(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月14日20時20分
牡鹿半島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十二金徳丸 |
総トン数 |
319トン |
登録長 |
43.88メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
698キロワット |
3 事実の経過
第十二金徳丸(以下「金徳丸」という。)は,まぐろはえ縄漁に従事する鋼製漁船で,A受審人ほか7人が乗り組み,餌としての冷凍いかなど80トンを積み込んだうえ,操業の目的で,船首1.8メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,平成15年1月14日12時00分岩手県大船渡港を発し,ニュージーランド北方沖合の漁場に向かった。
15時30分ごろA受審人は,金華山沖合を航行中,たまたま昇橋した機関長が左舷甲板上の,船橋横の清水パイプが凍結のため破裂し,漏水しているのを発見したので,船舶所有者と相談のうえ,急遽,同パイプの修理を宮城県石巻港で行うことにした。
16時00分A受審人は,金華山灯台から070度(真方位,以下同じ。)44.0海里の地点に達したとき,金華山の南東沖合に向けて反転し,石巻港に向けて航行を始めた。
ところで,牡鹿半島と網地島及び田代島などに挟まれた狭い水域は,その両岸に多数の養殖施設が設置され,一層同水域が狭められる状況となっていたものの,A受審人は,7年ほど前,日中に1度だけ同水域を無難に航行した経験があったが,夜間,航行した経験がなかったうえ,この水域に養殖施設が設置されていることも知らなかった。
19時51分少し前A受審人は,陸前黒崎灯台(以下「黒崎灯台」という。)から156.5度1.3海里の地点に達したとき,GPSプロッターで船位を確認し,左右いずれかに転針しなければならない地点に達したことが分かったが,今回も無難に航行できるものと思い,網地島や田代島などの南方沖合を航行することとなる,安全な針路を選定することなく,針路を狭い水域に向首する314度に定め,機関を全速力前進にかけて11.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,自動操舵により進行した。
19時55分半A受審人は,黒崎灯台から178度1,300メートルの地点に達したとき,機関の毎分回転数を少し下げて10.0ノットの速力とし,同時58分半更に針路を307度に転じて続航した。
こうして,金徳丸は,A受審人が養殖施設の存在に気付かないまま,原針路,原速力を保って進行中,20時20分仁斗田港東防波堤灯台から069度1.2海里の地点で,養殖施設に乗り入れた。
当時,天候は曇で風力3の北西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
その結果,推進器軸に養殖施設用ロープ及び浮き球などを絡め,同施設に長さ約600メートルにわたって損傷を生じた。
(原因)
本件養殖施設損傷は,夜間,宮城県石巻港に向けて航行する際,針路の選定が不適切で,養殖施設に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,破裂した清水パイプの修理のため,急遽,宮城県石巻港に向けて航行する場合,牡鹿半島と網地島や田代島などに挟まれた狭い水域を夜間に航行したことがなかったうえ,養殖施設が設置されていることも知らなかったのであるから,網地島や田代島などの南方沖合を航行することとなる,安全な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに,同人は,日中ではあったものの,無難に航行した経験が過去1回あったので,今回も無難に航行できるものと思い,安全な針路を選定しなかった職務上の過失により,養殖施設の存在に気付かないまま進行して同施設への乗り入れを招き,推進器軸に養殖施設用ロープ及び浮き球などを絡め,同施設に約600メートルにわたって損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。