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平成16年横審第34号
件名

漁船第三十一石田丸漁船一号石田丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年3月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(中谷啓二,安藤周二,小寺俊秋)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:第三十一石田丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第三十一石田丸船首甲板長

損害
甲板員が腹腔内出血で死亡

原因
投網作業時,索具に対する監視不十分

主文

 本件乗組員死亡は,投網作業時,索具に対する監視が不十分で,索が緊張し始めた際,注意喚起がなされなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月6日04時38分
 宮城県金華山南西方沖合
 (北緯38度06分 東経141度20分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十一石田丸 漁船一号石田丸
総トン数 80トン 11トン
全長 38.20メートル 13.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 669キロワット 639キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第三十一石田丸
 第三十一石田丸(以下「石田丸」という。)は,平成12年11月に進水した,大中型まき網漁業に従事する鋼製網船で,船団で行う操業時に指揮をとるとともに,魚群を包囲して投網する役割を担っていた。
 船首部に上甲板上高さ約1.5メートルで長さ約6メートルの船楼甲板を備え,その後端から船橋前面まで約6.5メートルにわたり上甲板(以下「前甲板」という。)が続き,船橋を挟んで船尾側の上甲板に長さ約12メートル幅約6メートルのネットスペースが作られていた。
 使用する網は,長さ約1,200メートル幅約110メートルで,その上辺両端にアバワイヤ,多数のリングを介し下辺に沿ってパースワイヤと呼ばれる直径25ミリメートルのワイヤがそれぞれ取り付けられ,ネットスペースに置かれており,投網後にアバワイヤを巻くウインチが船楼甲板後部中央及びネットスペース前方の左舷側に,パースワイヤを巻くウインチが前甲板左舷側の中央部及び後部に設置されていた。(以下,前示ウインチをそれぞれ「前部アバウインチ」「後部アバウインチ」「前部パースウインチ」及び「後部パースウインチ」という。)
 また,前部アバウインチ及び両パースウインチに各ワイヤを導く三方ローラ及びパースダビットが,船楼甲板先端及び船首端から約12メートル後方の前甲板右舷船側にそれぞれ取り付けられていた。
イ 一号石田丸
 一号石田丸は,平成元年10月に進水した,軽合金製まき網漁業付属船で,レッコボートと称され,網船による投網時,網の片側のアバ,パース両ワイヤの端部を保持して洋上に停留し,自船を起点に旋回して投網を終えた網船に同端部を引き渡す作業に就いていた。
 船首端から約3.7メートル後方に操舵室を備え,同室前方の船首甲板右舷側に,前示作業においてアバ,パース両ワイヤの端部を係止するフック式ストッパ(以下「ストッパ」という。)2個が並置され,ストッパ右方の甲板上高さ約35センチメートルのブルワーク上に両ワイヤ用フェアリーダが取り付けられていた。

3 投網時の作業概略
 投網時の配置は,石田丸の船橋に漁ろう長,船長ほか3人,船首に船首甲板長ほか4人,両パースウインチに各1人及び船尾に船尾甲板長ほか7人がそれぞれ就き,一号石田丸に2人が乗り組むもので,総指揮は漁ろう長が執り,船首尾の作業については各甲板長が指揮することになっていた。
 一号石田丸は,石田丸船尾にチェーンにより係止された状態で,同船ネットスペースに置かれている網の片側のアバ,パース両ワイヤを右舷ブルワーク上のフェアリーダを介し船首甲板に導き,それらの端部を各ストッパに掛けて投網準備となった。
 石田丸においては,網の他方の各ワイヤが後部アバウインチ及び同パースウインチにそれぞれ係止されており,漁ろう長の投網合図で一号石田丸を切り離すとともに,船尾で網を同船に連結した側から投下し,旋回しながら繰り出して投網開始位置に戻り,同船からストッパ部のアバ,パース両ワイヤ端部に継ぎ足した長さ約33メートルの各先取り用ワイヤ(以下,それぞれ「アバ巻きワイヤ」「パース巻きワイヤ」という。)を受け取ることにしていた。そして,アバ巻きワイヤを三方ローラーを介し前部アバウインチに,パース巻きワイヤをパースダビットの滑車を介し繰り出している前部パースウインチ付きワイヤにそれぞれ連結し適宜たるみをとって,一号石田丸にストッパを外す旨の合図をし,ストッパが外されると投網作業が終了して魚群を囲んだ網のアバ,パース各ワイヤがすべてウインチに直結した状態になり,次いで網裾を締めるため各パースワイヤを巻き込む環締め作業が開始されていた。また,投網作業は,網投下から作業終了まで5ないし6分間ほどの緊張した流れ作業であった。

