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平成16年神審第98号
件名

漁船福丸潜水者負傷事件(簡易)

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年1月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:潜水者

損害
潜水者が左足甲を開放骨折の負傷

原因
見張り不十分

裁決主文

 本件潜水者負傷は,福丸が,見張り不十分で,素潜り漁に従事していた潜水者の存在に気付かず,同人を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月17日11時45分
 高知県大島南西方沖

2 船舶の要目
船種船名 漁船福丸
総トン数 0.6トン
登録長 5.32メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 18キロワット

3 事実の経過
 福丸は,平成2年10月に進水した,操縦室を有しない和船型FRP製漁船で,同14年12月に交付された二級小型船舶操縦士(5トン限定)免状を有するA受審人が1人で乗り組み,高知県宇須々木漁港での水揚げを終え,同県大島漁港に帰港する目的で,船首0.03メートル船尾0.05メートルの喫水をもって,同15年12月17日11時35分宇須々木漁港を発し,大島漁港へ向かった。
 A受審人は,17日の朝,土佐長崎鼻灯台北東方0.3海里付近の漁場において,5ないし6隻の同業漁船とともにぼら一本釣り漁を行い,約80キログラムの漁獲を獲たところで操業を終え,水揚げを行うため,素潜りで採介藻漁業に従事する漁業者(以下「潜水者」という。)を度々見掛けたことのある,大島と矢竹島間の水路を経由して宇須々木漁港に寄港したのであるが,同漁港を出港後,大島の北側を経由するコースで大島漁港へ向かっていたところ,昼食用の弁当を持参していたことなどから,前示漁場に残った他の同業漁船が,まだ操業を続けているならば,自らも再び操業することに決め,漁場を見渡せる同島南側へ迂回するコースで帰港することとし,11時43分半池島灯台から177度(真方位,以下同じ。)690メートルの地点で,針路を155度に定め,機関を全速力前進にかけ,7.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,船外機付きの舵柄による手動操舵によって進行した。
 ところで,A受審人は,自船が全速力前進で航走すると,船首浮上により水平線が少しばかり舳先に隠れ,船首部両舷に渡る数度の範囲に死角が生じる状況であったので,平素は,適宜,船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを行っていたのであった。
 定針したとき,A受審人は,正船首方320メートルのところに,B指定海難関係人が,潜水者である自らの存在を示す目印として浮かべた,直径55センチメートル高さ50センチメートルの白い発砲スチロール製の漁具(以下「浮き」という。)を視認でき,その付近に潜水者が潜っていると容易に推認できる状況となったが,1時間ばかり前,宇須々木漁港へ向かう際に当該海域を通過したときには,何らの障害物も認めなかったことから,航行の支障となるようなものは存在しないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,目印の浮きを見落とし,その至近で操業していたB指定海難関係人の存在に気付かないまま,同人を避けることなく続航した。
 こうして,A受審人は,その後も,依然として,船首死角を補う見張りを十分に行わず,B指定海難関係人の存在に気付かないまま進行中,11時45分池島灯台から170度990メートルの地点において,福丸のプロペラと,折悪しく海面に浮上してきた同人の左足甲とが接触した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好であった。
 また,B指定海難関係人は,黒い潜水スーツを着用し,何らの漁業規制もない大島付近海域において,同日10時00分同島南岸沖から素潜りによる採介藻漁業を始め,徐々に場所を移動したのち,11時43分半既述した接触地点に至り,目印の浮きを浮かべて操業に従事していたところ,11時45分息継ぎのため海面に浮上したとき,前示のとおり接触した。
 接触の結果,福丸に損傷はなかったものの,B指定海難関係人が左足甲を開放骨折した。

(原因)
 本件潜水者負傷は,高知県大島南西方沖において,福丸が,船首死角を補う見張りが不十分で,潜水者が自らの存在を示すために浮かべた目印の浮きを見落とし,その至近で操業していた潜水者の存在に気付かないまま,同人を避けることなく進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,高知県大島南西方沖において,時折,素潜り漁に従事している潜水者を見掛けることがある海域を航行する場合,船首方に死角が生じていたのであるから,潜水者との接触を避けるため,その存在を示す目印の浮きを見落とすことがないよう,船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,1時間ばかり前,宇須々木漁港へ向かう際に当該海域を通過したときには,何らの障害物も認めなかったことから,航行の支障となるようなものは存在しないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,目印の浮きを見落とし,その至近で操業していた潜水者の存在に気付かないまま,同人を避けることなく進行して接触を招き,自船に損傷はなかったものの,潜水者の左足甲を開放骨折させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。





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