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平成16年函審第66号
件名

漁船第八十八浜雄丸被引漁船第十八海宝丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年2月2日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(黒岩 貢,古川隆一,野村昌志)

理事官
山田豊三郎

受審人
A 職名:第十八海宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
乗組員が溺死

原因
曳航作業時の安全措置不十分

主文

 本件乗組員死亡は,曳航作業時の安全措置が不十分で,曳航索を係止した揚錨機が台座ごと剥離して曳航索至近にいた乗組員がはねられ,海中転落したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月1日20時10分
 北海道霧多布港北東方沖合
 (北緯43度05.8分 東経145度09.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八十八浜雄丸 漁船第十八海宝丸
総トン数 9.7トン 9.7トン
全長   18.90メートル
登録長 14.86メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   257キロワット
漁船法馬力数 120  
(2)設備及び性能等
ア 第八十八浜雄丸
 第八十八浜雄丸(以下「浜雄丸」という。)は,昭和62年4月に進水したさんま棒受網漁業等に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室が,その後方に機関室囲壁が配置されていた。また,船尾甲板両舷ブルワークトップにたつと呼称される係船柱が設置されており,他船を曳航する際の曳航索係止箇所として使用されていた。
イ 第十八海宝丸
 第十八海宝丸(以下「海宝丸」という。)は,昭和57年2月に進水したさんま棒受網漁業等に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室があり,船首甲板中央部にドラムを左右に装備した揚錨機が,同機と船首端との間に船底から立ち上がったたつが,その真横の両舷ブルワークトップにシーアンカー係止用鋼製リングがそれぞれ設置されていた。

3 事実の経過
 海宝丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,さんま棒受網漁の目的で,船首1.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成15年10月1日14時00分霧多布港を発し,同港南方沖合の漁場に向かった。
 16時50分A受審人は,漁場に向け航行中,湯沸岬(とぶつみさき)灯台から169.5度(真方位,以下同じ。)11.7海里の地点に達したとき,機関室からの異臭に気付いて同室を点検したところ,機関始動用バッテリーケーブルが焼損しているのを認めて機関を停止し,漂泊を開始した。
 A受審人は,予備のケーブルもなく,バッテリーによる無線機の使用や航海灯の点灯は可能であったものの,機関の始動ができなかったことから,17時ごろ僚船の浜雄丸に無線で霧多布港までの曳航を依頼した。
 また,浜雄丸は,船長ほか5人が乗り組み,さんま棒受網漁の目的で,船首0.35メートル船尾2.15メートルの喫水をもって,平成15年10月1日15時00分霧多布港を発し,17時ごろ同港の南方15海里沖合において魚群探索中,海宝丸から曳航依頼があり,同船に向かった。
 A受審人は,曳航準備として,船首部両舷ブルワークトップのリングにそれぞれ取り付けた長さ5メートルのビニールカバー付きワイヤロープと,たつに係止して長さ5メートルとした係留索とをそれらの先端でまとめ,それにシーアンカー用の径40ミリメートルの化学繊維製アンカーロープをシャックルで繋いで曳航索とすることとし,実弟のB乗組員ほか2人に準備作業を行わせたが,救命胴衣の着用を指示せず,17時30分少し前到着した浜雄丸の船尾両舷のたつに係止された長さ約5メートルの2本の曳航索に,自船のアンカーロープを150メートル一杯に延ばして繋がせた。
 17時30分浜雄丸は,自船の船尾から海宝丸の船首までの距離を約160メートルとし,海宝丸からの準備完了したとの無線連絡を受けて霧多布港に向け前示漂泊地点を発進し,19時50分霧多布港東防波堤灯台から043度1,300メートルの地点に達したとき,行きあしを止め,入港に備えて曳航索を短縮するよう海宝丸に無線で連絡し,同船の操舵室にいたA受審人は,その旨をB乗組員に指示した。
 B乗組員は,他の乗組員とともに曳航索を30メートルまで短縮したものの,同索を強度のあるたつに係止せず,FRP製の台座に据え付けられた揚錨機のドラムに巻いて係止し,揚錨機船首側の曳航索至近に立ち入った状態のまま準備が完了した旨をA受審人に報告した。
 A受審人は,甲板照明ができず,暗闇で船首甲板の様子が分からない状況であったが,B乗組員がかつて同様の作業を問題なく行っていたから大丈夫と思い,曳航索の係止箇所や乗組員が曳航索の至近から待避しているかなど,曳航作業の安全確認を十分に行わず,20時09分浜雄丸に曳航を再開するよう無線で連絡した。
 無線連絡を受けた浜雄丸は,曳航再開のため,クラッチの嵌脱を繰り返しながら機関を極微速力前進にかけ,霧多布港東防波堤灯台に向け223度の針路で再発進し,20時10分同灯台から043度1.0海里の地点において,曳航索のたるみをとって張り合わせたとき,海宝丸の揚錨機が台座ごと甲板から剥離し,同船の船首に立っていたB乗組員が同機にはねられて海中に転落した。
 当時,天候は曇で風はなく,潮候は下げ潮の中央期で,付近には微弱な北東流があり,日没は17時02分であった。
 この結果,A受審人は,直ちに浜雄丸及びC組合にB乗組員の捜索を依頼するとともに,自らも付近海域を捜索したが,同人を発見できず,同月15日08時30分ごろ海中転落地点付近を航行中の漁船が海中に浮いているB乗組員を発見し,検死の結果,溺死と検案された。

