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平成16年広審第111号
件名

貨物船新住宝丸養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成17年3月10日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均)

副理事官
鎌倉保男

受審人
A 職名:新住宝丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:新住宝丸機関長

損害
新住宝丸・・・損傷ない
養殖施設・・・損傷

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件養殖施設損傷は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月25日21時40分
 備讃瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 貨物船新住宝丸
総トン数 199トン
全長 57.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット

3 事実の経過
 新住宝丸は,操舵輪前方にレーダーとGPSプロッタを装備した船尾船橋型鋼製貨物船で,鋼管82.32トンを積載し,A受審人ほか1人が乗り組み,船首1.2メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,平成15年12月23日16時30分千葉県千葉港を発し,翌々25日徳島県阿南港に寄り,休暇を終えたB指定海難関係人を乗船させ,瀬戸内海経由予定で,伊万里港に向かった。
 A受審人は,3直4時間制の船橋当直のうち,4時から8時までを担当し,0時から4時までを一等航海士に,8時から12時までをB指定海難関係人にそれぞれ行わせており,20時30分備讃瀬戸東航路を西行中,同当直を無資格のB指定海難関係人に行わせることとしたが,同人と長期間一緒に乗船して当直業務に問題がなかったことから,いつものとおり無難に同業務を行ってくれるものと思い,船橋当直者に対し,針路を変更したのちレーダーやGPSプロッタを見るなど,船位の確認を十分に行うよう指示せず,航路に沿って航行するよう告げ,同当直を交代して降橋し,自室で休息した。
 船橋当直に就いたB指定海難関係人は,操舵輪後方で立ったまま見張りにあたり,21時01分半備讃瀬戸東航路第1号灯浮標に並んだとき,小槌島灯台から022度(真方位,以下同じ。)1.1海里の地点において,針路を264度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの潮流に乗じ11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行した。
 定針したのち,B指定海難関係人は,針路を変更したことから,正船首方に岩黒島橋橋梁灯の赤緑の灯火を認めるようになったが,同灯火を通過予定の北備讃瀬戸大橋橋梁灯の灯火と思い込んでいたので,レーダーやGPSプロッタを見るなど,船位の確認を十分に行わず,北備讃瀬戸大橋橋梁灯の灯火でないことに気付かないまま,備讃瀬戸東航路に沿って航行しているつもりで続航した。
 やがて,B指定海難関係人は,岩黒島橋下を通過し,21時34分櫃石港4号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から188度1,650メートルの地点に達したとき,船首方に島影を視認して危険を感じ,機関の回転数を下げたところ,折からの潮流で271度の針路,8.0ノットの速力で水島航路を横断する状況となり,船位が分からなくなったことを報告するため船長室に向かった。
 ところで,香川県向島南岸沖合には,同島南西端から107度の方位線と,同島東端から166度の方位線に囲まれた区域が,区画漁業の漁場に設定され,同区域内には長さ約280メートル高さ約1メートルの養殖施設4列が東西方向に設置され,同施設の南方には,光達距離10.5キロメートルの閃光を発する黄色標識灯が2個設置されていた。
 報告を受けたA受審人は,21時39分昇橋して船首方に島影を視認し,直ちに機関を全速力後進にかけたが及ばず,前示の養殖施設も黄色標識灯も視認しないまま,21時40分防波堤灯台から227度1.3海里の地点において,新住宝丸は,ほぼ原針路で速力がなくなったとき,養殖施設に乗り入れた。
 当時,天候は晴で風力4の西南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,付近には約1.5ノットの北西流があった。
 A受審人は,衝撃を感じなかったことから,機関を後進にかけたまま現場を離れて続航し,のち,海上保安署から事実を知らされ,事後の措置に当たった。
 その結果,船体に損傷はなかったものの,養殖施設を損傷した。

(原因)
 本件養殖施設損傷は,夜間,備讃瀬戸において,船位の確認が不十分で,香川県向島南岸沖合に設置された養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,無資格の船橋当直者に対し,船位の確認を十分に行うよう指示しなかったことと,同当直者が,船位の確認を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,備讃瀬戸において,船橋当直を無資格の部下に行わせる場合,船橋当直者に対し,針路を変更したのちレーダーやGPSプロッタを見るなど,船位の確認を十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,同当直者と長期間一緒に乗船して当直業務に問題がなかったことから,いつものとおり無難に同業務を行ってくれるものと思い,船位の確認を十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により,同当直者による船位の確認が十分に行われず,香川県向島南岸沖合に設置された養殖施設に向首進行して乗り入れ,同養殖施設を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,針路を変更したのちレーダーやGPSプロッタを見るなど,船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しない。





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