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平成16年第二審第31号
件名

貨物船聖麗丸遊漁船第八大龍丸衝突事件
[原審・仙台]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年4月21日

審判庁区分
高等海難審判庁(上中拓治,上野延之,平田照彦,竹内伸二,坂爪 靖)

理事官
工藤民雄

受審人
A 職名:聖麗丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第八大龍丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

第二審請求者
理事官 西山烝一

損害
聖麗丸・・・ない
第八大龍丸・・・両舷中央部外板に破口,右舷船尾ブルワーク等を破損,のち廃船,船長及び釣客が,溺水と低体温で入院加療

原因
聖麗丸・・・狭視界時の航法(信号,レーダー,速力等)不遵守(主因)
第八大龍丸・・・狭視界時の航法(信号,レーダー等)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,聖麗丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが,第八大龍丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月29日08時45分
 金華山北東方沖合
 (北緯38度19.2分東経141度35.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船聖麗丸 遊漁船第八大龍丸
総トン数 446トン 3.4トン
全長 68.30メートル 10.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 106キロワット
(2)設備及び性能等
ア 聖麗丸
 聖麗丸は,平成7年3月に進水した限定沿海区域を航行区域とする二層甲板の船尾船橋型砂利採取運搬船で,船首部にジブクレーン1基を備え,船橋から船首端までの距離は52.5メートルであった。操舵室には前面中央にマグネットコンパス,その右舷側にGPSプロッターが設けられ,前部中央にジャイロ組込型操舵スタンドがあり,同スタンドの右舷側に遠隔操縦装置,同左舷側にレーダー2台が設けられ,前壁上部には右舷側から風向・風速計,舵角指示器及び時計がそれぞれ設けられていた。
 海上試運転成績書によれば,右旋回及び左旋回したときの旋回径は約152メートル及び約150メートルで,11.64ノットの全速力前進中,全速力後進発令から船体停止までに要する時間は1分34.9秒であった。
イ 第八大龍丸
 第八大龍丸(以下「大龍丸」という。)は,昭和63年10月に進水した最大とう載人員11人のFRP製小型遊漁兼用船で,船体中央からやや後方に操舵室が設けられ,同室内には磁気コンパス,レーダー,GPSプロッター及び魚群探知器がそれぞれ設けられていた。また,船尾のスパンカー用マスト頂部には一辺が30センチメートルの,正方形のアルミ板を十字に組み合わせたレーダー反射板が備えられていた。

3 事実の経過
 聖麗丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,砕石1,306トンを積載し,船首3.4メートル船尾4.4メートルの喫水をもって,平成15年5月29日07時45分宮城県女川港を発し,同県仙台塩釜港に向かった。
 A受審人は,出港操船に続いて単独の船橋当直に就き,早崎水道を南下し,08時15分早埼灯台から101度(真方位,以下同じ。)800メートルの地点で,針路を金華山の大函埼東方沖合に向く153度に定め,機関を全速力前進にかけ,そのころ霧模様で視程が約1海里に狭められて視界制限状態となったが,霧中信号を行うことも,安全な速力とすることもなく,レーダーを2台作動させ,法定灯火を表示して10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵によって進行した。
 08時30分ごろA受審人は,大函埼北北西方約3.6海里の地点で,次席一等航海士が食事交替のため昇橋してきたが,視界が急激に悪化し,視程が約100メートルとなり,金華山付近海域には日頃はえ縄漁船などが出漁していることを知っていたので,食事をとらずにそのまま在橋し,同航海士を3海里レンジで中心を後方に移動したオフセンター表示にしたレーダー画面の監視にあたらせ,自らは1.5海里レンジで同表示にしたレーダー画面の監視を行い,依然霧中信号を行わず,安全な速力としないまま続航した。
 08時39分少し過ぎA受審人は,金華山灯台から002度3.5海里の地点に達したとき,レーダーで正船首1.0海里のところに漂泊している大龍丸の映像を探知でき,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,レーダーの海面反射抑制,ゲインなどの調整やレンジの切り換えを適切に行うほか,船首輝線を一時消してこれと重なる他船の有無を調べるなど,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので,この状況に気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
 08時42分半A受審人は,大龍丸まで810メートルに接近したものの,依然レーダーによる見張り不十分で,大龍丸の存在に気付かないまま続航中,08時45分金華山灯台から013度2.7海里の地点において,聖麗丸は,原針路,原速力のまま,その船首が大龍丸の右舷中央部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時,天候は霧で風力1の南風が吹き,潮候はほぼ低潮時で,視程は約100メートルであった。
 A受審人は,右舷側至近に転覆している大龍丸を視認し,海上保安部に通報したのち,船首材と右舷錨にペイントが付着しているのを認めて自船が衝突したことを知り,事後の措置にあたった。
 また,大龍丸は,B受審人が1人で乗り組み,釣客1人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同日06時00分宮城県鮫ノ浦漁港を発し,金華山東方沖合の釣場に向かった。
 06時40分B受審人は,大函埼東方約1海里の釣場に到着し,船尾にスパンカーを展張して漂泊し,霧のため視程が約1海里に狭められて視界制限状態となったので,操舵室上部のマスト頂部に黄色回転灯を点灯したものの,法定灯火を表示しないまま,レーダーを作動し,0.75海里レンジとして遊漁を開始した。
 B受審人は,釣果がなかったので,北方へ移動して遊漁を行ったのち,08時35分前示衝突地点付近に至り,機関を中立としてスパンカーを展張した状態で漂泊を始めたところ,視界が急激に悪化し,視程が約100メートルとなり,同地点付近が一般船舶の通常通航する海域であったが,レーダーを監視することも,有効な音響による霧中信号を行うこともなく,遊漁を続けた。
 08時39分少し過ぎB受審人は,船首が233度を向いた状態で,操舵室左舷側の窓から顔を出し,左舷中央部で釣りをしている釣客の様子を見ていたとき,右舷正横後10度1.0海里のところに聖麗丸のレーダー映像を探知でき,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,魚が釣れている最中で,釣客の釣竿の先を見ることに気をとられ,レーダーによる見張りを十分に行わなかったので,この状況に気付かず,同船に対し,有効な音響による注意喚起信号を行わずに漂泊を続け,大龍丸は,船首が233度を向いて前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,聖麗丸には,損傷を生じなかったが,大龍丸は,両舷中央部外板に破口を生じたほか,右舷船尾ブルワーク等を破損して転覆し,僚船により鮫ノ浦漁港に曳航されたが,のち修理不能で廃船となった。また,B受審人及び釣客Cは,転覆した大龍丸の船底に這い上がっていたところ,海上保安部のヘリコプターにより救助されたが,溺水と低体温で入院加療を受けた。

