸被押バージ第一邦栄が衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月7日20時56分
 京浜港東京区第3区
 (北緯35度35.2分東経139度47.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船第二伊都丸  
総トン数 112トン  
全長 37.31メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 404キロワット  
船種船名 押船第一邦栄丸 被押バージ第一邦栄
総トン数 19トン 264トン
全長 12.85メートル 40.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 809キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第二伊都丸
 第二伊都丸(以下「伊都丸」という。)は,平成5年11月に進水し,平水区域を航行区域とする最大とう載人員が4人の,一層甲板船尾船橋型鋼製油送船で,専ら東京湾内における軽油等の輸送に従事していた。
 船体は,船首から順に,1番及び2番各バラストタンク,1番から3番までの各貨物油タンク,機関室とその両舷に燃料タンク及び4番と5番各バラストタンク並びに舵機室となっており,機関室上部に船橋があった。
 船橋には,前部中央に主機遠隔操縦装置を設け,同装置に操舵輪,その上方にマグネットコンパス,その右舷側に主機計器盤,主機回転数制御のスロットルレバー及び前後進切替用のクラッチレバーをそれぞれ装備し,同室前部の天井右舷寄りに舵角指示器を設けていた。
 本件発生当時,眼高が約3.5メートル及び船橋前壁から船首端までの距離が約27メートルで,操舵位置から前方の視界を遮るものは,何もなかった。
イ 第一邦栄丸
 第一邦栄丸(以下「邦栄丸」という。)は,平成9年2月に進水し,平水区域を航行区域とする最大とう載人員が3人の,2機2軸船首船橋型鋼製押船で,専ら隅田川を含めた東京湾内で被押バージ第一邦栄とともに砂利等の輸送に従事していた。
 船体は,船首から約2.5メートル後方の中央部甲板下に機関室があり,機関室上部甲板に,河川に架かる橋梁下を通航できるよう昇降可能な船橋とその上部に起倒式マストを設け,船橋上部両舷にサーチライト各1個を備え,船首部にアーティカップル式嵌合装置を装備し,船首部外板に被押バージとの緩衝装置としてゴムタイヤフェンダーを備えていた。
ウ 第一邦栄
 第一邦栄(以下「邦栄」という。)は,平成9年に進水した264トン積み非自航式の鋼製バージで,船首部,船体中央及び船尾各部両舷にそれぞれバラストタンク並びに船体中央の大部分に荷倉を設けていたが,マストや灯火設備を設けていなかった。また,造船所に入渠する際を除き,邦栄丸と全長47メートルの押船列(以下「邦栄丸押船列」という。)をなしていた。