4 事実の経過
 石田丸は,運搬船2隻,探索船及びレッコボート各1隻とともに船団を組み,千葉県野島埼から青森県尻屋埼にかけての沖合で,主にいわし,さば漁などに従事していたところ,A受審人,B指定海難関係人ほか21人が乗り組み,船首2.1メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成15年8月5日20時40分宮城県石巻港を発し,一号石田丸を船尾に引いて船団僚船とともに漁場に向かい,同日23時ごろ金華山南方沖に至って操業を開始した。
 翌6日早朝石田丸は,金華山南西方約16海里付近で2回目の投網にかかることとしてA受審人,B指定海難関係人を含む全員が配置に就き,所要の作業灯等を点灯し,一号石田丸には平成5年からともに網船の甲板員を務め,約1年半のレッコボート乗船経歴がある船長Cと甲板員Dが乗り組んで投網準備を行った。
 04時32分A受審人は,漁ろう長の合図で一号石田丸を切り離し,約10ノットの対地速力で右旋回しながら網を繰り出し,04時37分ごろ南東に向き停留している同船の位置に戻り,機関を中立にし南方に向首して停止した。そして,石田丸は,右舷船首部が一号石田丸の左舷船首部と約5メートルの間隔で並び,同船からアバ巻き,パース巻き各ワイヤを受け取る状態になった。
 ところでA受審人は,平素,投網作業での事故防止にあたり,船内で話合いを持って自身が気付いた注意点を適宜皆に知らせるなどしていたが,索具の緊張に起因するレッコボートの危険に対しては,これまでアバ巻き,パース巻き両ワイヤが緊張することで同ボートが傾いたり乗組員が落下しそうになる事態を経験していなかったことから,作業指揮者ほか乗組員に,各自の役割を明確にして両ワイヤに対する監視を十分に行い,互いに必要な合図,注意喚起を確実にすることなど安全対策を周知徹底していなかった。
 こうして石田丸は,船首楼甲板右舷後部に位置した甲板員が,一号石田丸のD甲板員からの投索により両巻きワイヤ端部を受け取り,パース巻きワイヤが前部パースウインチ付きワイヤに,アバ巻きワイヤが前部アバウインチにそれぞれ連結され,たるみをとるため巻き込みが始まった。そして,そのころ折からの潮流の影響を受けて後退し始め一号石田丸との間隔が開いていった。
 B指定海難関係人は,一号石田丸との間隔が開くにつれパース巻きワイヤが緊張し始めたが,前部アバウインチの操作に専念していて同ワイヤの状態を自身で監視するなり他の甲板員に報告させるなり作業指揮を適切にとらなかったので,このことに気付かなかった。そして,前部パースウインチ操作者にいったんワイヤを緩めろとか一号石田丸に急ぎストッパを外せなど注意喚起がなされなかった。
 一号石田丸は,D甲板員がゴム長靴を履き,救命衣,ヘルメットを着用してストッパを外す合図を待ち,船首甲板でストッパ後方に立っていたとき,パース巻きワイヤが緊張して船体がその衝撃で動揺し,04時38分金華山灯台から真方位228度16.2海里の地点において,体勢を崩したD甲板員が右舷船側と,ブルワーク上フェアリーダから海中に延びているパースワイヤ間の海面に転落し,パース巻きワイヤに引かれて左転しながら北東に向いた船体とパースワイヤに挟まれた。
 当時,天候は晴で風力3の北北東風が吹き,付近には弱い北流があり,ほぼ日出時であった。
 C船長は,操舵室から転落を目撃してストッパを外し,A受審人は,機関中立とし操船を終えて間もなく船首付近の海面にD甲板員が浮いているのを見て事故を知り,事後の措置にあたった。
 その結果,D甲板員は,僚船により石巻港に運ばれ病院に搬送されたが,腹腔内出血により死亡した。
 なお,本件後,石田丸においては,船首作業での役割が確認され,各ワイヤ監視,ストッパを外す合図等は船首甲板長が責任をもって行うこととし,また,アバ巻き,パース巻き両ワイヤにより長いものを使用することとして,それらが実施された。

(本件発生に至る事由)
1 船長兼安全担当者が,パース巻きワイヤなどが緊張することでレッコボートが傾いたり乗組員が落下しそうになる事態を経験していなかったこと
2 船長兼安全担当者が,索具緊張に起因するレッコボートの危険に対し,安全対策を周知徹底していなかったこと
3 石田丸が南からの潮で後退し一号石田丸との間隔が開いたこと
4 石田丸と一号石田丸間とのパース巻きワイヤが緊張したこと
5 船首甲板長が,作業指揮を適切にとらなかったこと
6 一号石田丸甲板員がストッパ後方に立っていたこと
7 一号石田丸甲板員が索の緊張による船体動揺で体勢を崩して船側とパースワイヤ間に転落したこと

(原因の考察)
 本件は,石田丸と一号石田丸間とのパース巻きワイヤが緊張したとき,一号石田丸甲板員がストッパ後方に立っていて,索の緊張による船体動揺で体勢を崩して船側とパースワイヤ間に転落する事態に至ったものと認められ,船長兼安全担当者が,索具緊張に起因するレッコボートの危険に対し,安全対策を周知徹底していなかったこと,及び船首甲板長が,作業指揮を適切にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 船長兼安全担当者がパース巻きワイヤなどが緊張することでレッコボートが傾いたり乗組員が落下しそうになる事態を経験していなかったこと,及び石田丸が南からの潮で後退し一号石田丸との間隔が開いたことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗組員死亡は,金華山南西方沖合で投網作業中,索具に対する監視が不十分で,網船とレッコボート間の索が緊張し始めた際,注意喚起がなされず,レッコボート乗組員が,索の緊張による船体動揺で体勢を崩して海中に転落し,船体と船側を通り海中に延びている網付きの索間に挟まれたことによって発生したものである。
 作業が適切でなかったのは,船長兼安全担当者が,投網作業での事故防止にあたり,索具の緊張に起因するレッコボートの危険に対し,安全対策を周知徹底していなかったことと,船首甲板長が,作業指揮を適切にとらなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,投網作業での事故防止にあたる場合,索具の緊張に起因するレッコボートの危険に対し,作業指揮者ほか乗組員に,各自の役割を明確にしてアバ巻きワイヤ,パース巻きワイヤに対する監視を十分に行い,互いに必要な合図,注意喚起を確実にすることなど安全対策を周知徹底すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,これまでワイヤが緊張することで同ボートが傾いたり乗組員が落下しそうになる事態を経験していなかったことから,安全対策を周知徹底しなかった職務上の過失により,パース巻きワイヤが緊張し始めた際,注意喚起がなされず,同ワイヤの緊張による一号石田丸の動揺を招き,同船乗組員が海中に転落し死亡する事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 B指定海難関係人が,投網作業に際し,船首作業指揮を適切にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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