(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月12日05時30分
三重県見江島南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八開洋丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
22.85メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
525キロワット |
回転数 |
毎分1,950 |
3 事実の経過
第十八開洋丸(以下「開洋丸」という。)は,平成3年4月に進水した,中型まき網漁業船団のFRP製運搬船で,主機としてB社が製造したS6A3-MTK2型と呼称する,間接冷却方式のディーゼル機関を装備し,操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
主機は,各シリンダに船首側から順番号が付されており,総水量60リットルの冷却清水が清水冷却器と一体となった清水膨張タンクから直結駆動の冷却清水ポンプに吸引されて潤滑油冷却器の冷却管群を通り,各シリンダのシリンダライナとシリンダブロック間の清水ジャケットに分岐し,シリンダヘッド及び排気マニホルド等を冷却して同タンクに戻る経路で循環していた。また,清水膨張タンクには,冷却清水の水面計及び補給用圧力キャップが設けられ,清水ジャケットのシリンダライナ外周下部には,水密用Oリング(以下「Oリング」という。)が装着されていた。
主機の潤滑油系統は,潤滑油がクランク室下部の容量90リットルの油受から直結駆動の潤滑油ポンプに吸引されて潤滑油こし器を通り,潤滑油冷却器で冷却清水と熱交換されて主軸受等の油路に分岐し,クランクピン軸受を潤滑するほか,シリンダライナ下部に取り付けられたノズルから噴射されるピストン冷却油の一部がシリンダライナとピストンとの摺動面(しゅうどうめん)を潤滑し,各部から油受に戻る経路で循環しており,油受には検油棒が差し込まれていた。
ところで,主機は,清水ジャケットのOリングが長期間装着され,平成10年8月に冷却清水が取り替えられていた。
A受審人は,同11年4月に一級小型船舶操縦士の免許を取得した後,開洋丸に船長として乗り組み,操船のほか主機の運転保守にあたり,月間200時間ばかりの運転を繰り返しており,清水膨張タンクの水面計が少し汚れていたものの,平素,適宜に水面計を見たり,油受の検油棒を抜き出したりして冷却清水量と潤滑油量を確かめ,同水量の減少を認めないまま,同15年8月20日に潤滑油の定期交換を行った。
ところが,主機は,その後,5番シリンダの清水ジャケットのOリングが経年劣化したことから,いつしか冷却清水が少しずつ漏洩(ろうえい)して潤滑油に混入する状況となり,清水膨張タンクの冷却清水量が徐々に減少していた。
しかし,A受審人は,翌9月11日朝発航前に主機の運転準備を行う際,これまで清水膨張タンクの冷却清水量は減少したことがないから大丈夫と思い,水面計の汚れを取り除くなどして,同水量を十分に点検しなかったので,その減少に気付かず,冷却清水が漏洩して潤滑油に混入する状況のまま,主機を始動したのち運転を続けた。
こうして,開洋丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首1.25メートル船尾2.50メートルの喫水をもって,同日06時00分三重県贄浦漁港を発し,同県見江島南南西方沖合の漁場に至り,船団で操業を行った後,漁獲物2トンを積み,翌12日04時30分同漁場を発進して帰途に就き,主機を全速力前進の回転数毎分1,750にかけて航行中,前示のとおり5番シリンダの清水ジャケットから漏洩した冷却清水がシリンダライナの外周を伝わってノズルから噴射されるピストン冷却油とともにシリンダライナとピストンとの摺動面へ吹き付けられ,05時30分見江島灯台から真方位215度4.8海里の地点において,シリンダライナとピストンが潤滑不良となって焼き付き,主機が自停した。
当時,天候は晴で風力1の東南東風が吹き,海上は穏やかであった。
A受審人は,操舵室で主機の異状に気付き,機関室に赴いてターニングを試みたものの果たせず,運転を断念した。
開洋丸は,僚船に救助を求めて贄浦漁港に曳航され,主機が業者により精査された結果,5番シリンダの前示焼付きのほか,クランクピン軸受及びクランクピンの摩耗等が判明し,のち中古機関と換装された。
(原因)
本件機関損傷は,主機冷却清水量の点検が不十分で,清水ジャケットのOリングの経年劣化により冷却清水が漏洩して潤滑油に混入する状況のまま運転が続けられ,シリンダライナとピストンが潤滑不良となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,発航前に主機の運転準備を行う場合,清水膨張タンクの冷却清水量の減少を見落とさないよう,水面計の汚れを取り除くなどして,同水量を十分に点検すべき注意義務があった。しかし,同人は,これまで清水膨張タンクの冷却清水量は減少したことがないから大丈夫と思い,同水量を十分に点検しなかった職務上の過失により,その減少に気付かず,清水ジャケットのOリングの経年劣化により冷却清水が漏洩して潤滑油に混入する状況のまま,運転を続けてシリンダライナとピストンの潤滑不良を招き,これらを焼き付かせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。