(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月28日08時45分
宮城県石巻港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十五日東丸 |
総トン数 |
286トン |
全長 |
56.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第三十五日東丸(以下「日東丸」という。)は,大中型まき網漁業船団に運搬船として所属する昭和63年3月に進水した鋼製漁船で,平成15年11月20日06時40分宮城県石巻漁港に入港し,いつでも出港できるよう氷や活餌等を積み込んだのち,船首1.7メートル船尾3.4メートルの喫水をもって,西防波堤内側の石巻漁港西防波堤灯台から真方位298度830メートルの地点に係留して係船を開始した。
A受審人は,係船中にも補機駆動発電機で冷凍装置,活餌循環ポンプ及び雑用兼散水ポンプ等を運転していたことから,1人で残って係船当番に当たっていた。
ところで,冷凍装置のコンデンサ冷却水系統は,シーチェスト上に取り付けられた5K-125AのL型玉形海水吸入弁(以下「船底弁」という。)から入った海水が,コンデンサ冷却水ポンプで加圧されたのち,コンデンサを冷却して船外弁から船外に排出されるようになっていたが,その船底弁が,いつしか弁体の吐出側に生じた腐食が進行して破口する寸前の状態になっていた。
A受審人は,係船中,1日のほとんどを無線室で出漁に関する無線の聴取に当たり,4時間ないし5時間ごとに機関室内の点検も行っていたが,ビルジ量に異常がなかったばかりか,船底弁が機関室下段床板の1.5メートルほど下方に配置されていたうえ,同弁の腐食部が上方からでは見えにくい弁体側部のやや下側に位置していたので,同弁が破口を生じる寸前の状態になっていることに気付くことができなかった。
越えて同月28日,A受審人は,05時前に起床して機関室内を点検し,減速機下部に設けられた船尾ビルジ溜りのビルジ量に異常がないことを確認したのち,06時ごろから岸壁上で漁網片付け作業の手伝いを始めた。
日東丸は,その後,前示の腐食部に破口が生じて海水が機関室に浸入し始め,船尾ビルジ溜りのビルジ量が増加して警報装置が作動したが,岸壁上で作業を行っていたA受審人にはその警報音が聞こえなかったので無人の機関室内で海水の浸入が続き,海水が船尾の床板上まで達する状態になっていたところ,08時45分,前示係留地点において,点検に赴いたA受審人が機関室の浸水を発見した。
当時,天候は曇で風力2の北北西風が吹き,海上は穏やかであった。
A受審人は,直ちに船底弁を含む開弁中の海水吸入弁4個を順次閉止したのち,近くにあった自社の営業所に事態を報告した。
日東丸は,会社が手配した陸上業者によって機関室内の海水が排出されたものの,調査の結果,主機前部の油圧ポンプ駆動用増速機や主機後部の減速機及び可変ピッチプロペラの制御装置等が濡損したほか,主機のクランク室にも軸シールから海水が浸入していることが判明し,のちいずれも修理された。
なお,補機及び電動機類は,少し高い位置に設置されていたので冠水を免れ,また,破口を生じた船底弁以外の海水吸入弁は,取り外されて肉厚が計測されたが,取り替える必要のあるほど肉厚が薄くなっているものはなかった。
(原因)
本件浸水は,宮城県石巻港において係船中,海水が,コンデンサ冷却水ポンプの船底弁に生じた破口から機関室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。