(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月19日15時30分
秋田船川港秋田区
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート |
水上オートバイ |
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アキタシーパラダイスクラブ |
カリス |
総トン数 |
9.7トン |
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全長 |
11.98メートル |
2.86メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
323キロワット |
80キロワット |
3 事実の経過
アキタシーパラダイスクラブ(以下「シーパラダイス」という。)は,C社が製造した最大とう載人員12名のFRP製プレジャーモーターボートで,平成16年7月19日11時00分A受審人ほか友人8人が秋田船川港秋田区内のDマリーナに集合し,同受審人と友人5人が乗り組み,同受審人が操縦して同マリーナを発し,その後秋田船川港秋田南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から025度(真方位,以下同じ。)1,910メートルの,新北防波堤東側付近に錨泊し,カリスと他の水上オートバイが到着してから,両オートバイの発着と船内でのレジャーに使用された。
また,カリスは,定員2名のウォータージェット推進式FRP製水上オートバイで,シーパラダイスに到着後,平成16年5月に交付された一級小型船舶操縦士と特殊小型船舶操縦士の免許を有し,10年ほど前から水上オートバイの操縦経験のある受審人が前部操縦席に座り,後部座席に同乗者1人を乗せ,その船尾に直径10ミリメートル,長さ20メートルの合成繊維製のロープを結わえ,その他端にビニール製トーイングチューブ(以下「チューブ」という。)を結び,これに他の友人を乗せたうえ,高速力でえい航し,旋回しながら遊走を行っていた。
ところで,チューブは,外径2メートル深さ0.3メートルのドーナツ形浮体で,チューブ上端に8個の取っ手を備えていた。
A受審人は,救命胴衣を着用したのち,友人達がシーパラダイス内で食事と雑談をしている間,カリスを単独で操縦し,友人1人をえい航していたチューブに乗せ,1回につき約5分間かけて旋回し,遠心力で横滑りするときのスリルを楽しみながら2回遊走した。
その後,A受審人は,救命胴衣を着用した同乗者をカリスの後部座席に,同胴衣を着用した遊泳者Bをチューブにそれぞれ乗せ,同人にチューブ上端の取っ手につかまるよう指示したのち,15時29分シーパラダイスの左舷側船尾部を発し,新北防波堤の東側海域で遊走を開始した。
こうして,A受審人は,後部座席の同乗者に自らの腰付近を両手で挟むような姿勢にさせ,操縦ハンドル右側のアクセルを徐々に上げて増速し,シーパラダイスの北側に至ったころ,毎時40キロメートルの対地速力(以下「速力」という。)としたのち,速力を維持しながら同ハンドルを右に取り,同時に体重を右側に移し,直径約100メートルの円弧を描くような態勢で右回り旋回を始めた。
A受審人は,旋回を続けて1周半を終え,その旋回径が徐々に広がり始め,15時30分少し前南防波堤灯台から028度2,000メートルの地点に達し,180度を向首していたとき,右舷船首75度125メートルのシーパラダイスに,えい航中のチューブの旋回径も広がって同船と衝突のおそれがある態勢になりつつあったが,カリスとチューブが同じところを旋回しているものと思い込み,シーパラダイスまでの距離を確かめて減速するなどして安全運航に対する配慮を十分に行うことなく,旋回径が広がって同船に近づいていることに気付かないまま旋回を続けた。
A受審人は,カリスを同じ速力としたまま,チューブをえい航して旋回中,15時30分南防波堤灯台から025度1,930メートルの地点に達したとき,チューブとB遊泳者は,南防波堤灯台から025度1,910メートルの地点において,シーパラダイスの左舷側船尾部外板に衝突した。
当時,天候は雨で風力3の南西風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
その結果,シーパラダイス及びカリスには損傷がなく,チューブは破裂し,B遊泳者は1箇月の入院加療を要する左肺挫傷,左上腕骨骨折,左肩甲骨骨折及び多発肋骨骨折を負った。
(原因)
本件被引遊泳者負傷は,秋田船川港秋田区において,カリスが,遊走のため,遊泳者を乗せたチューブを高速力でえい航しながら旋回する際,安全運航に対する配慮が不十分で,旋回径が徐々に広がり始めたチューブが,錨泊中のシーパラダイスに衝突したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,秋田船川港秋田区において,遊走のため,同乗者を後部座席に乗せてカリスを操縦し,遊泳者を乗せたチューブを高速力でえい航しながら旋回する場合,旋回を続けると同じ旋回径を維持するのは困難であるから,シーパラダイスに接近しないよう,同船までの距離を確かめて減速するなどして安全運航に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,カリスとチューブが同じところを旋回しているものと思い込み,安全運航に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により,カリスの旋回径が広がっているとともに,えい航中のチューブの旋回径も広がってシーパラダイスと衝突のおそれがある態勢になりつつあったことに気付かずに遊走し,チューブが,錨泊中の同船に衝突する事態を招き,チューブを破裂させたうえ,遊泳者に左肺挫傷,左上腕骨骨折,左肩甲骨骨折及び多発肋骨骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。