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平成16年門審第128号
件名

油送船三共丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年3月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(寺戸和夫,織戸孝治,上田英夫)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:三共丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
タービン動翼,ノズルリング,ノズル案内筒,玉軸受及びシールリングなどが損傷

原因
主機用過給機の開放整備不十分

主文

 本件機関損傷は,排ガスエコノマイザの水洗作業中,主機用過給機が汚濁水でぬれ損した際,同過給機の開放整備が十分に行われないまま,主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月23日07時55分
 周防灘の宇部港沖合
 (北緯33度50分 東経131度20分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船三共丸
総トン数 472トン
全長 65.22メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分353
(2)設備及び性能等
ア 三共丸
 三共丸は,A重油燃料を専用に運ぶ船首尾楼付船尾機関室型の鋼製油送船で,昭和62年旧船名で進水し,その後船籍や所有者が移り変わり,平成8年から同9年にかけて,現在の所有者,船籍及び船名となって,主たる積地を水島,徳山下松,宇部及び菊間各港とし,九州各地の港に就航していた。
イ 主機用過給機
 三共丸の主機は,B社製のLH28型と称するディーゼル機関で,可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を装備し,船尾側の上方部に,C社製のVTR201-2型と称する排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を取り付けていた。
 過給機は,ほぼその真上に設置されている排ガスエコノマイザ(以下「排エコ」という。)と,排ガス管で接続されており,何らかの理由で煙突上端から大量の雨水が浸入したり,排エコ水洗作業用の洗浄水がドレン溜まりに多量に滞留した場合などには,その雨水や洗浄水が,同管を逆流して過給機のタービン車室に流れ込み,過給機の内部がぬれ損するおそれがあった。
 また過給機は,排エコ内部や空気冷却器など主機の吸排気系統の汚損で,主機負荷の急変時にサージングを頻発するようになっていた。
ウ 排ガスエコノマイザ(排エコ)
 排エコは,過給機から排出された排ガスと,排エコ内部の循環水管を流れる清水とを熱交換させる装置で,排ガスは,熱交換によって排エコの下方から上方へ流れるにしたがってその温度が低下し,このため排ガスに含まれるカーボンや煤などの燃焼残渣や未燃焼生成物が循環水管の外部表面に付着(以下「付着物」という。)し,熱交換の効率低下や同管の腐食が起こりやすい状況であった。
 このような状況に加え,三共丸は,主機の燃料油として,航行中はA重油とC重油を3対7の割合に混合したブレンド油を使用していたので,前示付着物の発生も多く,循環水管群の隙間が詰まるようになり,A受審人が乗り組み始めた平成13年には,前任者が既に循環水の通水を止めて排エコの熱交換機能を停止させていたものの,同隙間の閉塞は徐々に進行を続けていた。
 ところで排エコには,上方に縦30センチメートル(以下「センチ」という。)横50センチの水洗用及び点検用の開口部が,下部にドレン溜まりがそれぞれあり,同溜まりの最下部にドレンあるいは排エコ内部洗浄後の汚濁水を排出するため,呼び径80ミリメートルのドレン弁が取り付けられ,同溜まり底部から排ガス管接続部までの深さは,10ないし15センチであった。
エ 排ガスエコノマイザ(排エコ)の水洗作業
 排エコは,内部の汚損が著しく進行して,前示の熱交換が甚だしく低下したときや,排ガスの流れが滞って過給機の運転に支障が生じるようなときには,内部の掃除を行ってカーボンや煤の塊など循環水管の付着物を除去する必要があった。
 排エコの掃除は,各船舶で様々な方法が実施されているが,三共丸においては,主機を停止した直後で排エコが未だ高温状態のとき,水洗用開口部を取外して同部から圧力が1キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の清水をビニールホースで散布し,放水の衝撃及び循環水管と散布水との大きな温度差で付着物を剥離脱着させる方法(以下「水洗作業」という。)が採用されていた。
 循環水管から剥離脱着した付着物は,散布水とともにドレン溜まりに落下し,開弁したままのドレン弁から排出されることとなっていたが,付着物を含んだ散布水はほぼ泥状に近い汚濁水となり,このため水洗作業中に同弁が閉塞したりすれば,汚濁水がそれほど大きくないドレン溜まりに溢れ,排ガス管を逆流して過給機の内部に流れ落ちるおそれがあるので,同作業を行うにあたっては,ドレン弁の閉塞を防止すること,また閉塞したら速やかに同作業を中断して汚濁水排出の措置を講じること,可能であれば汚濁水が逆流しても過給機内部にまで至ることのないような手段を講じること,万一汚濁水が過給機内部に流入したときには,過給機を開放して掃除などの適切な整備を行ったのち,運転を再開することなどが必要であった。

