(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月21日13時05分
福井県若狭湾
(北緯35度45.4分 東経135度43.4分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船恵幸丸 |
総トン数 |
4.1トン |
全長 |
13.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
139キロワット |
(2)設備及び性能等
恵幸丸は,昭和58年2月10日に進水した一層甲板型のFRP製漁船で,船体中央部に機関室囲壁,その後方に操舵室を有し,甲板下には船首部から順に,物入れ3区画,いけす,油タンク,機関室,物入れ,いけす,空所,最船尾に操舵機室が配置されていた。
主機は,B社が製造した,6CHK-DT型と称する4サイクル機関で,排気タービン式過給機及び空気冷却器を備え,逆転減速機を介して推進軸系に動力を伝達するようになっていた。
主機の排気管は,過給機に伸縮継手を介して接続され,一旦逆U字形状に約1m立ち上がったあと,船首尾方向にほぼ水平となった状態で,排気冷却水混合器(以下「混合器」という。)に連結されていた。
主機の冷却海水は,船底弁から直結冷却海水ポンプにより吸引・加圧され,清水冷却器,空気冷却器,潤滑油冷却器及び逆転減速機用潤滑油冷却器を経て,過給機からの排気系統中に設けられた混合器に至り,機関室から右舷側甲板下に沿って後部の各区画を貫通して敷設された排気管を経て,船尾端から排気と共に船外へ排出されていた。
混合器は,建造時ステンレス製であったが,平成7年3月に,機関整備を長年依頼していた鉄工所において,外径約15cm,長さ約15cmの青銅製のものに取り替えられ,その上部から冷却海水が流入し,内部で排気と混合するようになっており,機関室上部囲壁の引き戸を開けると見える位置に設置されていた。
3 事実の経過
恵幸丸は,A受審人が1人で乗り組み,樽いか流し釣漁の目的で,船首0.15m船尾0.65mの喫水をもって,平成15年10月21日03時00分福井県大島漁港を発し,同漁港北方15海里の漁場に向かった。
ところで,逆転減速機用潤滑油冷却器を出た冷却海水は,外径約50mm長さ1mのゴム管(以下「ゴム管」という),呼び径40で長さ約250mmのステンレス鋼管(以下「継手管」という。)及び同鋼製90度エルボ(以下「エルボ」という。)を経て混合器に流入するようになっており,継手管とエルボの継手部(以下「冷却海水管継手部」という。)がねじ込み方式であった。
ゴム管は,なだらかな曲りを持たせて敷設され,どこからも支持されておらず,主機本体からの振動の影響を受け,一方,過給機から混合器に至る排気管の支持が,前記逆U字形状配管の上部1箇所のみで,機関室天井からワイヤロープ1本で吊り下がった状態であった混合器も振動することから,航行中,冷却海水管継手部に,過大な曲げ応力が繰り返し生じていた。
A受審人は,平素から,出港時,機関室に入った際,また航行中,折を見て機関室内を覗いた際,機関室各機器の点検を行い,ゴム管が振動していることは認めていたが,冷却海水管継手部及びその周辺から漏水した痕跡がなかったことから,混合器周辺の振動を有害なものとまでは認識できない状況で,ゴム管を現状のまま,出漁を繰り返していた。
04時30分前記漁場に到着したA受審人は,操業海域に100mの間隔で約30個の樽いか釣り具を設置した後,12時30分水揚げ時刻に合わせるため同釣り具の回収を始め,機関回転数毎分2,000の半速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行中,突然,冷却海水管継手部が破断したところ,13時05分常神岬灯台から真方位328度8.6海里の地点において,船尾部の喫水が異常に増加していることに気付き,機関室を覗いて,主機の高さの半分まで浸水していることを発見した。
当時,天候は晴で風力1の南東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
恵幸丸は,A受審人が,自力航行できないと判断し,来援した僚船により,大島漁港に引きつけられた。
浸水の結果,機器に濡れ損が生じたうえ,冷却海水管継手部が破断していることが判明し,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 ゴム管及び排気管の支持が不十分で,主機の混合器に接続された冷却海水管が振動していたこと
2 A受審人が,混合器周辺及び機関室の点検を行っていたが,冷却海水管継手部からの漏水はなく,混合器周辺の振動を有害なものとまでは認識できなかったこと
3 振動により冷却海水管継手部が破断したこと
(原因の考察)
本件浸水は,主機の混合器に接続された冷却海水管が振動し,過大な繰り返し曲げ応力が付加されていた冷却海水管継手部の金属疲労が進行していたところ,航行中,突然,同部が破断し,多量の海水が機関室に浸水したことによって発生したものであり,ゴム管及び排気管の支持が十分に行われていれば,振動を抑えられ,冷却海水管継手部への同応力を緩和することができ,本件発生を防ぐことができたものと考えられる。
したがって,ゴム管及び排気管の支持が十分に行われず,主機の混合器に接続された冷却海水管に振動が生じる状況で,運転が続けられたことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,混合器の整備を長年実施していた鉄工所に点検修理を依頼できなかったことは,日頃の同人の機関室点検模様から,冷却海水管継手部からの漏水はなく,混合器周辺の振動を有害なものとまでは認識できない状況で,ゴム管及び排気管の支持の不備を指摘し,振動による金属疲労から冷却海水管継手部の破断を予見することは困難であったことから,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件浸水は,主機の排気冷却水混合器に接続された冷却海水管に振動が生じる状況で運転が続けられ,航行中,金属疲労が進行していた同管継手部が破断して多量の海水が機関室に流出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
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