(本件発生に至る事由)
1 海宝丸のバッテリーケーブルが焼損して機関を始動できなくなったこと
2 事故発生時,甲板照明ができなかったこと
3 A受審人が,甲板作業に従事する乗組員に対し,救命胴衣の着用を指示しなかったこと
4 港口で曳航索を短縮した際,乗組員が同索を揚錨機のドラムに係止したこと
5 乗組員が曳航索の至近に立ち入ったこと
6 A受審人が,曳航作業再開時,同作業の安全確認を行っていなかったこと

(原因の考察)
 A受審人が,曳航再開時に安全確認を十分に行っていれば,乗組員が曳航索を揚錨機のドラムに係止したり,曳航索の至近に立ち入ったとしても,これを回避することができ,本件発生を防止できたものと認められる。
 また,乗組員が,曳航索を短縮した際,同索を揚錨機のドラムに係止することなく,たつに係止し,曳航索の至近に立ち入らなければ,本件発生を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,曳航再開時,安全確認を十分に行わなかったこと及び乗組員が曳航索を揚錨機のドラムに係止し,曳航索の至近に立ち入っていたことは本件発生の原因となる。
 A受審人が,乗組員に対し,救命胴衣の着用を指示していたなら,海中転落しても救助され,同人が死亡に至らなかったことも考えられるが,曳航作業の安全措置が十分であれば乗組員が海中転落することもなく,本件は発生しておらず,本件と相当の因果関係があるとは認められない。
 海宝丸のバッテリーケーブルが焼損したこと及び甲板照明ができなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当の因果関係があるとは認められない。
 しかしながら,いずれも海難再発防止の観点からは是正すべき事項である。

(海難の原因)
 本件乗組員死亡は,夜間,北海道霧多布港沖合において,曳航作業の安全措置が不十分で,曳航索を係止した揚錨機が台座ごと剥離して曳航索至近にいた乗組員がはねられ,海中転落したことにより発生したものである。
 安全措置が不十分であったのは,船長が,曳航作業の安全確認を十分に行わなかったことと,乗組員が,曳航索を揚錨機のドラムに係止したこと及び曳航索の至近に立ち入ったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,北海道霧多布港沖合において,被曳航船の船長として曳航作業の指揮に当たる場合,曳航索を強度のある安全な箇所に係止しているか,また,乗組員が安全な場所に待避しているかなど,曳航作業の安全確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同受審人は,以前,乗組員が同様の作業を問題なく行っていたことから特に確認することもあるまいと思い,安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により,乗組員が曳航索を揚錨機のドラムに係止したことにも,曳航索の至近に立ち入っていたことにも気付かないまま曳航を再開し,乗組員が,台座ごと甲板から剥離した揚錨機にはねられて海中転落する事態を招き,乗組員を死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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