3 事実の経過
 伊都丸は,船長C及びA受審人ほか2人が乗り組み,空槽のまま,船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成15年4月7日19時00分横須賀港を発し,京浜港東京区第3区大井ふ頭その2に所在する係留地に向かった。
 C船長は,発航したのち船橋当直(以下「当直」という。)に当たり,京浜港の港界にほぼ沿って北上し,19時50分鶴見航路沖合に達したとき,食事を摂った(とった)のち船橋前方の甲板上で係船準備に当たるため,A受審人に当直を引き継いで降橋した。
 A受審人は,航行中の動力船が掲げる灯火と危険物積載船であることを示す紅色の全周灯とを表示し,大井ふ頭その2の南東端沖合の東京西航路に差し掛かったが,大型船の通航の邪魔になると考え,同航路を航行せず,その西側の航路外を北上した。
 20時53分A受審人は,西防波堤灯台から142度(真方位,以下同じ。)678メートルの地点で,針路を西防波堤北東端と7号灯浮標との間に向かう330度に定め,機関を港内全速力前進にかけ,9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,手動操舵により進行した。
 20時53分少し過ぎA受審人は,西防波堤灯台から141度608メートルの地点に差し掛かったとき,船首少し左方1,390メートルのところに邦栄丸押船列の表示する緑及び白2灯を視認し,その後互いに左舷を対して航過する態勢で続航した。
 20時55分半A受審人は,係留地に向かう西防波堤灯台から045.5度102メートルの予定転針地点に達したとき,互いに接近するも邦栄丸押船列と左舷を対して無難に航過する態勢であったが,自船が左転をすれば,同押船列も左転をし,互いに右舷を対して航過することができるものと思い,同押船列の航過を待つことなく,係留地に向けて左転を始め,同押船列に対して新たな衝突の危険のある関係を生じさせて進行した。
 20時56分少し前A受審人は,邦栄丸押船列が至近に迫ったのを認め,衝突の危険を感じ,左舵一杯,機関を全速力後進としたが及ばず,20時56分西防波堤灯台から347度150メートルの地点において,伊都丸は,295度に向首したとき,原速力のまま,その右舷船首部に邦栄丸押船列の船首が前方から82度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の南南西風が吹き,潮候は下げ潮の初期で視界は良好であった。
 また,邦栄丸は,B受審人ほか1人が乗り組み,砂利650トンを積載して船首尾とも3.2メートルの等喫水となった邦栄の船尾凹部に,船首部を嵌合して邦栄丸押船列を構成し,大井ふ頭その2の南方に錨泊する目的で,船首1.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,同日18時45分隅田川沿いの東京都足立区小台を発し,錨地に向かった。
 B受審人は,発航したのち当直に当たり,航行中の動力船が掲げる灯火を表示して隅田川を南下し,京浜港東京区第3区に入って東京西航路に接近したが,大型船と同航路内で行き会うことを避けるため,同航路を航行せず,その西側の航路外を南下した。
 20時53分少し過ぎB受審人は,西防波堤灯台から328度763メートルの地点で,針路を西防波堤北東端と7号灯浮標との間に向かう141度に定めて自動操舵とし,機関を港内全速力前進にかけて7.5ノットの速力で進行した。
 定針したとき,B受審人は,0.75海里レンジに設定したレーダー画面外周の船首少し右方1,390メートルのところに伊都丸の映像を初めて探知し,同船の紅及び白2灯を視認して手動操舵に切り替え,その後同船と互いに左舷を対して無難に航過する態勢で続航した。
 20時55分半B受審人は,西防波堤灯台から344度255メートルの地点に達したとき,伊都丸が左転を開始し,その後自船と新たな衝突の危険のある関係が生じているのを認めたが,伊都丸に向かって船橋前面窓枠の左舷側上部付近に設置してあるサーチライトの点滅を数回したので,伊都丸が自船に気付いて右転して避けるものと思い,機関を全速力後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらないで進行した。
 20時56分少し前B受審人は,依然互いに左舷を対して航過しようとしていたところ,自船を避けることなく至近に迫った伊都丸を認めて衝突の危険を感じ,再度サーチライトの点滅をさせ,右舵一杯として機関を全速力後進としたが及ばず,邦栄丸押船列は197度に向首したとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,伊都丸は,右舷船首部外板に凹損を,邦栄は,船首部に凹損をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,京浜港東京区第3区東京西航路西側の外側海域において,北上する伊都丸と南下する邦栄丸押船列とが,西防波堤北東端付近で衝突した事件であり,港則法を適用する海域であるが,その適用航法について検討する。
 伊都丸及び邦栄丸押船列は,東京西航路を航行する義務があったが,伊都丸及び邦栄丸押船列とも航路外を航行していたので,港則法第12条の適用はない。
 更に,本件発生地点付近は港内の防波堤の入口付近であるが,南北に長い水路で航路が定めてあり,入航船及び出航船とも西防波堤付近で航行が制限されるような海域となっていないことから,同法第15条の適用はない。また,伊都丸及び邦栄丸押船列は見合い関係発生時から互いに存在を認めており,防波堤付近で出会い頭に衝突したものでないことから同法第17条の適用はない。
 よって,港則法に適用する規定がないことから一般法である海上衝突予防法の規定を適用するが,伊都丸が左転をするまでは,互いに接近するも無難に航過する態勢であったと認めることから該当する航法がないので,同法第38条及び第39条を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 伊都丸
(1)航路を航行しなかったこと
(2)左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたこと
(3)本件発生海域の航行に慣れていたこと

2 邦栄丸押船列
(1)航路を航行しなかったこと
(2)行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)

 本件は,伊都丸が西防波堤北東端を替わった地点で,左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせなかったら,発生していなかったと認められる。
 したがって,伊都丸が左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことは本件発生の原因となる。
 伊都丸が航路を航行しなかったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 また,A受審人が本件発生海域の航行に慣れていたことは,本件発生の原因とならない。
 一方,邦栄丸押船列は,伊都丸が左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせて接近したとき,行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとっていれば,本件が発生していなかったと認められる。
 したがって,邦栄丸押船列が衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 邦栄丸押船列が航路を航行しなかったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,京浜港東京区第3区の西防波堤付近において,伊都丸が,無難に航過する態勢の邦栄丸押船列に対し,左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが,邦栄丸押船列が衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,京浜港東京区第3区の西防波堤北東端を替わって係留地に向けて左転をする際,前方に互いに左舷を対して無難に航過する態勢の邦栄丸押船列を認めた場合,係留地に向けると同押船列と新たな衝突の危険のある関係を生じさせるおそれがあったから,無難に航過できるよう,同押船列が航過するまで左転を待つべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船が左転をすれば,同押船列も左転をし,互いに右舷を対して航過することができるものと思い,同押船列が航過するまで左転を待たなかった職務上の過失により,新たな衝突の危険のある関係を生じさせ,同押船列との衝突を招き,伊都丸の右舷船首部外板及び邦栄の船首部に,それぞれ凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,京浜港東京区第3区の西防波堤付近において,左舷を対して無難に航過する態勢の伊都丸が前路で左転をし,新たな衝突の危険のある関係を生じさせたのを認めた場合,衝突の危険が切迫していたから,これを回避できるよう,機関を全速力後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,伊都丸に向かって船橋前面窓枠の左舷側上部付近に設置してあるサーチライトの点滅を数回したので,伊都丸が自船に気付いて右転して避けるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,右転して伊都丸との衝突を招き,伊都丸と邦栄に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成16年7月22日横審言渡
 本件衝突は,防波堤の突端を左舷に見る第二伊都丸が,できるだけこれに遠ざかって航行しなかったばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,第一邦栄丸被押バージ第一邦栄が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。


参考図
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