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平成16年門審第100号
件名

貨物船第参拾旭洋丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年3月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治,清重隆彦,寺戸和夫)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第参拾旭洋丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B社 業種名:海上運送業
補佐人
C,D(ともにA及びB選任)
指定海難関係人
E社 業種名:海上運送業
補佐人
F,G

損害
一等航海士が両下肢断裂による出血性ショックで死亡

原因
船倉内作業の危険に対する判断不適切,B社が,乗組員の倉内立ち入り禁止を徹底しなかったこと,E社が,貨物移動防止措置を講じなかったこと

主文

 本件乗組員死亡は,船倉内作業の危険に対する判断が不適切で,第参拾旭洋丸乗組員が,船倉内に立ち入り,船体の動揺により,移動した貨物と船側壁の間に挟まれたことによって発生したものである。
 B社が,乗組員の倉内立ち入り禁止を徹底しなかったことは,本件発生の原因となる。
 E社が,貨物移動防止措置を講じなかったことは,本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月13日11時30分
 遠州灘
 (北緯34度31.6分 東経137度32.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第参拾旭洋丸
総トン数 468トン
全長 75.09メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 882キロワット
(2)設備及び性能等
 第参拾旭洋丸(以下「旭洋丸」という。)は,平成7年8月に進水した全通二層船尾機関型鋼製貨物船で,国内各地の貨物輸送に従事していたが,同12年1月から,主に亜鉛地金と製錬所から出るスラグの輸送を行い,亜鉛地金については,1箇月間に2回程度八戸港から阪神,瀬戸内海方面への積み出し輸送に従事していた。
 船倉は,長さ36メートル,幅8メートル,深さ6メートルのものが1個で,船側壁には貨物固縛用の金具が,また,鋼製ハッチカバーが装備され,船倉前後部に出入口扉が設けられていた。

3 事実の経過
 旭洋丸は,A受審人,一等航海士Hほか3人が乗り組み,亜鉛地金約925トンを積載して,船首3.28メートル船尾4.52メートルの喫水をもって,平成15年10月11日15時30分八戸港を発し,大阪港に向かった。
 ところで,旭洋丸は,発航に先立ち,E社J営業所の職員と荷役打ち合わせを行ったのち,同日08時40分から15時20分までI社により,同船乗組員立会いの下に,積荷役が行われ,K社の製品である長さ160センチメートル(以下「センチ」という。),幅及び高さが各々35センチ,重量約840キログラムの亜鉛地金383個が,船横にして船倉の後部隔壁から中央部に船側壁から約75センチ離して,油紙製ターポリンの上に長さ約12メートルに渡って2段積みされ,その船首側に約6メートルの間隔をあけて,長さ90センチ,幅45センチ,高さ50センチ,重量約1,000キログラムの亜鉛地金604個を前部隔壁まで船側壁から約40センチ離して同様に3段積みされ,その上にブルーシートを被せて荷積みされていたが,貨物移動防止措置はとられていなかった。
 E社は,前示の亜鉛地金を旭洋丸に積荷役を行う際,長年貨物移動事故がなかったことから,何ら貨物移動防止措置をとっていなかった。
 B社は,旭洋丸が貨物移動防止措置をとらずに,亜鉛地金を運搬していることを知っており,日頃の訪船活動を通して安全指導を行っていたが,同船乗組員に対し,亜鉛地金を積載航行中の船倉への立ち入り禁止を徹底指導していなかった。
 発航後,旭洋丸は,船橋当直体制を03時から07時の時間帯を一等航海士,07時から11時の時間帯をA受審人,11時から15時の時間帯を甲板長がそれぞれ立直する単独4時間交代制をとって,南下を続けた。
 翌々13日07時00分A受審人は,駿河湾沖で船橋当直に就き,針路を自動操舵により269度(真方位,以下同じ。)に定め,機関を全速力前進にかけ,11.7ノットの対地速力で進行した。
 11時00分A受審人は,舞阪灯台から168度9.3海里の地点で,同針路,同速力のまま甲板長に船橋当直を引き継ぎ,降橋して昼食を摂ったのち,亜鉛地金に結露を生じると揚荷役の際にクレームがつくので,結露の有無を調べるため,貨物の点検を思い立った。
 A受審人は,当日07時40分からの気象無線模写通報を受信し,自船付近を前線を伴った低気圧が通過中であることを知り,気圧が下降傾向を示し,風力も増加傾向にあったものの,これらの気象情報に留意せず,しかも船倉には貨物移動防止措置が施されていないことを知っており,船倉の貨物移動の危険が予想される状況であったから,船倉への立ち入りを禁止する措置をとるべきであったが,過去に貨物移動事故がなかったことや,この程度の海象であれば船体の大傾斜は起こらないだろうから大丈夫と思い,船倉内作業の危険に対する判断が不適切で,自らが11時15分ごろ船倉に向かい,貨物に多少の結露を認めたので,同時20分から1人で,これの拭き取り作業をしていたところ,同時25分H一等航海士と一等機関士が,自発的に船倉内に降りてきたことから3人で同作業を行った。
 11時30分わずか前A受審人は,船体の動揺で貨物が少し移動したので,危険を感じて,「逃げろ」と叫び,自らは船尾側の亜鉛地金の上に登り,一等機関士は船尾側と船首側の貨物の隙間に逃れたが,H一等航海士は11時30分舞阪灯台から203度10.0海里の地点で,増勢した強風により,急に船体が右舷側に大傾斜して,同側に移動した船尾側の亜鉛地金と右舷船側壁に両下肢を挟まれた。
 当時,天候は雨で風力7の南風が吹き,最大波高約5.5メートルであった。
 その結果,海上保安庁に救助要請を行い,バラストタンクの漲水により船体傾斜を修正して松阪港に向け航行中,H一等航海士は,14時30分両下肢断裂による出血性ショックで死亡した。
 本件発生後,B社は,航行中の船倉への立ち入り禁止を徹底し,E社は,亜鉛地金積載時の貨物移動防止措置をとった。

