(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月23日09時00分
石川県富来漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八大興丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
19.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
3 事実の経過
第八大興丸(以下「大興丸」という。)は,昭和60年6月に進水し,従業区域を丙区域としてまき網漁に従事する中型まき網船団のFRP製運搬船で,休漁期となる毎年1月から5月までの期間は,活魚の移送などに短時間使用される場合を除き,基地としていた石川県富来漁港内のブイに係留されていた。
主機は,機関室の中央に据え付けられ,逆転減速機を介して海水潤滑式船尾管軸受で支持された外径127ミリメートル(mm)のプロペラ軸に動力が伝達されるようになっており,同船尾管の前端には,船尾管軸封装置が取り付けられていた。
船尾管軸封装置は,詰め物式で,ラミー糸を素材として断面が1辺の長さ22mmの正方形となった柱状に編み上げられ,耐摩耗性を向上させる目的で減摩剤及び特殊減摩合金を含浸させたもの(以下「グランドパッキン」という。)5本をプロペラ軸に巻き付けてスタフィングボックス内に装着し,3本の植込みボルト及びナットによって,グランド抑えを締め込むことで,グランドパッキンを同ボックス内周及び同軸外周に圧着させて水密性を得るようになっており,航行中は船尾管軸受の支面材を潤滑及び冷却する目的で海水を通水させ,適度に同抑えを締め付けて機関室に少量を流出させるが,機関室の巡視が手薄となる長期間の停泊を始めるにあたっては,ビルジの増加を防止するために漏水の有無を点検し,必要に応じて,同抑えの増締めにより,止水しておく必要があった。
機関室は,船体中央から後方寄りに区画された,長さ4.0メートル,幅2.3メートル,高さ2.9メートルの直方体形状で,主機を挟んで船首側に発電機及び操舵機油圧ポンプ,船尾側に逆転減速機及び定周波装置などが,また,右舷側の主機台板上縁と同程度の高さに蓄電池,後壁中央から左右に離して,揚量が毎分20リットルの電動ビルジポンプ2台が取り付けられ,左右の同ポンプは,同電池を電源として,それぞれ自動及び手動で運転できるようになっていた。
ところで,大興丸は,平成14年5月に船尾管軸封装置のグランドパッキンが新替えされ,A受審人から機関の保守及び点検を任されていた甲板員によって,同装置のグランド抑えの締付けを加減されながら,出漁を繰り返していた。
平成15年2月15日07時30分大興丸は,同13年1月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が船長として甲板員1人と乗り組み,活魚移送の目的で,無動力の生け簀船を横に抱いた状態で,富来漁港内の係留地点を発し,同港沖合での移送作業を終えたのち帰港し,船首0.5メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,船尾管軸封装置から多量の海水が漏洩する状態で,平成15年2月15日12時ごろ前記ブイに再び係留された。
係留された際,A受審人は,主機を停止したとき,休漁期であったので,停泊期間が長期間となることが見込まれ,機関室内ビルジ量の増加を防止すべきであることを承知していたが,船尾管軸封装置の管理を甲板員に行わせているので大丈夫と思い,甲板員に対し,同装置からの海水漏洩状況について報告するよう指示しなかった。
甲板員は,主機が停止されたのち,船尾管軸封装置のグランド抑えを増し締めしたが,海水の漏洩が止まらないことを認めたものの,そのことをA受審人に報告することなく,13時半すぎ同受審人と共に下船し,大興丸を無人状態とした。
翌16日,大興丸は,甲板員が増量した機関室内ビルジを認めて排出したが,その後,巡視に訪れる者もいなかったので,再び同ビルジが増加し続ける状況で係留が続けられていた。
こうして,大興丸は,機関室内ビルジ量の増加により左舷側のビルジポンプが自動始動したものの,実揚量が漏洩量に適わず,更に増水して蓄電池を浸すまで水位が上昇したので,同ポンプの運転も不能な状況となっていたところ,平成15年2月23日09時00分能登富来港東防波堤灯台から真方位015度390メートルの係留地点において,甲板員が,主機の約半分の高さまで機関室に浸水しているのを認めた。
当時,天候は曇で風力2の東北東風が吹き,港内は穏やかであった。
その結果,大興丸は,主機,逆転減速機及び主機駆動発電機などに濡れ損を生じ,近くの岸壁に引き付けられ,陸上からの支援によって排水され,のち,主機及び逆転減速機を新替えするなどの修理が行われた。
(原因)
本件浸水は,無人状態として長期間の停泊を開始するにあたり,船尾管軸封装置からの海水漏洩状況についての報告の指示が行われなかったことと,機関室内ビルジが排出されたのち,機関室の巡視が長期間行われず,同装置から機関室内に多量の海水が漏洩する状況のまま停泊が続けられたこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,無人状態として長期間の停泊を開始する場合,航行中,船尾管軸受支面材を潤滑及び冷却させるために,同管軸封装置を経て通水させていたのであるから,機関室内ビルジの増加を防止できるよう,機関の保守及び点検を行わせていた甲板員に対し,同装置からの海水漏洩状況についての報告を指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,船尾管軸封装置の管理を甲板員に行わせているので大丈夫と思い,同甲板員に対し,同装置からの海水漏洩状況についての報告を指示しなかった職務上の過失により,同甲板員から報告を得られないまま海水の漏洩が続き,機関室内ビルジの著しい増加を招き,主機,逆転減速機及び発電機などに濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。