(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月8日11時00分
沖縄県那覇港(那覇国際空港北西側護岸沖)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートシュミット号 |
登録長 |
3.92メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
29キロワット |
3 事実の経過
シュミット号は,昭和58年12月に第1回定期検査を受け,船外機を備えた最大搭載人員5人のFRP製モーターボートで,平成14年6月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,知人1人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって,平成16年8月8日08時ごろ沖縄県糸満漁港を発し,那覇国際空港西方を北上して同空港北西側護岸沖の釣り場に向かった。
ところで,シュミット号は,船首部にキャビンを設け,船体ほぼ中央部右舷側に舵輪と船外機遠隔操縦用スロットルレバーを備えた操縦席,その左舷側及び船尾方に座席を設置し,船首端及び船尾両舷に係留用のクリートを備えていた。
09時ごろA受審人は,那覇港新港第1防波堤南灯台から真方位225度1.5海里の釣り場に到着して機関を停止し,水深8メートルのところに,重さ約5キログラムの四つめ錨を投じ,直径8ミリメートルの合成繊維製錨索を30メートル繰り出し,同錨索を船首端のクリートに係止して錨泊し,同乗者とともに釣りを開始した。
しばらく釣りを行ったのちA受審人は,釣果が思わしくなかったので帰航することとし,同乗者に錨索を手繰り寄せさせたところ,錨が根掛かりして揚がらず,機関を前進にかけて錨索を正横やや船尾方に緊張させ,回頭しながら錨を揚げることとし,同乗者を座席に戻らせた。
10時59分A受審人は,前示方法では,錨索の緊張により横引き状態となって大傾斜を生じたり,錨索が緩んだときの反動で反対舷に急激に大傾斜を生じて転覆するおそれがあったが,それまで何度か同方法で根掛りした錨を揚げた経験があったことから,錨索を正船首方向に緊張させて機関を後進にかけ,引く方向を適宜変えながら錨索を引くなど,船体の安定を考慮した適切な揚錨方法をとることなく,機関を全速力前進にかけ,船首端のクリートに係止した錨索を左舷正横やや船尾方に緊張させて左回りで回頭を開始した。
A受審人は,錨索を緊張させながらほぼ反転しても錨が外れなかったので,一旦機関を停止したのち,11時00分わずか前,もう一度回頭することとして機関を始動し,スロットルレバーを一杯として機関を全速力前進にかけて発進したところ,錨索が海底の岩に引っ掛かり,緊張が強まって船体が左舷側に傾斜したものの,機関を全速力前進としたまま回頭を続け,11時00分前示錨泊地点において,錨索が岩から外れて緩んだ反動で船体が右舷側に急激に大傾斜し,舷側が水中に没してさらに傾斜が大きくなり,復原力を喪失して転覆した。
当時,天候は晴で風力5の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
転覆の結果,シュミット号は船外機に濡損を生じたが,A受審人からの救助要請で来援した巡視艇により引き揚げられ,同受審人及び同乗者は,船底につかまっていたところを同巡視艇に救助された。
(原因)
本件転覆は,那覇港内の那覇国際空港北西側護岸沖において,根掛かりした錨を揚げるにあたり,揚錨方法が不適切で,機関を全速力前進にかけ,錨索を左舷正横やや船尾方に緊張させて左回りで回頭中,岩に引っ掛かっていた錨索が外れて緩んだ反動で船体が右舷側に急激に大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,那覇国際空港北西側護岸沖において,根掛かりした錨を揚げようとする場合,機関を前進にかけ,錨索を緊張させて回頭しながら根掛かりを外そうとすると,錨索の緊張により横引き状態となって大傾斜を生じたり,錨索が緩んだときの反動で反対舷に急激に大傾斜を生じて転覆するおそれがあったから,錨索を正船首方向に緊張させて機関を後進にかけ,引く方向を適宜変えながら錨索を引くなど,船体の安定を考慮した適切な揚錨方法をとるべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,それまで,機関を前進にかけ,錨索を緊張させて回頭する方法によって何度か錨を揚げた経験があったことから,適切な揚錨方法をとらなかった職務上の過失により,機関を全速力前進にかけ,錨索を左舷正横やや船尾方に緊張させながら左回りで回頭中,岩に引っ掛かっていた錨索が外れて緩んだ反動で船体が右舷側に急激に大傾斜し,復原力を喪失して転覆を招き,船外機に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。