(本件発生に至る事由)
1 航行中の船倉への立ち入り禁止が徹底されていなかったこと
2 船倉内に貨物移動防止措置が講じられていなかったこと
3 低気圧が接近していたこと
4 A受審人の船倉内作業の危険に対する判断が適切でなかったこと
5 乗組員が航行中の船倉内に立ち入ったこと

(原因の考察)
 本件は,旭洋丸が,突風などの荒天が予想される気象状況の下で航行中,乗組員が,貨物移動防止措置が講じられていない船倉内に立ち入ったため,船体の横傾斜に伴う貨物移動により発生したものであり,A受審人が,気象状況と自船の貨物積載状況から,船倉内作業の危険に対する判断を適切に行い,乗組員の船倉内立ち入りを禁じていたならば,本件発生を防止することができた。
 したがって,A受審人が,船倉内作業の危険に対する判断を適切に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B社が,旭洋丸乗組員に対して,航行中の船倉への立ち入り禁止を徹底していなかったことは,本件発生の原因となる。
 E社が,旭洋丸に貨物移動防止措置を講じなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗組員死亡は,遠州灘において,亜鉛地金を積載して西行中,船倉内作業の危険に対する判断が不適切で,乗組員が船倉内に立ち入り,作業中の同乗組員が,船体の動揺により,移動した貨物と船側壁の間に挟まれたことによって発生したものである。
 B社が,旭洋丸乗組員に対して,航行中の船倉への立ち入り禁止を徹底していなかったことは,本件発生の原因となる。
 E社が,旭洋丸に貨物移動防止措置を講じなかったことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,低気圧が接近している気象状況の下,移動防止措置が講じられていない亜鉛地金を積載して遠州灘を西行する場合,貨物移動の危険が予想される状況であったから,船倉内作業の危険に対する判断を適切に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,過去に貨物移動事故がなかったことや,この程度の海象ならば大傾斜は起こらないだろうから大丈夫と思い,船倉内作業の危険に対する判断を適切に行わなかった職務上の過失により,貨物の点検を思い立って自らが船倉内に入り,自発的に来援した一等航海士及び一等機関士と共に,船倉内で貨物の結露拭き取り作業を実施中,悪化した天候により貨物移動が発生し,同航海士が貨物と船側壁に挟まれて,死亡するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 B社が,旭洋丸乗組員に対して,航行中の船倉への立ち入り禁止を徹底していなかったことは,本件発生の原因となる。
 B社に対しては,本件発生後,航行中の船倉への立ち入り禁止を徹底していることに徴し,勧告しない。
 E社が,旭洋丸に貨物移動防止措置を講じなかったことは,本件発生の原因となる。
 E社に対しては,本件発生後,貨物移動防止措置をとっていることに徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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