(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月2日11時00分
北海道神威岬沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートはまなす |
全長 |
9.34メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
125キロワット |
3 事実の経過
はまなすは,FRP製モーターボートで,A受審人(昭和56年5月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,友人1人を乗せ,魚釣りの目的で,船首1.0メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,平成16年5月2日06時00分Dマリーナを発し,神威岬沖合の釣り場に向かった。
ところで,はまなすは,主機としてB社製のKAD42A/DP型と称する船内外機関を搭載し,冷却海水系統は,主機直結のヤブスコ式冷却海水ポンプにより吸引された海水が油冷却器,空気冷却器及び清水冷却器を経由するようになっており,冷却清水温度が摂氏95度で作動する警報装置が取り付けられていた。また,機関取扱説明書では,前示冷却海水ポンプゴム製インペラが経年衰耗することから,主機運転200時間毎,もしくは年1回交換するよう推奨していた。
一方,はまなすは,C社所属のプレジャーボート等を救助,曳航するためのモーターボートで,C社の代表取締役であるA受審人が,個人の釣り用としても使用しており,年間の使用時間は200時間ほどであった。同人は,平成11年ないし12年に主機冷却海水ポンプを整備した際,インペラを交換したことがあったものの,その後は,一度もインペラを交換しておらず,いつしかインペラは経年衰耗が進んだ状況となっていた。
A受審人は,そろそろ主機冷却海水ポンプを整備してインペラを交換する時期であるとの認識はあったが,これまで問題なく主機を運転してきたことから,あとしばらくの間は整備しなくとも大丈夫と思い,インペラを交換するなど,同ポンプの整備を十分に行うことなく,発航したものであった。
07時40分A受審人は,釣り場に到着して機関を中立とし,友人とともに釣りをしていたところ,インペラが破断して主機冷却海水ポンプが揚水不良となり,11時00分神威岬灯台から真方位326度9.4海里の地点において冷却水温度警報を発した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,海上は平穏であった。
A受審人は,直ちに操縦席に赴いたところ,パネルにある冷却清水温度計が摂氏100度を示しているのを認め,機関を停止して機関各部を点検し,冷却海水ポンプインペラの損傷と判明したものの,予備品もなく修理ができず,携帯電話により海上保安部に救助を依頼し,はまなすは,巡視艇等により来岸漁港に引き付けられ,のち修理された。
(原因)
本件運航阻害は,主機冷却海水ポンプの整備が不十分で,インペラが経年衰耗したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,機関の保守管理に当たる場合,経年とともに主機冷却海水ポンプのインペラが衰耗するから,所定の周期でインペラを新替えするなど,同ポンプの整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,これまで運転してきたから大丈夫と思い,同ポンプの整備を十分に行わなかった職務上の過失により,沖合の釣り場において同ポンプのインペラが破断を招き,自力航行が不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。