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平成16年神審第87号
件名

警戒船第十八たけ丸汚濁防止施設損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成17年2月4日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學,甲斐賢一郎,横須賀勇一)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第十八たけ丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第十八たけ丸甲板員

損害
第十八たけ丸・・・損傷ない
汚濁防止施設・・・固定フェンスを損傷

原因
汚濁防止施設から十分に離れた安全な距離をとらなかったこと

主文

 本件汚濁防止施設損傷は,警戒業務に従事中,同施設から十分に離れた安全な距離をとらなかったことによって発生したものである。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月4日12時55分
 大阪港
 (北緯34度37.1分 東経135度20.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 警戒船第十八たけ丸
総トン数 101.11トン
全長 23.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 558キロワット
(2)設備及び性能等
 第十八たけ丸(以下「たけ丸」という。)は,昭和51年4月に進水した平水区域を航行区域とする鋼製引船で,C社の「D形推進装置」と呼称される,コルトノズル付可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)とフォイトシュナイダープロペラ(以下「VSP」という。)の双方の欠点を補い,CPP並の推力とVSP並の運動性能を備えたディーゼル機関を2機2軸装備しており,船橋前面中央部に備えられた操縦スタンドの旋回制御ハンドル,前後進制御ハンドル及び速度制御ハンドルのうち,前後進制御ハンドルを操作することによって,各軸のプロペラ推力を360度任意の方向に,それぞれ独立して噴射することができることから,他の制御ハンドルと併用することにより,前後進,停止,旋回及び横滑りなどの緩急自在な操船が可能であり,漂泊するときは旋回制御ハンドルを中立,速度制御ハンドルのクラッチを嵌としたまま最低回転の毎分600としたうえ,前後進制御ハンドルで各舷のコルトノズルを正横方向に向けて噴射し,その勢いを相殺して船体を停止状態に保つ方法をとっていた。

3 事実の経過
 たけ丸は,A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み,大阪港新島建設埋立工事海域における警戒業務に従事する目的で,船首1.2メートル船尾2.1メートルの喫水をもって,平成16年3月4日07時35分同港大正内港尻無川の艀桟橋を発し,大阪港新島埋立区域W灯標(以下,灯標については「大阪港新島埋立区域」を省略する。)付近の警戒担当海域へ向かった。
 ところで,大阪港新島建設埋立工事海域は,大阪南港南防波堤灯台西方ないし南西方沖のA灯標,J灯標,O灯標,U灯標及びX灯標の各灯標を順次結んだ線で囲まれ,その囲線から約20メートル内側の海面上に固定式垂下型汚濁防止施設(以下「固定フェンス」という。)が張り巡らされた海域で,K灯標とL灯標間及びS灯標とT灯標間に工事作業船の入口,M灯標とN灯標間及びU灯標とV灯標間に同出口が設けられており,当該箇所は固定フェンスの替わりに,いずれも浮沈式の汚濁防止施設が設置された開口部となっていた。
 また,警戒船が従事する警戒業務は,同工事海域及びその周辺海域における船舶交通の危険防止に当たることを目的としたもので,数隻の警戒船が,それぞれの分担海域において同業務に当たっており,たけ丸は,U灯標からX灯標に至る海域が担当海域であったことから,その近辺の航路筋を航行する一般船舶,操業中の漁船及び工事海域に出入りする作業船などに対して,警戒及び誘導業務を行う予定であった。
 08時30分A受審人は,W灯標の東側50メートルばかりの地点に到着し,前々日から警戒業務に従事していた警戒船みずほと交代したのち,06時から12時及び18時から24時までを同人と機関長が,00時から06時及び12時から18時までをB指定海難関係人と甲板員が,それぞれ2人ペアで入直することに定め,固定フェンスから約70メートル離れて前示方法で漂泊を行い,2日間の予定で同業務を開始した。
 12時00分A受審人は,次直のB指定海難関係人が昇橋してきたものの,もう1人の当直者である甲板員の昇橋が遅れていたことから,しばらく船橋に留まり,12時30分そろそろ同甲板員が昇橋する頃合いとなったとき,これまでB指定海難関係人が,何らの支障もなく警戒業務に従事していたので,相当直者の甲板員が昇橋するまでの短時間なら1人で任せておいても大丈夫と思い,固定フェンスから十分に離れた安全な距離を保って警戒業務に当たるように指示したのち,同指定海難関係人に船橋当直を委ねて降橋した。
 B指定海難関係人は,W灯標から090度(真方位,以下同じ。)50メートルの地点で,A受審人から当直を引き継ぎ,船首を北東ないし東北東へ向けた態勢で漂泊しながら警戒業務に従事していたところ,12時50分U灯標とV灯標間の出口から出域した作業船が,右に進路を転じ,自船の至近に向首して接近する状況となったので,速度制御ハンドルで両機関の回転を少し上げて極微速力前進とし,前後進制御ハンドルを操作してゆっくりと左に回頭しながら,同船と右舷対右舷で替わるつもりで北東ないし北北東方へ移動を開始した。
 そして,12時52分半B指定海難関係人は,W灯標から050度250メートルの地点まで移動したとき,前示作業船が右舷を対して無難に替わったことから,各制御ハンドルをいつもの漂泊ポジションとして漂泊を行い,作業日誌を記入するため,船橋内左舷側後部にある海図台へと移動した。
 このとき,B指定海難関係人は,自船が前示囲線の内側に入り,固定フェンス至近まで接近していたので,船長の指示に従い,直ちに十分に離れた安全なところまで移動する必要があったが,いつもの手順を踏んで漂泊を開始したことから,まさか作業日誌を記入する数分の間に固定フェンスに接触することはあるまいと思い,同日誌の記入を始めた。
 こうして,B指定海難関係人は,その後も,安全なところまで移動することなく作業日誌の記入を続けていたところ,行きあしがわずかに残っていたことなどに起因して,12時55分大阪港新島埋立区域W灯標から047度300メートルの地点において,たけ丸は,ほぼ北方を向いた態勢で固定フェンスに接触した。
 当時,天候は曇で風力4の西南西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 接触した結果,たけ丸に損傷はなかったものの,固定フェンスに損傷を生じた。

(本件発生に至る事由)
 A受審人が,B指定海難関係人に船橋当直を委ねて降橋したのち,同指定海難関係人が出域船を替わそうとして固定フェンス至近に接近した際,船長である同受審人の指示にしたがわず,直ちに固定フェンスから十分に離れた安全なところまで移動しなかったこと。

(原因の考察)
 たけ丸は,大阪港において,警戒業務に従事中,1人で当直に当たっていた甲板員が,出域する作業船を替わそうとして固定フェンス至近に接近した場合,同甲板員が船長の指示に従い,直ちに十分に離れた安全なところまで移動することは容易であり,そのことを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって,B指定海難関係人が,固定フェンスから十分に離れた安全なところまで移動しなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人は,B指定海難関係人に船橋当直を委ねて降橋した際,固定フェンスから十分に離れた安全な距離を保つように明確に指示していたものであり,船長としての職責は十分に果たしていたものと認められる。
 したがって,A受審人が,B指定海難関係人に船橋当直を委ねて降橋したことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件汚濁防止施設損傷は,大阪港において,警戒業務に従事中,船橋当直者が船長の指示にしたがわず,同施設から十分に離れた安全な距離をとらなかったことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 B指定難関係人が,大阪港において,警戒業務に従事中,出域する作業船を替わそうとして固定フェンス至近に接近したとき,船長の指示にしたがわず,直ちに同フェンスから十分に離れた安全なところまで移動しなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告しない。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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