(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月26日06時30分
沖縄県与那国島西埼南方沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七正福丸 |
総トン数 |
2.37トン |
登録長 |
9.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
103キロワット |
3 事実の経過
(1)第七正福丸
第七正福丸(以下「正福丸」という。)は,昭和57年に進水し,主にかじき引き縄漁業に従事するFRP製漁船で,甲板下には,船首方から順に,船首格納庫,氷庫,魚庫,機関室,船尾格納庫及び舵機庫などをそれぞれ配置し,機関室の上部に操舵室を設けていた。
機関室には,その中央に,主機として,平成15年7月に換装された,B社製のEM636T型と称する定格回転数毎分3,000の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を装備していた。
一方,操舵室には,主機の回転計及び潤滑油圧力計並びに冷却清水温度上昇及び潤滑油圧力低下などの警報装置を組み込んだ遠隔操縦装置を備え,同室から主機の回転数制御及び逆転減速機の嵌脱操作ができるようになっていたが,主機の運転状態を確認することができるよう,主機の発停が機関室で行われていた。
そして,主機の冷却海水系統は,船底に設けられた海水吸入弁から主機直結の冷却海水ポンプにより吸引,加圧された海水が,逆転減速機用潤滑油冷却器,空気冷却器及び清水冷却器を順に冷却したのち主機排気管に導かれ,船尾外板左舷側の水面上にある船尾排出口から主機排気ガスとともに船外に排出されるようになっていた。また,同系統には,同ポンプ吸入側こし器,冷却海水圧力計及び同圧力低下警報装置が設けられていなかった。
(2)本件発生に至る経緯
正福丸は,A受審人が船長として単独で乗り組み,操業の目的で,船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年6月26日06時10分久部良漁港を発し,主機を全速力にかけて与那国島西埼南東方沖にあるパヤオに向かった。
ところで,主機直結の冷却海水ポンプは,一体に成型された8枚のインペラ羽根からなるゴム製インペラを内蔵し,同羽根がポンプケーシング内面に接触して回転することにより揚水するもので,海水とともに吸引された砂,浮遊物などの異物により同羽根の先端が急速に摩耗したり,同ケーシング内で屈曲を繰り返しながら回転するうち,繰返し応力により同羽根が疲労して折損するおそれがあるので,早期に異常の有無を検知できるよう,主機始動後,船尾排出口からの冷却海水の吐出状況を点検する必要があった。
そして,A受審人は,主機の整備について,3箇月ごとにオイルパンの潤滑油及び同油こし器フィルタエレメントの取替え,半年ごとに燃料油こし器フィルタエレメントの取替え,並びに1年ごとに清水冷却器及び潤滑油冷却器などの熱交換器の掃除とともに防食亜鉛の取替えなどを自ら行っていた。また,同人は,主機直結の冷却海水ポンプのインペラ羽根の点検,整備について,燃料油こし器の開放時や熱交換器の防食亜鉛の取替え時に行うようにしていた。
発航に先立ち,A受審人は,06時ごろ主機オイルパンの潤滑油量及び冷却清水タンクの水位などを点検し,機関室で主機を始動したのち,常時,電源を投入したままとしている主機警報装置の警報音及び警報灯の点灯状況を確認するなどして主機の運転管理に当たっていたが,これまで主機の冷却清水温度上昇警報装置が作動したことがなかったので問題はあるまいと思い,主機始動後に船尾排出口からの冷却海水の吐出状況を点検することなく運転を続けていたので,いつしか主機直結の冷却海水ポンプのインペラ羽根が亀裂の進行により折損し始め,船尾排出口からの冷却海水の吐出量が次第に減少していることに気付かなかった。
こうして,正福丸は,主機を全速力にかけて航行中,主機直結の冷却海水ポンプのインペラ羽根の亀裂が著しく進行し,ほとんどの同羽根が折損したことから冷却海水の供給が途絶えるようになり,清水冷却器などの熱交換器の冷却が著しく阻害され,冷却清水温度が上昇して同温度上昇警報装置が作動した。
操舵室で操船に就いていたA受審人は,主機の冷却清水温度上昇警報装置が作動して警報ブザーが鳴っていることに気付き,直ちに主機の回転数を減じ,逆転減速機を中立として船尾甲板に赴き,船尾排出口を点検して冷却海水が排出されていないことを認め,機関室に急行したところ主機各部が著しく過熱していることから主機を停止し,06時30分西埼灯台から真方位180度900メートルの地点において,自力航行を断念して救助を要請した。
当時,天候は晴で風力3の南風が吹き,海上は穏やかであった。
その結果,正福丸は,来援した僚船により久部良漁港に引き付けられ,のち主機直結の冷却海水ポンプのインペラ羽根のほぼ全てが折損していることが判明し,同インペラの取替えが行われた。
(原因)
本件運航阻害は,主機の運転管理に当たる際,船尾排出口からの主機冷却海水の吐出状況の点検が不十分で,主機直結の冷却海水ポンプのインペラ羽根が折損し,冷却海水の供給が途絶えて冷却清水温度が著しく上昇し,主機の運転が不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,主機の運転管理に当たる場合,主機直結の冷却海水ポンプのインペラ羽根が折損して主機各部の冷却が阻害されることのないよう,主機始動後に船尾排出口からの冷却海水の吐出状況を点検すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,これまで主機の冷却清水温度上昇警報装置が作動したことがなかったので問題はあるまいと思い,主機始動後に船尾排出口からの冷却海水の吐出状況を点検しなかった職務上の過失により,同羽根の折損が進行して船尾排出口からの冷却海水の吐出量が著しく減少していることに気付かないまま主機の運転を続け,冷却清水温度が著しく上昇する事態を招き,運航不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。