(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月7日20時30分
北海道襟裳岬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三松七丸 |
総トン数 |
69.78トン |
全長 |
35.35メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
回転数 |
毎分400 |
3 事実の経過
第三松七丸(以下「松七丸」という。)は,昭和54年9月に進水した,さばたもすくい網漁及びさんま棒受網漁に従事する鋼製の漁船で,主機として,B社が製造した6LUDA26G型と称する海水冷却式のディーゼル機関を備え,同機の船尾側上部にC社製のVTR251-2型過給機が設置されていた。
松七丸は,毎年1月から7月までをさばたもすくい網漁に,8月から12月までをさんま棒受網漁にそれぞれ従事し,漁種を変更する7月から8月にかけて機関の整備を行っていた。
A受審人は,平成11年に父親が所有する漁船に3箇月ばかり機関員として乗り組み,その後海洋調査船や引船を転船して同15年4月に松七丸に機関長として乗り組み,機関の保守運転管理に当たった。
ところで,主機過給機は,排気入口ケーシング,排気出口ケーシング及びブロワケーシングで構成され,排気ガス通路の周囲を冷却水で冷却する構造となっていて,水冷壁のガス側及び水側のいずれの面も経年とともに腐食による衰耗が進行することから,過給機メーカーでは,稼動後2年以上経過したものは6箇月ごとに水冷壁の肉厚を計測するよう推奨し,その限度を3ミリメートルと定め,これを過給機取扱説明書に記載して取扱者に注意を促していた。そして,松七丸の過給機は,平成7年7月に排気入口ケーシングと排気出口ケーシングとが,同11年7月に排気入口ケーシングがそれぞれ新替えされていた。
A受審人は,松七丸に乗船してから主機過給機の整備来歴を調査しないまま平成15年7月から8月にかけての機関整備時期を迎え,主機過給機の水冷壁が経年により衰耗しているおそれがあったが,まだしばらくは大丈夫と思い,業者に依頼するなどして,水冷壁の肉厚計測を行わなかったので,排気入口ケーシングの水冷壁が著しく衰耗していることに気付かなかった。
こうして,松七丸は,A受審人ほか14人が乗り組み,さんま棒受網漁の目的で,船首2.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,平成15年9月7日08時00分釧路港を発し,15時ごろ襟裳岬東方沖合の漁場に至って魚群探索中,主機を回転数毎分210の中立運転から前進にとって回転数を上昇させていたところ,過給機排気入口ケーシングの水冷壁に生じた腐食破口部から冷却水が漏洩し,20時30分襟裳岬灯台から真方位100度14.0海里の地点において,煙突から水滴混じりの白煙が噴き出した。
当時,天候は晴で風力2の東風が吹き,海上は穏やかであった。
A受審人は,これに気付いた乗組員から報告を受け,主機各部を調査したところ,過給機排気入口ケーシングの前示破口を認めたので,主機が運転不能となったことを漁労長に告げ,松七丸は,操業を中断して僚船により宮城県気仙沼港に引き付けられ,主機の開放調査が行われた結果,排気管が共通していた4番,5番及び6番シリンダに濡損を,排気入口ケーシングに前示損傷を,排気出口ケーシングの水冷壁に著しい腐食衰耗をそれぞれ生じていることが判明し,のち修理された。
(原因)
本件機関損傷は,主機過給機の水冷壁の肉厚計測が不十分で,同壁が著しく衰耗した状態で運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,機関の保守運転管理に従事する場合,経年とともに主機過給機水冷壁の腐食による衰耗が進行するから,使用限度に達したものを継続使用することのないよう,所定の周期で業者に依頼するなどして,同壁の肉厚計測を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,まだしばらくは大丈夫と思い,過給機水冷壁の肉厚計測を十分に行わなかった職務上の過失により,排気入口ケーシングに著しい腐食衰耗を生じていることに気付かないまま運転を続け,同ケーシングに腐食破口を,排気出口ケーシングに著しい腐食衰耗を,シリンダ3個に濡損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。