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平成16年那審第52号
件名

モーターボートブセナ2号運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成17年3月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(杉崎忠志)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:ブセナ2号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
燃料油タンクの天井板と船尾側板との接続部に亀裂

原因
主機燃料油系統の油水分離器の点検不十分

裁決主文

 本件運航阻害は,主機燃料油系統の油水分離器の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月6日15時00分
 沖縄県名護市部瀬名岬南西沖

2 船舶の要目
船種船名 モーターボートブセナ2号
総トン数 2.0トン
登録長 6.26メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 169キロワット

3 事実の経過
 ブセナ2号は,スキューバダイビング及び遊覧などのマリンレジャーに従事するFRP製モーターボートで,主機としてB社製の4LH-STE型と称する定格回転数毎分3,100の過給機付4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関を装備し,船尾にウォータージェット推進装置を備えていた。
 ブセナ2号は,船首方から順に,船首甲板,船体中央部に操縦スタンド及び操縦席,次いで船尾甲板及び船尾格納庫などを配置し,同スタンドに舵輪,速度計,主機回転計及び燃料油タンク油量計並びに主機潤滑油圧力低下などの警報装置を備え,同席から主機の発停を含むすべての遠隔操作ができるようになっていた。
 また,ブセナ2号は,船首甲板下に容量約150リットルの燃料油タンクを,操縦スタンドから船尾方にかけての甲板下に機関室を配置していた。
 主機の燃料油系統は,燃料油タンク内の軽油が,同タンクの燃料油吸引管から油水分離器を経て燃料油供給ポンプに吸引,加圧され,燃料油こし器を経由して一体型の燃料噴射ポンプに導かれ,同ポンプにより加圧されて各シリンダの燃料噴射弁に供給されるようになっていた。
 油水分離器は,外径85ミリメートル高さ130ミリメートルで,その内部にグラスウール製エレメントを内蔵し,燃料油に混入した水分及び異物などをドレンとして分離するもので,同分離器のケーシング底部に滞留したドレンを器外に排出することができるよう,同底部にドレンプラグが取り付けられていた。また,同ケーシングには,「運転時間100時間ごとに同プラグを開放してドレンの有無の点検を行うこと」旨を記載した注意書が貼り付けられていた。
 そして,燃料油タンクは,長さ約80センチメートル(以下「センチ」という。)幅約60センチ高さ約35センチのFRP製で,同タンクの天井板には,船尾右舷側に給油栓を装着した給油管,同給油管の左舷側に空気抜き管,中央部に円形のガラスを装着した点検窓,その右舷側に燃料油量計測用フロート,及び船尾側中央部に同タンク底部から5センチ上方まで挿入された燃料油吸引管がそれぞれ取り付けられていた。
 ところで,燃料油タンクは,その内部に約35センチの間隔で,同タンク底部から立ち上がった仕切板が船横方に取り付けられていたが,同タンクの天井板に同仕切板が接続されていなかったうえ,天井板に補強材などが取り付けられていなかったので,船体振動の影響を受けて天井板が振動して各側板との接続部に不当な応力が繰り返し作用する状況であった。
 A受審人は,平成12年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したのち,翌13年4月にC社に入社し,ブセナ2号を含む6隻の船舶の保守と運転管理を担当する管理アクティビティ部門に配属された。
 A受審人は,ブセナ2号を担当し,就業前に主機のオイルパン及び燃料油タンクの各油量の点検のほか,機関室ビルジ量,蓄電池の充電状況などを点検するなどして,主機の運転管理に当たっていたが,これまで主機の運転状態に異常がなかったので問題はあるまいと思い,定期的に油水分離器の点検を行うことなく運転を続けていたので,いつしか同タンクの天井板と船尾側壁との接続部に亀裂が生じ,船首甲板上に滞留した海水が同甲板上にある給油栓用及び点検窓用の各カバー取付けボルト穴などから天井板上に滴下し,同亀裂部から同タンク内に浸入した海水が同分離器に滞留する状況となっていることに気付かなかった。
 ブセナ2号は,A受審人が1人で乗り組み,ホテルの客2人を乗せ,遊覧の目的で,船首0.30メートル船尾0.25メートルの喫水をもって,同16年6月6日14時50分琉球名護港南防波堤灯台から225度(真方位,以下同じ。)3.6海里の地点にあるC専用桟橋(以下「桟橋」という。)を発し,主機を全速力にかけて部瀬名岬から南西方に拡延するさんご礁帯に向かった。
 A受審人は,さんご礁帯の外縁に沿って航行していたところ,北西風が強まって波浪も大きくなり,船体動揺が次第に激しくなったことから桟橋に向けて主機を回転数毎分2,200にかけ,毎時約30キロメートルの対地速力で帰航中,ブセナ2号は,15時00分琉球名護港南防波堤灯台から227度3.7海里の地点において,同分離器に滞留する海水が燃料噴射ポンプに浸入し,主機が自停して運航不能となった。
 A受審人は,急ぎ主機の始動を試みたものの,果たせず,救助を求めた。
 当時,天候は晴で風力3の北西風が吹き,海上には波浪があった。
 その結果,ブセナ2号は,来援した僚船により桟橋に引き付けられ,主機の燃料油系統を精査したところ,多量の海水が油水分離器に滞留していること及び燃料油タンクの天井板と船尾側板との接続部に亀裂が生じていることが判明し,のち同タンクの修理などが行われた。

(原因)
 本件運航阻害は,主機の運転管理に当たる際,主機燃料油系統の油水分離器の点検が不十分で,海水が燃料油タンクの天井板に生じた亀裂部から浸入して同分離器に滞留し,沖縄県名護市部瀬名岬南西沖での遊覧を終えて帰航中,海水が燃料噴射ポンプに浸入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機の運転管理に当たる場合,主機燃料油系統の油水分離器に滞留した海水が燃料噴射ポンプに浸入すると運転に支障を生じるおそれがあったから,定期的に同分離器の点検を行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,これまで主機の運転状態に異常がなかったので問題はあるまいと思い,定期的に同分離器の点検を行わなかった職務上の過失により,多量の海水が同分離器に滞留していることに気付かず,沖縄県名護市部瀬名岬南西沖での遊覧を終えて帰航中,海水が同ポンプに浸入する事態を招き,主機が自停して運航が阻害されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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