(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月2日19時20分
沖縄県宮古島北方沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船春海丸 |
総トン数 |
9.1トン |
登録長 |
11.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
183キロワット |
3 事実の経過
(1)春海丸
春海丸は,平成4年6月に進水した,まぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で,甲板下には,船首方から順に,船首格納庫,氷庫,1番及び2番魚庫,次いで船体中央から船尾方にかけて機関室,船室及び舵機庫などを配置し,機関室上部の甲板上に操舵室を配置していた。
機関室は,その中央に,主機としてB社製のM6L-MTK型と称する定格回転数毎分2,000の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を装備し,主機前部に据え付けられた清水冷却器の右舷側下方に主機直結の充電機を,動力取出軸の右舷側に,同軸によりVベルトで駆動される漁労用交流発電機を,主機の左舷側後部に,蓄電池を電源とする電動機駆動のビルジポンプなどをそれぞれ備えていた。また,同室には,ビルジ高位警報装置が備えられていなかった。
一方,操舵室は,主機の回転計,冷却清水温度計及び潤滑油圧力計並びに冷却清水温度上昇及び潤滑油圧力低下などの警報装置が組み込まれた遠隔操縦装置を備え,同室から主機の回転数制御及び逆転減速機の嵌脱操作ができるようになっていた。また,同室の床面には,機関室出入口ハッチが設けられていて,航行中及び操業中,同ハッチのカバーを開放してのぞき込むことにより機関室内の状況を把握することができるようになっていた。
ところで,主機の冷却海水管系は,船底に設けられた海水吸入弁から主機直結の冷却海水ポンプにより吸引,加圧された海水が,空気冷却器及び清水冷却器を順に冷却したのち,排気集合管を経て水面上にある船外吐出弁に至る管系と,逆転減速機用潤滑油冷却器を経て水面上にある同減速機用船外吐出弁に至る管系に分岐して,それぞれ船外に排出されるようになっており,清水冷却器海水出口管に外径50ミリメートル肉厚5ミリメートル90度の曲がり部を有するゴム継手(以下「清水冷却器海水出口管側ゴム継手」という。)を差し込んだうえホースバンドで締め付け,同継手の他方の端に排気集合管及び逆転減速機用潤滑油冷却器の各海水入口管に至る海水管を差し込んで同バンドで締め付けていた。
(2)A受審人
A受審人は,沖縄県泊漁港を基地とし,同県石垣島周辺沖などの漁場に赴き,06時ごろから3時間かけて投縄を行い,13時ごろから揚縄を始め,これを24時ごろ終えたのち,漁場移動及び投縄開始まで逆転減速機を中立として主機を停止回転数で運転したまま漂泊する操業形態のもとで,1航海が約2週間の操業に従事していた。
そして,A受審人は,航行中には,1日に2回ばかり燃料油タンクの油量確認を兼ねて主機の冷却清水タンクの水位,オイルパンの油量及び機関室ビルジだめのビルジ量などの点検を行い,操業中には,適宜,操舵室床面にある機関室出入口ハッチのカバーを開放するなどして,機関室内の監視を行うようにしていた。
(3)本件発生に至る経緯
春海丸は,A受審人ほか甲板員1人が乗り組み,平成16年8月4日13時00分泊漁港を発し,石垣島南方の漁場に向かい,同月6日漁場に到着し,同漁場において操業を繰り返していたところ,台風の接近により操業を打ち切り,同月16日沖縄県宮古島荷川取漁港に避難して係船した。
その後,春海丸は,同月18日漁場に向け出航したものの,度重なる低気圧の通過などでその都度荒天に遭遇したため,同月22日から同月25日及び同月28日から翌9月2日まで荷川取漁港に避難していた。
ところで,A受審人は,同16年8月中旬ごろから機関室ビルジだめのビルジ量が徐々に増加する状況となったが,その増加量が少なく,また,台風などの接近により避難準備などで忙しかったことから,荷川取漁港での係船中に点検を行えばよいものと思い,速やかに主機冷却海水管系の点検を行うことなく主機の運転を続けていたので,主機前部側の振動が激しかったうえ,清水冷却器海水出口管側ゴム継手の近くに振動防止のための振れ止め金具などが取り付けられていなかったこともあって,同継手のホースバンドに緩みが生じ,いつしか同継手の清水冷却器海水出口管側から海水が漏洩していることに気付かなかったので,同バンドの緩みが次第に進行して同継手が同出口管から離脱するおそれのある状態となった。
しかし,A受審人は,台風の接近などにより荷川取漁港に数回避難したものの,係船中,機関室ビルジだめのビルジ量に異常が認められなかったこともあって,台風対策の係船作業に当たっているうち,主機冷却海水管系の点検を行うのを失念した。
こうして,春海丸は,A受審人ほか甲板員1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同年9月2日15時00分荷川取漁港を発し,宮古島北方沖の漁場に向け,主機を全速力にかけて航行中,かねてより緩みを生じていた清水冷却器海水出口管側ゴム継手のホースバンドが機関振動の影響を受けてその緩みが進行し,同継手が同出口管から離脱して海水が噴出するようになり,19時20分池間島灯台から真方位009度17.2海里の地点において,たまたま操舵室床面にある機関室出入口ハッチのカバーを開放したA受審人が漁労用交流発電機及び主機直結の充電機などに海水が激しく降り掛かっているのを発見した。
当時,天候は晴れで風力1 の北東風が吹き,海上は穏やかであった。
A受審人は,直ちに主機を停止し,離脱した清水冷却器海水出口管側ゴム継手を同出口管に差し込んでホースバンドを締め付け,ビルジポンプを運転して機関室床面近くまで浸入した海水の排出に努め,漁労用交流発電機や充電機などの電気機器に海水が降り掛かっていたことから,このまま主機の運転を続けると同発電機などに生じている損傷が拡大すると判断し,主機の運転を断念して海上保安庁に救助を要請した。
その結果,春海丸は来援した巡視艇により荷川取漁港に引き付けられ,のちぬれ損した漁労用交流発電機及び充電機などの修理が行われた。
(原因)
本件浸水は,航行中,機関室ビルジだめのビルジ量が徐々に増加する状況となった際,主機冷却海水管系の点検が不十分で,清水冷却器海水出口管側ゴム継手のホースバンドの緩みが放置され,同緩みが進行して同継手が同出口管から離脱し,機関室に海水が噴出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,航行中,機関室ビルジだめのビルジ量が徐々に増加する状況となった場合,主機冷却海水管系から海水が漏洩しているおそれがあったから,大事に至ることのないよう,速やかに同管系の点検を行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,その増加量が少なく,また,台風などの接近により避難準備などで忙しかったことから,係船中に点検を行えばよいものと思い,速やかに同管系の点検を行わなかった職務上の過失により,清水冷却器海水出口管側ゴム継手のホースバンドに緩みが生じていることに気付かず,同継手が同出口管から離脱して海水が噴出する事態を招き,漁労用交流発電機及び充電機などをぬれ損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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