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平成16年神審第107号
件名

貨物船第拾巽丸定置網損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成17年2月4日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野浩三)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第拾巽丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
新福壽丸・・・損傷ない
定置網・・・破損

原因
操船目標の選定不適切

裁決主文

 本件定置網損傷は,操船目標の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月8日06時10分
 高知県奈半利港沖合
 (北緯33度24分 東経133度59分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第拾巽丸
総トン数 492トン
全長 60.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット

3 事実の経過
 第拾巽丸は,砂利石材などの運送に従事する船尾船橋型貨物船で,平成12年9月交付の五級海技士(航海)免状を受有するA受審人ほか4人が乗り組み,石材1,400トンを載せ,船首3.4メートル船尾4.5メートルの喫水をもって,平成16年2月7日香川県小豆島福田湾を発し,高知県奈半利港西方に隣接する田野海岸防潮堤築造工事現場(以下「工事現場」という。)に向かった。
 ところで,工事現場の沖合には,奈半利港西防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から241度(真方位,以下同じ。)1.5海里,236度2.0海里,225度1.9海里及び230度1.4海里の各地点で囲まれた定置漁業の区域(以下「甲区域」という。)と同灯台から182度1.1海里,207度1.9海里,197度2.1海里及び173度1.3海里の各地点で囲まれた同漁業の区域(以下「乙区域」という。)が,東西1,300メートル隔てて設定され,両区域の南東端及び南西端には,定置網の標識灯(黄色,4秒1閃光,高さ2メートル,光達距離3.5キロメートル)がそれぞれ1個設置されていたが,平成15年10月には乙区域の定置網とその標識灯が撤去されていた。
 A受審人は,工事現場への航行経験が幾度かあったが,乙区域の定置網及び標識灯撤去後は同工事現場への航行経験がなかったので,これらの撤去について知らなかった。
 乙区域の標識灯は,時折網整備のために撤去されたり,移動したり,また消灯することがあるので,操船目標としてこのような不安定な物標を使用すると,針路や,船位が曖昧になって,定置網設置区域内に進入するおそれがあるから,防波堤灯台などの顕著な物標を操船目標とする必要があった。
 A受審人の工事現場への接近方法は,羽根埼灯台を右舷正横に見て通過後,約1.5海里過ぎたころから,甲乙両区域の標識灯を見ながらその中間に向けて徐々に右転し,同中間沖合において船首が防波堤灯台に向いたとき,同灯台に向けて進行することにしていた。
 こうして単独当直中のA受審人は,翌8日05時51分半羽根埼灯台から230度1.5海里の地点において,針路を320度に定め,全速力前進として対地速力10.0ノットで,自動操舵により進行した。
 06時01分A受審人は,羽根埼灯台から274度2.1海里の予定転針地点において,定置網の標識灯が見えてきたことから,徐々に右転を開始し,右舷側に見えている甲区域南東端の標識灯を乙区域の南西端の標識灯と,左舷側に見えている甲区域南西端の標識灯を甲区域南東端の標識灯と勘違いし,いつもの操船目標の標識灯が見えているものと思い,船首方の顕著な目的地の防波堤灯台を操船目標としなかったため,船位や針路が不明確となり,甲区域に向かっていることに気付かず続航した。
 06時10分少し前A受審人は,甲区域南東端の標識灯を右舷正横約200メートルに見て,船首方に見える防波堤灯台に向けて右転を続けていたところ,06時10分防波堤灯台から227度1.9海里の地点において,針路048度8.0ノットの対地速力で甲区域に乗り入れ,定置網が船体に絡まった。
 当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮侯は上げ潮の末期で,視界は良好であった。
 その結果,第拾巽丸に損傷はなかったが,定置網が破損した。

(原因)
 本件定置網損傷は,夜間,高知県奈半利港沖合の定置網設置区域沖合から同港付近の工事現場に向かって進行する際,操船目標の選定が不適切で,定置網に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,高知県奈半利港沖合の定置網設置区域外から,同港付近の工事現場に向かって進行する場合,定置網設置区域の標識灯は,時折網整備のために撤去されたり,移動したりまた消灯することがあるので,操船目標としてこのような標識灯を使用すると,針路や,船位が不明確となって,同区域に進入するおそれがあるから,操船目標として防波堤灯台などの顕著な物標を選定すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,操船目標とする定置網の標識灯がこれまでと同じように見えているものと思い,操船目標として顕著な防波堤灯台などを選定しなかった職務上の過失により,操船目標とする定置網の標識灯が撤去され,隣の定置網の標識灯を操船目標としていることに気付かず進行し,定置網設置区域に進入して定置網の損傷を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。





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