日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  死傷事件一覧 >  事件





平成16年神審第81号
件名

漁船第十二専西丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年2月17日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一,平野浩三,中井 勤)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:第十二専西丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第十二専西丸船舶所有者

損害
甲板員が溺死

原因
荒天航行時,船体動揺により身体の平衡を失したこと

主文

 本件乗組員死亡は,荒天航行中,甲板上に出た乗組員が,船体動揺により身体の平衡を失い,海中に転落したことによって発生したものである。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月7日06時15分
石川県金沢港北西方沖合
(北緯36度46.2分 東経136度16.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第十二専西丸
総トン数 16.20トン
登録長 14.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 294キロワット
(2)設備及び性能等
 第十二専西丸(以下「専西丸」という。)は,昭和58年3月に竣工した沖合底びき網漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で,船体中央よりやや後方に操舵室を備え,同室にはレーダー及びGPSを装備していた。
 操舵室後方には,機関室,乗組員居住区及び賄室が配置され,賄室船尾側に後部甲板への出入口があり,船内には便所の設備を有しておらず,最大速力は,機関回転数毎分1,400の約11ノットで,半速力は,同900の約8ノットであった。

3 事実の経過
 専西丸は,A受審人及び甲板員Cほか3人が乗り組み,底びき網漁の目的で,船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成15年2月6日23時00分石川県金沢港を発し,同港北西方沖合約20海里の漁場に向かい,翌7日01時00分同漁場に到着して操業を行っていたが,その後,天候が悪化し,05時50分同船が所属するD会から操業中止の指示を受け,僚船24隻とともに帰途につくこととした。
 A受審人は,乗組員に対し,荒天航行中に,後部甲板上に出る際には,救命胴衣を着用し,船橋当直者及び他の乗組員に知らせるよう,平素から十分に指示していた。
 B指定海難関係人は,専西丸に便所が設備されていなかったことから,荒天航行中に用を足すため,後部甲板上に出る際には,その旨を船橋当直者に知らせるよう,平素から十分に注意を促していた。
 C甲板員は,叔父であるA受審人を頼って漁船員を志し,平成14年6月から専西丸に乗り組み,同人から船内における作業及び生活に対する指導を受け,すでに十分に慣れていた。
 操業中止の指示を受けたのち,A受審人は,漁網を直ちに収容し,06時00分金沢港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から295度(真方位,以下同じ。)19.6海里の地点を発進し,針路を金沢港口に向かう115度に定め,右舷正横から寄せる波浪による船体への衝撃を和らげるため,機関を半速力前進にかけ,7.5ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
 定針したのち,A受審人は,船体が時折大きく動揺していたところ,乗組員に食事をとらせ,金沢港入港まで休息させることとして続航した。
 06時14分C甲板員は,食事を終えて片付けを済ませ,用を足すためジャージ姿で長靴を履き,救命胴衣を着用しないで,船橋当直者及び船員室で休息中の他の乗組員に知らせず,賄室の後部出入口から後部甲板に出た。
 06時15分C甲板員は,西防波堤灯台から295度17.8海里の地点において,船体が大きく動揺したとき,身体の平衡を失い,乗組員が気付かないまま,海中に転落した。
 当時,天候は晴で風力6の南西風が吹き,高さ2.5メートルの波浪があった。
 07時45分A受審人は,甲板員からの報告で,C甲板員が船内にいないことを知り,所在確認にあたったが,見つからないのでC甲板員が海中に転落したものと判断し,僚船にその旨を知らせるとともに直ちに反転して捜索に当たった。
 その後,僚船,海上保安庁の巡視船及び航空機が捜索を続け,同月9日C甲板員は,転落地点付近の海域において衣服を着用した状態の溺死体で発見された。

(本件発生に至る事由)
1 荒天航行中,C甲板員が,用を足すため後部甲板上に出るにあたり,その旨を船橋当直者及び他の乗組員に知らせなかったこと
2 荒天航行中,C甲板員が,後部甲板上に出るにあたり,救命胴衣を着用しなかったこと
3 荒天航行中,C甲板員が,用を足すため後部甲板に出たこと

(原因の考察)
 石川県金沢港北西方沖合において,荒天航行中,甲板員が用を足すため,後部甲板上に出る際,救命胴衣を着用し,船橋当直者及び他の乗組員に知らせていれば,かなりの動揺があったとしても海中に転落及び溺死となる事態を回避することは可能であったものと認められる。
 したがって,C甲板員が,救命胴衣を着用しないで後部甲板に出るにあたり,その旨を船橋当直者及び他の乗組員に知らせなかったことから,船体動揺により身体の平衡を失い,海中に転落したことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗組員死亡は,荒天航行中,救命胴衣を着用しない乗組員が,用を足すため後部甲板に出た際,船体動揺により身体の平衡を失い,海中に転落したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
 B指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION