(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月28日10時00分
沖縄県宜野湾漁港西方沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船唯丸一号 |
総トン数 |
4.8トン |
登録長 |
9.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
156キロワット |
3 事実の経過
(1)唯丸一号
唯丸一号は,平成9年7月に進水し,主にそでいか旗流し漁業に従事する一層甲板型のFRP製漁船で,船首方から順に船首倉庫,前部甲板,機関室囲壁,操舵室及びオーニングが張られた船尾甲板を配していた。
また,操舵室内は,前部中央部に舵輪を備え,その前面の棚上に主機遠隔操縦装置,操舵装置操作盤,レーダー,GPSプロッター及び魚群探知機などを配していたほか,機関の回転数制御,逆転減速機の嵌脱操作及び操舵機の遠隔操作ができる遠隔管制器を備えていた。
船尾甲板は,その周囲に高さ91センチメートル(以下「センチ」という。)のブルワークが設けられ,船尾端から約1.3メートル前方の両舷のブルワーク上に,一辺の長さ10センチ高さ36センチの木製係船用ビット(以下「ビット」という。)が各1本設けられていた。また,船尾側ブルワーク上の両舷端には,ラインホーラが各1台設けられていた。
(2)本件発生に至る経緯
A受審人は,平成16年5月28日05時30分ごろ総トン数4.2トンのC丸に乗り組んでいた同人の息子である船長Bから「宜野湾漁港西方沖にあるさんご礁外縁に乗り揚げた。」旨の電話連絡を受けて自宅から同漁港に乗用車で急行し,C丸の乗揚状況を確認するために友人所有の船外機付モーターボート(以下「ボート」という。)でその乗揚現場に赴き,ほぼ南西方に向首して乗り揚げているC丸の状況などを確認したのち同漁港に戻り,唯丸一号でC丸を曳航して引き下ろすこととし,直径18ミリメートル長さ200メートルの輪状に巻いた曳航索を唯丸一号に積み込んだ。
唯丸一号は,A受審人が1人で乗り組み,知人1人を乗せ,C丸の引き下ろし作業を行う目的で,船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,08時00分宜野湾漁港を発し,友人が操縦するボートとともに,C丸の乗揚現場に向かった。
08時15分過ぎC丸の乗揚現場に到着したA受審人は,半そでのポロシャツ,作業ズボン及び布製運動靴を着用し,積み込んだ曳航索の一端をC丸の船首部に取り,機関を極微速力前進にかけ,北方にある浅瀬を避けるため唯丸一号の船首を西方に向けて進行し,船尾甲板左舷側のビットを利用して同索を延出したのち,逆転減速機を中立として船首左舷側の錨を投錨した。
09時15分A受審人は,船尾甲板左舷側のビットに曳航索を結わえ,前部甲板にある漁労ウインチで錨を巻き上げてC丸の船首を西方寄りに移動させたとき,同行したボートに乗り組んでいた友人から「唯丸一号の右舷側に浅瀬が迫っている。」旨の連絡を受けたことから,同ビットから同索を解き放し,操舵室左舷側後部の同甲板上で遠隔管制器を操作し,機関の回転数を毎分約600として,極微速力前進で唯丸一号を西方に向けながら船尾甲板上に輪状としていた同索を更に延出した。
そして,A受審人は,延出した曳航索が船体動揺の影響を受けて船尾左舷側のラインホーラに接触するなどの不具合が生じる状況となったことから,同ホーラから同索を離すため船尾方に移動することとしたが,直ちに措置しないと同ホーラが損傷すると思い,操船していた操舵室左舷側後部の船尾甲板上に遠隔管制器を投げ置き,足もとの安全確認を十分に行うことなく同ホーラに急行したので,同甲板上に置いていた同索の輪に右足を踏み入れて右足首に同索が絡まり,10時00分宜野湾港北防波堤灯台から真方位021度560メートルの地点において,右足首が同索と船尾甲板左舷側ビットに挟まれ圧迫された。
当時,天候は曇で風力4の南南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は,右足首に絡んだ曳航索を取ろうと試みたものの,逆転減速機を前進側に嵌合した唯丸一号が西方に向けて進行中のままであったことから同索の張力が次第に強まって,これが果たせず,また,主機を停止しようと遠隔管制器に手を差し出したものの,手が同器に届かなかったことから,大声を発して助けを求め,同乗していた知人が異常を認めて駆け付け,主機を停止して同受審人を救出した。
A受審人は,このとき右足に痛みを感じなかったことから引き下ろし作業を続行し,C丸を離礁し終えて宜野湾漁港に帰港したが,自宅で就寝中,翌29日深夜ごろから右足首が著しく痛み出し,同日朝,痛みに耐えかねて病院に赴いた。
その結果,右足関節外果骨折及び右第5指皮膚欠損と診断された。
(原因)
本件乗組員負傷は,宜野湾漁港西方沖において,さんご礁外縁に乗り揚げた僚船を引き下ろすため船尾甲板上に置いた輪状の曳航索を延出中,同索の不具合を直す必要から同甲板を移動する際,足もとの安全確認が不十分で,同索の輪に右足を踏み入れて右足首に同索が絡まったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,宜野湾漁港西方沖において,さんご礁外縁に乗り揚げた僚船を引き下ろすため船尾甲板上に置いた輪状の曳航索を延出中,同索の不具合を直す必要から同甲板を移動する場合,同甲板上に置かれた同索の輪に足を踏み入れることのないよう,足もとの安全確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,直ちに措置しないと船尾左舷側のラインホーラが損傷すると思い,足もとの安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により,船尾方に移動中,同索の輪に右足を踏み入れて同索が絡まり,右足首が同索と同甲板左舷側ビットに挟まれる事態を招き,右足関節外果骨折及び右第5指皮膚欠損を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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