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平成16年函審第33号
件名

漁船第三十二福竜丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成17年3月18日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬,黒岩 貢,野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第三十二福竜丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
全焼,のち廃棄処分

原因
集魚灯用安定器の絶縁抵抗測定不十分

主文

 本件火災は,集魚灯用安定器の絶縁抵抗測定が不十分で,絶縁材料が劣化していた同器の電路が短絡したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月12日19時30分
 津軽海峡
 (北緯41度44.3分 東経140度48.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十二福竜丸
総トン数 9.96トン
全長 17.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
(2)第三十二福竜丸
 第三十二福竜丸(以下「福竜丸」という。)は,昭和53年6月に進水した,いか一本つり漁に従事する一層甲板型のFRP製漁船で,船体のほぼ中央部に操舵室を設け,その後方に機関室囲いと賄室が隣接し,上甲板下が船首から順に,船首タンク,氷倉,魚倉,活魚倉,機関室,船員室,舵機室及び船尾タンクとなり,いかつり機を11台備えていた。
(3)集魚灯設備
 集魚灯設備は,集魚灯48個及び2キロワット2灯用の集魚灯用安定器(以下「安定器」という。)24個を有し,その給電経路は,主機駆動の集魚灯用発電機から,操舵室に設置の集魚灯用配電盤に導かれて5系統に分岐し,各系統のノーヒューズブレーカーから機関室内の継電器盤及び舵機室に格納された安定器を順に経て,集魚灯に至るようになっていた。そして,集魚灯は,操舵室の前方に22個,両横に各1個,後方に24個配列されていた。また,安定器は,A受審人が平成3年6月に福竜丸を中古で購入したとき,集魚灯を増やすため,旧来の安定器16個に加えて8個を新たに増設したものであった。
(4)舵機室
 舵機室は,長さ約2メートル幅約3メートル高さ約0.7メートルあり,安定器が同室床面に敷かれた木板にビス止めで据え付けられ,1段積みの状態で,左舷側に10個,右舷側に10個,前部に4個配列されていた。また,舵機室の換気は,同室天井の中央後部のハッチ上に排気通風機が設置されていて,外気が賄室,船員室及び舵機室の各入口を経て入り込むようになっていた。

3 事実の経過
 福竜丸は,毎年3月から島根県沖合でいか一本つり漁を始め,日本海を北上しながら操業を続け,6月上旬から漁場を北海道周辺海域に移し,11月末から翌年1月末まで函館近辺で操業したのち,2月を休漁期として船体及び機関の整備を行っていた。
 ところで,安定器は,変圧器やコンデンサなどが組み込まれており,発熱によって高温となることから冷却用ファンを有していたが,経年とともに発熱や湿気の影響を受けて,これら電気部品や配電線などの電路の絶縁材料の劣化が進行することがあるので,電路の短絡を防止するため,毎年安定器の絶縁抵抗測定を行い,絶縁不良箇所を発見して早期に修復する必要があった。
 ところが,A受審人は,安定器については,平成5年ごろ業者に依頼して絶縁抵抗測定を行ったものの,その後は,集魚灯が点灯しておれば問題ないものと思い,電気業者に依頼するなどして,絶縁抵抗測定を十分に行わなかったので,長期間にわたって使用されているうち,いつしか電路の絶縁材料の劣化が進行する状況となったが,このことに気付かなかった。また,同人は,集魚灯に異状を生じたときだけ舵機室に入ることとしており,その回数は年間1,2回程度で,通電時における安定器の状態点検をしていなかった。
 こうして,福竜丸は,A受審人が単独で乗り組み,いか一本つり漁の目的で,船首0.7メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,平成15年12月12日14時00分函館港を発し,15時ごろ同港東方5海里ばかりの漁場に至り,主機を回転数毎分1,200にかけたまま,投錨して操業を始めた。
 16時ごろ福竜丸は,集魚灯を点灯して操業を続けていたところ,舵機室左舷側に設置していた旧来の安定器の電路が短絡し,電線被覆が過熱発火して付近の構造物に燃え移り,19時30分志海苔港西防波堤灯台から真方位208度1.6海里の地点で,舵機室が火災となった。
 当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,海上は穏やかであった。
 A受審人は,操舵室内で付近の僚船と通話中,同室後方の集魚灯のほぼ半数が一斉に消えたので,集魚灯用配電盤を見たところ,ノーヒューズブレーカーが引外し位置となっているのを認め,急ぎ安定器の様子を見ようと舵機室に向かったが,賄室の入口から煙が出ているのに気付き,持ち運び式消火器2本を携えて船員室に入り,舵機室入口から炎が見えていた左舷側に向けて噴射したものの,効なく煙の勢いが増したためその場を離れた。
 A受審人は,甲板上に戻って舵機室のハッチから放水したものの,炎が立ち上がり,火勢が増大したので消火を諦め,19時45分ごろ僚船と海上保安部に救援を求め,まもなく来援した僚船に移乗し,福竜丸は,巡視艇による消火活動が行われたが全焼して沈没し,のち残骸が引き揚げられて廃棄処分された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,安定器の絶縁抵抗測定を十分に行わなかったこと
2 A受審人が,通電時における安定器の状態点検を行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,毎年安定器の絶縁抵抗測定を十分に行っていたなら,絶縁不良箇所を発見して早期に修復することができ,同器の電路の短絡を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,毎年電気業者に依頼するなどして,絶縁抵抗測定を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,通電時における安定器の状態点検を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件火災は,集魚灯用安定器の絶縁抵抗測定が不十分で,操業中,絶縁材料が劣化していた同器の電路が短絡し,電線被覆が過熱発火して付近の構造物に燃え移ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,集魚灯用安定器の保守運転管理に当たる場合,経年とともに発熱や湿気の影響を受けて,同器の電路の絶縁材料の劣化が進行することがあるから,毎年電気業者に依頼するなどして,集魚灯用安定器の絶縁抵抗測定を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,集魚灯が点灯しておれば問題ないものと思い,同器の絶縁抵抗測定を十分に行わなかった職務上の過失により,集魚灯用安定器の電路が短絡し,電線被覆が過熱発火して火災を招き,全焼して沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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