3 事実の経過
 三共丸は,排エコ内部の低温腐食や付着物堆積の増加を防止するため,平成13年ごろから排エコへの循環水の通水を取り止め,過給機から排エコに流れ込む排ガスを,循環水と熱交換せず煙突から船外に排出しながら運航を続け,平成14年5月,造船所に入渠して第1種中間検査工事を行い,このとき過給機を開放して玉軸受の新替えなど必要な整備を実施した。
 その後,三共丸は,A重油対C重油が3対7のブレンド油を航行中の使用燃料油としている主機が,排エコを含めた吸排気系統の汚損により,負荷が急変したときなどに過給機のサージングを起こすようになり,やがて同サージングが頻発し始め,燃焼不良及び同汚損の進行が悪循環となって顕著となったことから,平成16年9月の定期検査工事で主機の空気冷却器を取り替える予定であった。
 三共丸は,平成16年6月22日10時15分,A受審人ほか4人が乗り組み,水島港で積荷のA重油500キロリットルを積み込み,船首2.4メートル船尾3.8メートルの喫水で,同港を発して佐世保港に向かったところ,航海計画に余裕があったことと,前示の空気冷却器が既に準備されていたことから,同日11時10分水島港玉島地区に立ち寄り,同冷却器を船内に搬入して乗組員が現装の旧冷却器と交換する作業を行い,16時10分再度同地区を発した。
 水島港玉島地区を発した三共丸は,主機の燃料油をブレンド油に切り替えたのち,CPPのピッチ角を14.5度として速力9.5ないし10.0ノット(対地速力,以下同じ。)で航行していたところ,過給機が激しいサージングを繰り返すようになったので,A受審人は,主機製造会社に対応方法を問い合わせ,過給機出口の排ガス通路即ち排エコの閉塞を指摘され,経験はなかったが助言に従って排エコの水洗作業を行うこととした。
 そして三共丸は,17時00分主機を停止して岡山県茂床島の沖合に錨泊し,乗組員全員で排エコ内部の水洗作業に着手したが,A受審人は,過給機の排気入口ケーシングに取り付けてある盲プラグを取り外したものの,タービン車室のドレン抜きは固着して取り外せず,また,水洗作業で生じる汚濁水がドレン弁を閉塞させるおそれを考慮して,作業前から同弁を取り外しておくことや,同弁の閉塞を防ぐよう及び同閉塞に速やかに気付いて即座に水洗作業が中断できるよう,必要な人員を配置しておくことなど,いずれも適切な措置を講じないまま同作業を開始した。
 A受審人は,排エコの上方に設けられた内部点検及び水洗用開口部の防熱蓋を取り外し,同部から低圧の清水を内部に散布しながら,併せてドレン溜まりのドレン弁を開けたまま,同弁の下に容量20リットルの金属容器を置き,洗浄によって付着物を含んだ汚濁水を容器に受けながら回収を続けた。
 そののちA受審人は,汚濁水回収の金属容器を6缶目に取り替えて水洗作業を続けていたところ,ドレン弁が閉塞して汚濁水が排出しなくなったことを知り,直後ドレン溜まりを溢れた汚濁水が排ガス管を逆流し始め,事前に取り外していた過給機排気入口ケーシングのドレンプラグ開口部から,汚濁水が噴出し始めたとの連絡を受けた。
 驚いたA受審人は,水洗作業を中断してドレン弁を取り外し,同弁の内部を掃除して復旧したのち,閉塞が再発しないよう弁下端からドライバを差し込み続け,同弁から汚濁水が連続して排出していること,及び過給機の前示開口部からは汚濁水が噴出しないことを確かめながら同作業を再開した。
 水洗作業を終えたA受審人は,同作業中過給機の内部が汚濁水でぬれ損し,また床面に散乱している汚濁水を見て,その性状が煤を多量に含んで泥のようであったことや,主機の再始動のためにエアランニングを実施したとき,過給機の開口部から汚濁水が排出するのを認めており,過給機内部にカーボンや煤の塊を含んだ汚濁水が溜まっているおそれがあったが,一端中断した同作業を再開したのちは,同開口部から汚濁水は噴出していなかったことから,主機の運転には支障ないだろうと思い,過給機の開放整備を行わないまま,18時30分主機の運転を再開して錨泊地を発した。
 こうして三共丸は,主機の排気温度がやや高めであったことから,CPPのピッチ角を平素より1度下げて速力9.5ノットで航行中,排エコの水洗中に過給機のタービン動翼やロータ軸が汚濁水でぬれ損しており,このとき付着した汚濁水中のカーボンなどの燃焼残渣物や未燃焼生成物が高熱によって硬化し,過給機が,回転体のバランスが不均一となって振動を起こすようになり,軸受の摩耗が進行して回転体がケーシングなどの固定部と接触し始め,翌23日07時55分宇部岬港沖防波堤灯台から真方位146度6.4海里において,前示摩耗及び接触が著しく進行してタービン動翼,ノズルリング,ノズル案内筒,玉軸受及びシールリングなどが損傷した。
 当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,海上は穏やかであった。
 船橋に居たA受審人は,機関室からの大きな異音を耳にして同室に急行し,主機の運転状態が正常でないことを認め,主機を停止したのち過給機内部が損傷しているとの判断を下し,所属する会社に運航継続の不能を報告した。
 その結果,三共丸は,最寄りの造船所に緊急入渠し,過給機のロータ軸完備品やノズルリングなど,損傷した部品を新替え修理した。

