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平成16年仙審第49号
件名

旅客船ふぇにっくすじゅにあ運航阻害事件

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成17年1月12日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(内山欽郎,原 清澄,勝又三郎)

受審人
A 職名:ふぇにっくすじゅにあ機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)
指定海難関係人
B 職名:C社運航管理者

損害
充電器回路の遮断器の切断,運転不能

原因
主機が遠隔操縦不能になったのちの措置不適切

主文

 本件運航阻害は,主機が遠隔操縦不能になったのちの措置が不適切あったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月29日13時40分
 福島県小名浜港
 (北緯36度55.36分 東経140度53.00分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船ふぇにっくすじゅにあ
総トン数 45トン
登録長 19.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 654キロワット
(2)設備等
ア ふぇにっくすじゅにあ
 ふぇにっくすじゅにあ(以下「本船」という。)は,C社が所有する平成4年4月に進水した2機2軸の鋼製旅客船で,同時期に建造された双頭形のふぇにっくすと共に福島県小名浜港内及び同港周辺の観光遊覧業務に従事しており,主機として,同船と型式は異なるものの同じD社製の電気始動式ディーゼル機関を両舷に装備していた。
 なお,C社は,E社内の観光遊覧船事業部門が同12年4月に分離・独立して設立された会社で,本船とF号の2隻を所有し,旅客数に応じて両船を適宜使い分けていた。
イ 船内電源
 本船の電気設備は,F号とほぼ同じ仕様で,補機駆動式220ボルト交流発電機(以下「交流発電機」という。)1台を動力や照明等の電源用として,また,主機駆動式24ボルト直流発電機(以下「直流発電機」という。)2台を主機の制御装置及び計器警報盤等の電源用として装備しており,24ボルト直流電源回路には,交流発電機からも変圧・整流器(以下「充電器」という。)を介して給電できるようになっていた。そのほか本船には,主機及び補機の始動用として,2個ずつ直列に接続された2系統の蓄電池が,24ボルト直流電源回路に接続して設置され,直流発電機と充電器から充電されるようになっていた。
ウ 主機の操縦
 主機は,24ボルト直流電源による電気制御によってクラッチとガバナの遠隔操縦が可能なほか,同電源を切れば機側ハンドルで操縦することも可能であった。

3 事実の経過
 本船は,直流発電機で24ボルト直流電源の給電及び蓄電池の充電を行いながら小名浜港内及び同港周辺の観光遊覧業務に従事していたところ,直流発電機の調子が悪くなったので,修理業者に修理を依頼するため,平成15年12月10日主席機関長が同発電機を2台とも取り外して陸揚げし,その後は充電器から24ボルト直流電源を給電しながら運航に従事していた。
 B指定海難関係人は,修理された直流発電機2台を同月下旬ごろ修理業者から受け取ったが,主席機関長からVベルトの張りの調整等が必要なので取付けは整備業者にしてもらったほうがよいとの助言を受けたこともあって,同発電機を翌年春に予定している定期整備時に取り付ける予定で社内に保管していた。また,同人は,同16年1月上旬ごろ主席機関長から蓄電池の性能が低下してきたようだとの報告を受けたので,蓄電池の使用年数を考慮のうえ,次回の定期整備時に蓄電池を新替えする予定で,2月中旬に予備の蓄電池を入手して保管していた。
 一方,A受審人は,直流発電機が取り外されたのちも5回以上本船に機関長として乗り組んで運航に従事していたが,入社以来,普段の業務に支障がなかったからか主機の取扱説明書をよく読んでおらず,機側操縦の方法を修得していなかった。
 2月29日,本船は,小名浜港内観光遊覧の目的で,いつもどおりA受審人が補機及び主機を始動器盤の始動スイッチで順次始動させ,主機の操縦を操舵室からの遠隔操縦に切り替えたのち,10時00分当日の第1便として小名浜港1号埠頭の桟橋を発した。
 A受審人は,出港後の機関室点検時に主配電盤の点検も行ったが,遮断器等に異常は認めなかった。
 その後,本船は,蓄電池の性能劣化による容量低下のために過大な充電電流が流れたことによるものか,充電器回路の遮断器が切れて充電器からの給電が遮断されたため,24ボルト直流電源回路に接続されていた蓄電池から直流電源が給電されるようになり,そのまま主機を連続運転して運航を続けているうち,蓄電池電圧が次第に低下する状況となっていた。
 ところが,A受審人は,11時00分発の第2便及び12時00分発の第3便で機関室の点検を行ったものの,主配電盤の点検までは行わなかったので,このことに気付かなかった。
 本船は,蓄電池の電圧が低下した状態のまま,A受審人ほか2人が乗り組み,旅客25人を乗せ,船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,13時00分前示の桟橋を発し,第4便として港内観光遊覧業務に従事していたところ,蓄電池の電圧が更に低下したことによって,警報装置が作動せず警報ランプも点灯しないまま,いつしか主機の遠隔操縦とクラッチ操作が不可能な状況になっていた。
 操舵室で操船に当たっていた船長は,港内観光遊覧を終えたものの時間が少し早かったことから,時間調整のために13時35分主機を減速させようとしたが,両舷機とも回転数が下がらないうえクラッチを切ることも操舵室からの危急停止もできなくなっているのを認めたので,傍にいたA受審人に調査を命じ,その場で旋回しながら復旧を待った。
 A受審人は,ガバナ系統の接触不良であろうと判断して同系統の点検を行ったものの,原因が全く分からず,主機の遠隔操縦装置を正常に復旧させることができなかったうえ機側操縦の方法も知らなかったので,桟橋まで機側操縦に切り替えて運転するなどの適切な措置を取ることができないまま,事態を船長に報告した。
 こうして,本船は,A受審人から原因が不明であるとの報告を受けた船長が,自力航行は不能であると判断し,13時40分,小名浜港第2西防波堤東灯台から真方位334度250メートルの地点において,会社に救助を要請した。
 当時,天候は曇で風力4の南西風が吹いていた。
 船長から連絡を受けたB指定海難関係人は,直ちにタグボート会社に曳航を依頼した。
 本船は,来援したタグボートに曳航されて近くの岸壁に着岸し,修理業者が調査したところ,充電器回路の遮断器が切れていて24ボルト直流電圧が零近くまで低下しているのが発見されたので,翌日,直流発電機が取り付けられるとともに蓄電池が新替えされた。