(航法の適用)
 本件は,霧のため視程が約100メートルの視界制限状態となった金華山北東方沖合において,南下中の聖麗丸と漂泊中の大龍丸とが衝突したもので,海上衝突予防法第19条視界制限状態における船舶の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 聖麗丸
(1)聖麗丸が,霧中信号を行わなかったこと
(2)聖麗丸が,安全な速力としなかったこと
(3)A受審人が,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(4)A受審人が,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこと

2 大龍丸
(1)大龍丸が,法定灯火を表示しなかったこと
(2)大龍丸が,有効な音響による霧中信号を行わなかったこと
(3)B受審人が,釣客の釣竿の先を見ることに気をとられ,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(4)B受審人が,有効な音響による注意喚起信号を行わなかったこと

3 気象等
 衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたこと

(原因の考察)
 聖麗丸が,霧のため視界制限状態となった金華山北東方沖合を南下中,霧中信号を行い,安全な速力とし,レーダーによる見張りを十分に行い,更に,大龍丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止めていたなら,本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,聖麗丸が,霧中信号を行わなかったこと,安全な速力としなかったこと,A受審人が,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと及び針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,大龍丸が,霧のため視界制限状態となった金華山北東方沖合で漂泊して遊漁中,有効な音響による霧中信号を行い,レーダーによる見張りを十分に行い,更に,聖麗丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,有効な音響による注意喚起信号を行っていたなら,本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,大龍丸が,有効な音響による霧中信号を行わなかったこと,B受審人が,釣客の釣竿の先を見ることに気をとられ,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと及び有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 大龍丸が,法定灯火を表示しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたことは,航行船や漂泊船にとって特別な状況とはいえず,本件発生の原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は,霧のため視界が制限された金華山北東方沖合において,南下する聖麗丸が,霧中信号を行うことも,安全な速力とすることもしなかったばかりか,レーダーによる見張り不十分で,前路で漂泊中の大龍丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが,大龍丸が,有効な音響による霧中信号を行わず,レーダーによる見張り不十分で,聖麗丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,霧のため視界が制限された金華山北東方沖合を南下する場合,前路の他船を見落とすことのないよう,レーダーの海面反射抑制,ゲインなどの調整やレンジの切り換えを適切に行うほか,船首輝線を一時消してこれと重なる他船の有無を調べるなど,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,大龍丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き,大龍丸の両舷中央部外板に破口を生じさせたほか,右舷船尾ブルワーク等を破損して同船を転覆させ,B受審人及び釣客を溺水と低体温で入院加療させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,霧のため視界が制限された金華山北東方沖合において,漂泊して遊漁を行う場合,自船に著しく接近する聖麗丸を見落とすことのないよう,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,釣客の釣竿の先を見ることに気をとられ,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,聖麗丸に気付かないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き,前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成16年8月26日仙審言渡
 本件衝突は,聖麗丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,第八大龍丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


参考図
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