(原因の考察)
 本件機関損傷は,排エコの水洗作業を行っているとき,洗浄水が,排エコ内部に付着している燃焼残渣物や未燃焼生成物を含んで汚濁水となり,同汚濁水が排ガス管を逆流して,過給機の内部がぬれ損したことによって発生したことは明らかである。
 A受審人は,過給機内部がぬれ損しているのを認めたとき,汚濁水が,カーボンや煤などを含んだ泥状となっていることも認めていたのであるから,業者に依頼するなどして,速やかに過給機の内部を開放整備し,安全運航の措置をとらなければならず,また同措置を妨げる要因は何もなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,過給機のぬれ損を認めたとき,過給機の開放整備を十分に行わないまま主機を始動して運転を再開したことは,本件発生の原因となる。
 水洗作業開始前にドレン弁を取り外しておくなどの準備が適切でなかったこと,同作業中,取り外したドレン弁の開口部に人員を配置し,開口部から汚濁水の流出が一瞬でも止れば直ちに洗浄水の散布を停止するなどの措置が適切でなかったこと,排エコを含めた吸排気系統の汚損が著しく,過給機のサージングが頻発し,運転上の負の連鎖が続いていたことなどについては,本件に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらのことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,排ガスエコノマイザの水洗作業中,同作業によって生じた汚濁水が排ガス管を逆流して主機用過給機がぬれ損した際,同過給機の開放整備が不十分で,汚濁水に含まれるカーボンなどの燃焼残渣物や未燃焼生成物がタービン動翼やロータ軸に付着したまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,錨泊して排ガスエコノマイザの水洗作業を開始し,同作業中,汚濁水が排ガスエコノマイザ下部のドレン溜まりをオーバーフローして排ガス管を逆流し,主機用過給機がその汚濁水でぬれ損したのを認めた場合,汚濁水には,排ガス中のカーボンなどの燃焼残渣物や未燃焼生成物が大量に含まれており,湿った同残渣物がタービン動翼やロータ軸に付着したまま運転すると,回転体のバランスが不均一となって大きな振動を生じるから,作業を終了して主機の運転を始める前に,同過給機を開放して整備を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,ドレン弁や過給機の盲プラグ開放部を通して汚濁水はすべて排出したので運転には支障ないだろうと思い,同過給機の開放整備を十分に行わなかった職務上の過失により,水洗作業を終えて航行を再開したとき,回転体が振動するようになって軸受が摩耗し,回転体とケーシングなどの固定部が接触する事態を招き,過給機のタービン動翼,ノズルリング,ノズル案内筒,玉軸受及びシールリングなどが損傷するに至り,主機の運転を断念せざるを得なくなった。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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