(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月24日04時51分
神奈川県湘南港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船新福壽丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
56.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
新福壽丸は,船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人ほか1人が乗り組み,ロケット部品の電気モジュール約2トンを載せ,船首1.6メートル船尾2.9メートルの喫水をもって,平成16年3月23日11時45分名古屋港を発し,神奈川県湘南港に向った。
ところで,湘南港の南東方約1.5海里沖合には,長さ約360メートル幅約60メートルでほぼ長方形の身網及び長さ約670メートルの垣網で構成される定置網が設置されていた。定置網は,長辺部を南南西に向けた身網の中央部から垣網が北北東方に伸びており,上縁が水面下0.5メートルとなり,北端及び南東端が黄色灯浮標,南西端が紅色灯浮標によって表示されていた。
発航に先立ちA受審人は,湘南港への入港が初めてであったが,運航者からファクシミリで図名「湘南港」の大縮尺海図分図を入手のうえ新たに図名「相模灘」の小縮尺海図を購入しただけで,同港沖合に支障となる漁具等はないものと思い,水路誌及び漁具定置箇所一覧図を入手したり,運航者あるいは地元の漁業共同組合に問い合わせるなどして同港周辺海域の水路調査を十分に行わなかったので,定置網の存在を知らなかった。
翌24日04時41分少し過ぎA受審人は,折から昇橋した機関長を操舵に就け,湘南港灯台から176度(真方位,以下同じ。)2.4海里の地点で,針路を020度に定め,機関を半速力前進にかけ8.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)として,手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は,左舷船首5度1.2海里に作業灯を点灯し停留している漁船と,その左方に定置網南西端を示す紅色灯浮標を認め,左舷ウイングに出て同船の動静監視を行ったものの,右舷船首6度1.2海里に同網南東端を示す黄色灯浮標があり,自船が両灯浮標間に設置されていた身網長辺部に向首進行していたが,定置網の存在を知らないまま,このことに気付かなかった。
A受審人は,入港間近となり,04時49分機関を微速力前進にかけ5.0ノットに減速して続航中,04時51分少し前ほぼ左舷正横となった前示漁船から突然サーチライトの照射を受け,直ちに機関を全速力後進にかけたが効なく,新福壽丸は,同じ針路,速力のまま,04時51分湘南港灯台から157度1.4海里の地点において,定置網に乗り入れた。
当時,天候は曇で風力2の北風が吹き,潮候は上げ潮の末期で視界は良好であった。また,日出は05時40分であった。
A受審人は,間もなく停止したところ,舷側近くに連続して繋(つな)がった球形浮子を認め漁網に接近したと思ったが,何の衝撃もなかったうえ,前示漁船がそのまま操業を続けていたので定置網に乗り入れたとは思わず,後進反転し,同船を右舷に見る針路として湘南港に入港したが,後日,海上保安署から,定置網に乗り入れて損傷を与えた旨知らされた。
その結果,新福壽丸には損傷がなく,定置網は,身網の一部が損傷し,外枠ロープが緩んで設置形状が変形した。
(原因)
本件定置網損傷は,夜間,湘南港に向けて同港南東方沖合を北上する際,発航前の水路調査が不十分で,定置網に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,湘南港に向けて同港南東方沖合を北上する場合,同港への入港は初めてであったから,支障となる漁具等の有無の情報が得られるよう,水路誌及び漁具定置箇所一覧図を入手したり,運航者あるいは地元の漁業協同組合に問い合わせるなどして,発航前の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,新たに海図を購入しただけで,同港沖合に支障となる漁具等はないものと思い,発航前の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,定置網に向首進行して乗り入れ,網の一部を損傷し,設置形状を変形させる事態を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。