(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月25日12時25分
新潟県小木港(佐渡島)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートアミーゴ |
全長 |
7.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
95キロワット |
3 事実の経過
アミーゴは,船内に装備したディーゼル機関で船尾に取り付けたアウトドライブユニットを駆動するプレジャー用のキャビン付FRP製モーターボートで,モーターボートの販売店が企画した佐渡クルージングに参加中,平成10年4月に取得した一級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が船長として乗り組み,販売店従業員1人を含む7人が同乗し,遊泳の目的で,船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,仲間のモーターボート1隻と共に,平成16年7月25日11時00分新潟県佐渡島の小木港中央埠頭を発し,同港内西方に位置する平島周辺の岩場に向かった。
ところで,アミーゴのキャビンは,船体の中央部よりやや前方に位置していて,右舷側に操縦席が,後部に甲板への出入口が設けられ,天井がスライド式の天窓になっていた。また,キャビン後方の甲板には,船尾中央部にエンジン格納庫が,その両側に座席を兼ねた蓄電池格納庫と物入がそれぞれ配置され,船尾両舷のブルワーク上にパルピットと称する高さ15センチメートルのハンドレールが取り付けられていた。
A受審人は,11時07分ごろ前示の岩場に至って同乗者と一緒に1時間ほど遊泳を行ったものの,あいにくの肌寒い天候だったので早めに遊泳を切り上げ,仲間のモーターボートより先に岩場を発進して帰途に就いた。
A受審人は,操縦ハンドルの前に立って天窓から顔を出した姿勢で操船に当たり,接岸予定の小木港中央埠頭の手前で微速力とし,右舷付けするつもりで岸壁に向かって斜めに進行したのち,船首が岸壁から約2メートルの距離に接近したところで行き足を止めるために舵を右にきって操縦レバーを後進に操作した。
一方,船尾にいた販売店従業員は,後進操作によって船尾が岸壁側面に吊り下げられたゴムタイヤ製のフェンダーに接触する状態になったので,岸壁上のビットに取り付けられている係留索を本船に渡そうと思い,操船しているA受審人に合図をしないまま,左足をエンジン格納庫上に置き,右足を右舷側のパルピット上に乗せて岸壁に飛び移ろうとしていた。
ところが,A受審人は,販売店従業員から合図がなかったうえ,接岸することに気を取られて後方の状況確認を行わなかったので,販売店従業員が岸壁に飛び移ろうとしていることに気付かなかったばかりか,その直後,船首を岸壁に近づけようとして操縦レバーを前進に操作したとき,同従業員が岸壁とアウトドライブユニット間に転落したが,このことにも気付かなかった。
こうして,アミーゴは,A受審人が,販売店従業員が海中に転落したことに気付かないまま,行き足を止めるために舵を中央に戻して操縦レバーを後進に操作したところ,12時25分,小木港東第2防波堤灯台から真方位272度1,300メートルの地点において,海中に転落した同従業員が,回転したアルミ合金製プロペラに接触して負傷した。
当時,天候は曇で風力2の南東風が吹き,海上は穏やかであった。
この結果,販売店従業員が,頭蓋骨骨折及び脳挫傷等により2箇月半の治療を要する傷を負った。
(原因)
本件同乗者負傷は,新潟県佐渡島の小木港において,接岸予定の中央埠頭岸壁至近で操船する際,後方の状況確認が不十分で,同乗者が,岸壁とアウトドライブユニット間に転落して回転中のプロペラに接触したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,接岸予定の岸壁至近で操船する場合,後部に同乗者が乗っていたのであるから,同乗者に危険がないよう,後方の状況確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,接岸することに気を取られ,後方の状況確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同乗者が岸壁に飛び移ろうとしていることに気付かないまま操船して,その同乗者が岸壁とアウトドライブユニット間に転落して回転中のプロペラに接触する事態を招き,同人に2箇月半の治療を要する傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。