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平成16年函審第68号
件名

漁船第二十八大安丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成17年2月10日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一,岸 良彬,野村昌志)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:第二十八大安丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第二十八大安丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
食堂及び船員室の焼損

原因
湯沸器電源プラグの点検不十分,当直体制が不十分

主文

 本件火災は,湯沸器電源プラグの点検が不十分で,同プラグの電線端末部が短絡を生じて発火したことと,停泊当直体制が不十分で,初期消火活動が行われないまま火勢が拡大したこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月21日15時40分
 北海道稚内港
 (北緯45度24.4分 東経141度40.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第二十八大安丸
総トン数 160トン
全長 38.13メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
(2)第二十八大安丸
 第二十八大安丸(以下「大安丸」という。)は,昭和59年10月に進水し,平成11年8月に中古船で購入された,北海道稚内港を基地に沖合底びき網漁業に従事する二層甲板型鋼製漁船で,上甲板には,船首から順に操舵室,トロールウインチ,漁ろう甲板及び漁ろうブームなどが配置され,第二甲板には船首から順に漁獲物処理場,この後方の船体中央に,機関室囲壁,食堂,船員室,舵機室が,左舷側に油圧クーラー区画,階段,シャワー室,ファン室,合羽室,賄室,漁具庫が,右舷側に機器室,船員室,漁具庫が,それぞれ配置されていた。

3 事実の経過
 大安丸は,A及びB両受審人ほか16人が乗り組み,稚内港を基地に同港沖合の漁場で日帰りの操業を行っていた。
 大安丸の賄室は,長さ4.2メートル高さ1.8メートルで,幅は船尾方に少し広がり船首側が1.6メートル船尾側が2.4メートルになり,前壁右舷側に湯沸器1台,その左舷側隣に炊飯器2台,炊飯器の上方の左舷側壁に湯沸器用三相220ボルトの船用防水形のレセプタクルが1個,炊飯器用100ボルトのレセプタクルが2個設置され,右舷側に食堂に通じる出入口,分電箱,冷凍冷蔵庫が,左舷側に流し台,電熱器等がそれぞれ配置されていた。
 また,湯沸器の電線は,キャブタイヤコードで,船用防水形の電源プラグが常時レセプタクルに差し込まれており,同コード及び同プラグは,大安丸の購入以前から長期間にわたり使用されている来歴不明のものであった。
 そして,賄室の火気管理責任者については特に定められていなかった。
 ところで,湯沸器の電源プラグは,経年とともに防水機能が低下し,炊飯器や鍋などから発生する水蒸気が同プラグ内に侵入して電線端末部の絶縁材料が劣化する状況となった。
 B受審人は,機関及び船内電源などの管理に当たり,乗船時から差し込まれたままの湯沸器の電源プラグが湿気の多い環境下で長期間使用されていたが,これまで格別支障がなかったから大丈夫と思い,適宜同プラグの電線端末部を開放するなどして,同プラグの点検を十分に行っていなかったので,同端末部の絶縁材料が劣化していることに気付かなかった。
 大安丸は,平成16年2月20日00時ごろ稚内港を発し,同港北西方の漁場に至り操業を行い,翌21日01時40分同港に帰港し,ほっけ30トンを水揚げしたのち,同港第1副港岸壁に着岸していた同業船の右舷側の,稚内港北洋ふとう北防波堤灯台から真方位238.5度780メートルとなる地点に左舷付けで係留した。
 A受審人は,係留中,出港の3時間ばかり前に機関部に発電機を運転させて航海計器等を始動させており,発電機運転中に電気系統から発火するおそれがあったが,乗組員に休息を与えようと思い,発電機運転中の停泊当直体制を十分にとることなく,07時ごろ乗組員全員を帰宅させ大安丸を無人とした。
 B受審人は,15時ごろ出港準備のため大安丸に戻り,発電機を始動したのち再び離船した。
 こうして,大安丸は,無人の状態で係留中,湯沸器の電源プラグの電線端末部が絶縁材料の劣化により短絡して発火し,同プラグが燃え上がり,周囲の化粧板などの可燃物に燃え移ったが,初期消火活動が行われないまま火勢が拡大し,15時40分前示係留地点において,火災となった。
 当時,天候は曇で風力2の東南東風が吹き,港内は穏やかであった。
 折から,通行人が大安丸から煙の出ているのを認め,15時50分消防署に通報され,15時56分消防車の放水による消火活動が始まり,16時50分鎮火した。
 火災の結果,大安丸は,賄室,食堂及び船員室を焼損したが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 湯沸器のキャブタイヤコード及び電源プラグが長期間使用されていたこと
2 賄室の火気管理責任者が定められていなかったこと
3 B受審人が適宜湯沸器の電源プラグの点検を十分に行っていなかったこと
4 A受審人が発電機運転中の停泊当直体制を十分にとっていなかったこと

(原因の考察)
 本件火災は,適宜湯沸器の電源プラグの点検が十分に行われていれば発生しなかったものと認められ,また,発電機運転中に停泊当直体制を十分にとっていれば,直ちに初期消火活動が行うことができ,火勢の拡大を防ぐことができたものと認められる。
 したがって,B受審人が適宜湯沸器の電源プラグの点検を十分に行っていなかったこと及びA受審人が発電機運転中の停泊当直体制を十分にとっていなかったことはいずれも本件発生の原因となる。
 湯沸器のキャブタイヤコード及び電源プラグが長期間使用されていたこと並びに賄室の火気管理責任者が定められていなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係は認められない。しかしながら,海難防止の観点からいずれも是正されるべき事項である。

(主張に対する判断)
理事官は,湯沸器の電源プラグとコンセントの間にほこりがたまったうえ湿気も加わり同プラグの端子間に短絡を生じる,いわゆるトラッキング現象により本件が発生したと主張するので,以下検討する。
 湯沸器の電源プラグ及びレセプタクルは船用防水形であり,同プラグが締め付けリングによってレセプタクルに圧着されている。
 したがって,トラッキング現象の発生要因であるほこりなどがレセプタクル内に入り込む可能性はほとんどなく,同現象により湯沸器の電源プラグが発火したものとは認められない。

(海難の原因)
 本件火災は,湯沸器電源プラグの点検が不十分で,無人の状態で発電機を運転しながら係留中,経年により劣化していた同プラグの電線端末部が短絡を生じて発火したことと,停泊当直体制が不十分で,初期消火活動が行われないまま火勢が拡大したこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,発電機を運転させて係留する場合,電気系統から発火するおそれがあったから,停泊当直体制を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,乗組員全員を帰宅させて休息を与えようと思い,停泊当直体制を十分にとらなかった職務上の過失により,湯沸器の電源プラグが発火し周囲の可燃物に燃え移った際,初期消火活動が行われないまま火勢が拡大する事態を招き,賄室,食堂及び船員室を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,機関及び船内電源の管理に当たる場合,乗船時から差し込まれたままの来歴不明の電源プラグが湿気の多い環境下で長期間使用されていたから,同プラグの電線端末部の絶縁材料が劣化しているかどうか分かるよう,適宜同端末部を開放するなどして,同プラグの点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,これまで格別支障がなかったから大丈夫と思い,同プラグの点検を十分に行わなかった職務上の過失により,無人の状態で湯沸器に通電中,電源プラグが発火して燃え上がる事態を招き,前示の焼損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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