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平成16年那審第54号
件名

漁船第7八福丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成17年3月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:第7八福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関及び電気系統に濡損

原因
気象・海象(波浪の発生状況)に対する判断不適切

裁決主文

 本件転覆は,刺網の揚網作業を行う際,波浪の発生状況の確認が不十分で,揚網作業を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月22日08時00分
 沖縄県小浜島南方沖

2 船舶の要目
船種船名 漁船第7八福丸
総トン数 1.0トン
登録長 6.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 25

3 事実の経過
 第7八福丸(以下「八福丸」という。)は,昭和63年6月に進水した一層甲板の船内外機を備えたFRP製漁船で,同60年6月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか2人が乗り組み,刺網を揚げる目的で,船首0.15メートル船尾0.24メートルの喫水をもって,平成16年3月22日07時00分沖縄県小浜島細崎漁港を発し,同島南方2海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで,八福丸は,甲板上に構造物はなく,右舷船首にラインホーラ,船体中央部やや船尾寄りに操舵スタンドを設け,潜水作業用として送気ホースを接続した空気圧縮機を備え,前示喫水では,船体中央部付近の舷縁の水面上高さが約30センチメートルとなっていた。
 また,八福丸の行う刺網漁は,高さ1.5メートル長さ35ないし37メートルで,その上辺に浮子を,下辺におもりとして鉛入りのロープを取り付けて重さが約10キログラムとなった網を,19枚つなぎ合わせて全長約700メートルとし,小浜島南方約2海里に存在する浅礁の南側に,ほぼ東西方向に敷設するもので,付近にはさんご礁が散在していることから,揚網時には,前示送気ホースを使用して潜水作業者が1人水中に入り,刺網がさんご礁に絡んだ際にこれを外すようにし,同船を敷設した刺網の風下側に位置させ,揚網作業中に船首から延出した潜水作業者用送気ホースがプロペラに絡むことのないよう,後進で揚網作業を行っていた。
 A受審人は,07時30分ごろ漁場に至って揚網準備を開始したとき,北北東方から寄せる波浪の影響により,刺網のすぐ北側に存在する浅礁付近で,時折,高起した波浪が発生しており,揚網作業を開始すると,自船は前示送気ホースと揚網中の刺網のために操船が困難になるうえに舷縁が低いから,高起した波浪を受けて危険な状況となるのを認めることのできる状況であったが,発航前,翌日も波浪が高いとの天気予報を聞いていたことから,やや波浪が高いものの早目に揚網作業を終わらせようと思い,揚網作業の準備に気をとられて波浪の発生状況の確認を十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 07時44分A受審人は,敷設していた刺網の西端となる小浜島細埼灯台(以下「細埼灯台」という。)から145度(真方位,以下同じ。)2.65海里の地点で,1人を水中での刺網の処理作業に,他の1人をラインホーラの操作に当たらせ,機関を微速力後進にかけ,0.7ノットの対地速力で船首を270度に向けて後進しながら揚網作業を開始した。
 A受審人は,その後も,揚網作業の監視と操船に気をとられて波浪の発生状況を十分に確認しなかったので,時折,付近で高起した波浪が発生していることに気付かないまま,同一速力で後進しながら揚網作業中,08時00分細埼灯台から143度2.7海里の地点において,右舷後方から連続する高起した波浪を受けて右舷側に大傾斜し,同舷側が水没してさらに船体傾斜が大きくなり,復原力を喪失して転覆した。
 当時,天候は曇で風力4の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,石垣島地方に波浪注意報が発表されていた。
 転覆の結果,八福丸は機関及び電気系統に濡損を生じたが,付近を航行中の他船により細崎漁港に曳航され,のちいずれも修理された。
 また,船上で作業中のA受審人ほか1人が海中に投げ出されたものの,前示他船に救助され,潜水作業者は,救助要請のため小浜島に泳ぎ着いたところを助けられた。

(原因)
 本件転覆は,波浪注意報が発表されていた状況下,沖縄県小浜島南方沖において,刺網の揚網作業を行う際,波浪の発生状況の確認が不十分で,揚網作業を中止せず,同作業中に右舷後方から高起した波浪を受けて大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,波浪注意報が発表されていた状況下,沖縄県小浜島南方沖において,刺網の揚網作業を行う場合,自船は船首から延出した送気ホースと揚網中の刺網のために操船が困難になるうえに舷縁が低いから,同作業中に高起した波浪を受けて危険な状況となることのないよう,波浪の発生状況の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,やや波浪が高いものの早目に揚網作業を終わらせようと思い,同作業の準備に気をとられて波浪の発生状況の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,付近で時折高起した波浪が発生していることに気付かず,揚網作業を中止することなく機関を後進にかけて作業中,右舷後方から高起した波浪を受け,大傾斜して転覆を招き,機関及び電気系統に濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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