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平成16年函審第52号
件名

漁船豊福丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年3月29日(岸良 彬,黒岩 貢,古川隆一)

審判庁区分
函館地方海難審判庁

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:豊福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
減速機の出力軸軸受の異常摩耗と同軸の折損

原因
主機逆転減速機の開放点検不十分

主文

 本件機関損傷は,主機の逆転減速機の開放点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月25日23時30分
 北海道岩内港西方沖合
 (北緯43度00.0分 東経140度20.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船豊福丸
総トン数 19トン
全長 24.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 558キロワット
回転数 毎分1,400
(2)豊福丸
 豊福丸は,平成7年6月に進水した,えびかご漁業及びすけとうだら刺網漁業に従事するFRP製漁船で,北海道岩内港を基地として日帰り操業を行っていた。
(3)主機及び逆転減速機
 主機は,B社が製造した6N160-EN型と称するディーゼル機関で,同社製のY-380型の逆転減速機(以下「減速機」という。)を装備し,これにプロペラ軸が連結していた。
 減速機は,入力軸,後進軸,2本の前進軸及び出力軸を有し,入力軸が後進軸に直結しており,後進軸と前進軸にはいずれも入力歯車,クラッチ及び小歯車を,出力軸には大歯車をそれぞれ備え,これらの軸が両端の円錐ころ軸受(以下「軸受」という。)で支えられる構造となっていた。
 出力軸は,炭素鋼(材料記号S45C)製で,全長が490ミリメートル(以下「ミリ」という。)あり,大歯車の嵌合部の径が160ミリ,船尾側軸受の嵌合部の径が120ミリであった。
 また,減速機の潤滑油は,同機底部の油だめに35リットル張り込まれており,歯車及び軸受への注油のほか,クラッチの作動油として供給され,潤滑油ポンプの吐出側に油こし器が設けられていた。
 そして,減速機の動力伝達経路は,前進時が,入力歯車,前進入力歯車,前進クラッチ,前進小歯車及び大歯車の順に,後進時が,入力歯車,後進クラッチ,後進小歯車及び大歯車の順にそれぞれ伝わり,出力軸を正転または逆転させる仕組みとなっていた。

3 事実の経過
 豊福丸は,毎年1月中旬から2月中旬までを,すけとうだら刺網漁に,3月初めから12月末までをえびかご漁にそれぞれ従事し,主機を年間2,600時間ばかり運転していた。
 ところで,えびかご漁は,10メートル間隔でかごを取り付けた全長1,600メートルのロープを,海中から揚縄機で巻き揚げてえびを獲ったのち,餌を入れて再び海中に投下するもので,1回の操業で4本のロープを巻き揚げており,巻き揚げの際,ロープが強く張らないよう,機関を頻繁に前進,中立に操作していたことから,減速機の軸受が急激な変動負荷を繰り返し受けて材料疲労が急速に進行するおそれがあり,新造後6年目の定期検査時期に開放点検する必要があった。
 A受審人は,操船の傍ら機関の保守運転管理にも従事し,主機及び減速機の日常整備については,父親の知人である陸上の機関業務経験者に依頼して,潤滑油の新替えやこし器の掃除などを行い,平成13年7月に新造から6年目の定期検査時期を迎えるに当たり,同年2月整備業者の勧めに従って主機のピストン抜き整備を行ったが,整備業者から減速機の開放点検を強く勧められなかったことからこのままでも大丈夫と思い,減速機の開放点検を十分に行わなかったので,出力軸の軸受2個が材料疲労を起こして異常摩耗していることに気付かなかった。
 その後,豊福丸は,減速機の出力軸の軸受が異常摩耗したまま運転が続けられているうち,同軸の軸心が偏移し,大歯車嵌合部と船尾側軸受の嵌合部の段付き部に回転曲げ応力が集中し,同段付き部に亀裂を生じ始めた。
 こうして,豊福丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,えびかご漁の目的で,船首1.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成15年10月25日22時30分岩内港を発し,同港西方約10海里の漁場に向けて,折からの時化模様の中を主機回転数を毎分800の半速力前進にかけ,正面から大波を受けるとき機関を中立にとり,大波の通過後は再び前進にとる操作を繰り返しながら進行中,中立から前進に操作したとき,減速機出力軸の前示段付き部が軸方向に対して直角に折損し,23時30分岩内港西防波堤灯台から真方位271度7.7海里の地点において,異音を発した。
 当時,天候は雨で風力5の西南西風が吹き,海上には大波が立っていた。
 航海当直中のA受審人は,乗組員から減速機が大音を発しているとの報告を受けたので航行不能と判断し,海上保安部に救援を求め,豊福丸は,巡視船により発航地に引き付けられ,減速機の開放調査の結果,出力軸軸受の異常摩耗と同軸の折損が判明し,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 機関が頻繁に前進,中立に操作されていたこと
2 A受審人が,減速機の開放点検を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,新造後6年目の定期検査時期に減速機の開放点検を行っていたなら,出力軸軸受の異常摩耗が発見され,同軸受が新替えされて出力軸の軸心の偏移を防止することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,定期検査時期を迎える新造後6年目に,減速機の開放点検を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 機関が頻繁に前進,中立に操作されていたことは,減速機が過酷に使用されていたきらいはあるが,相当期間にわたり正常に運転できていたことから,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機の逆転減速機の開放点検が不十分で,同減速機の出力軸の軸受が材料疲労を起こして異常摩耗したまま運転が続けられ,同軸の軸心が偏移したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機の逆転減速機の保守運転管理に当たる場合,えびかご漁の揚縄中,同減速機が頻繁に前進,中立に操作されており,出力軸の軸受が材料疲労を起こして異常摩耗するおそれがあったから,定期検査時期を迎える新造後6年目に,同機の開放点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,整備業者から逆転減速機の開放点検を強く勧められなかったことからこのままでも大丈夫と思い,同機の開放点検を十分に行わなかった職務上の過失により,出力軸の軸受が異常摩耗したまま運転が続けられ,同軸の軸心が偏移する事態を招き,出力軸を折損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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