(本件発生に至る事由)
1 直流発電機が取り外されたままになっていたこと
2 蓄電池の性能が低下していたこと
3 過大な充電電流が流れて充電器回路の遮断器が切れたこと
4 A受審人が充電器回路の遮断器が切れていることに気付かなかったこと
5 24ボルト直流電源電圧が低下して主機の遠隔操縦が不能になったこと
6 A受審人が主機の機側操縦の方法を知らなかったこと
7 A受審人が主機を機側操縦に切り替えなかったこと

(原因の考察)
 本件は,小名浜港内の観光遊覧中に24ボルト直流電源電圧が異常低下して主機が遠隔操縦不能となった際,運航不能と判断して救助を要請したものであるが,本船は,遠隔操縦だけでなく機側操縦でも主機の運転が可能であった。
 すなわち,本船は,主機の遠隔操縦が不能になっても,A受審人が機側操縦に切り替えて運航を継続していれば,救助を要請する事態には至らなかったと認められる。
 したがって,本件は,A受審人の主機遠隔操縦不能後の措置が適切でなかったことが原因となる。
 一方,直流発電機が取り外されたままになっていたこと,蓄電池の性能が低下していたこと,及びA受審人が主配電盤の点検を十分に行わなかったことは,本件が発生するに至る過程で関与した事実ではあるが,いずれも主機の遠隔操縦不能の要因ではあっても本件と相当な因果関係があるとは認められないので,本件発生の原因とは認められない。
 しかしながら,A受審人が主配電盤の点検を毎航海十分に行っていれば,遮断器が切れていることや電圧が低下していることなども早期に発見することができ,結果として本件の発生を防止できたと認められるので,同種事故防止の観点から,機関室内の点検時には主配電盤の点検も行うことが望ましい。

(海難の原因)
 本件運航阻害は,小名浜港において,操舵室で主機を遠隔操縦しながら航行中,主機の遠隔操縦が不能になった際,その後の措置が不適切で,航行不能に陥ったことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,操舵室で主機を遠隔操縦しながら航行中,遠隔操縦が不能になったのを認めた場合,機側操縦でも運転が可能であったから,直ちに機側操縦に切り替えて主機の運転を継続すべき注意義務があった。ところが,同人は,機側操縦の方法を修得しておらず,適切な措置が取れなかった職務上の過失により,航行不能に陥って救助船に曳航される事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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