(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月11日04時40分
青森県尻屋埼南西方沖合
(北緯41度25.5分 東経141度27.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
モーターボートポパイ |
総トン数 |
2.4トン |
全長 |
8.70メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
330キロワット |
(2)設備及び性能
ポパイは,平成14年12月に和船型FRP製プレジャーモーターボートとして建造され,同15年6月にBが購入し,船体中央部に操縦室を設け,2台の船外機を設置して運航していた。
同船の操縦室は,前面に無蓋のプラスチック製風防を取り付け,その下方の左舷側にGPS及びマグネットコンパスを,中央に回転計等を備えた計器パネルを,右舷側に機関操縦ハンドルをそれぞれ設け,計器パネルの後方に操舵輪を装備していた。
3 青森県尻屋岬港から尻屋埼付近の状況
尻屋岬港から尻屋埼に至る海岸は津軽海峡に面し,険しい崖と砂浜とが入り交じり,沿岸には岩が多く,沖合から徐々に浅くなって10メートル等深線から陸岸までの距離が約230メートルであった。
転覆地点付近は陸岸から約200メートルの水深約7メートルのところで,西寄りの風が吹き続けると,磯波が発生しやすい海域であった。
4 事実の経過
ポパイは,A受審人が1人で乗り組み,同乗者1人を乗せ,救命胴衣をそれぞれ着用し,釣りの目的で,航行中の動力船が表示する灯火を点灯し,船首尾とも0.7メートルの等喫水をもって,平成16年2月11日02時30分大畑港の係留地を発し,03時40分ごろ尻屋岬港東防波堤北西方沖合に到着し,釣りを始めた。
A受審人は,釣果がなかったので,以前に行ったことがある尻屋埼南西方沖合の釣場に移動することとし,2台の船外機を始動したところ,左舷機が不調で使用不能となったので右舷機のみで航行することとし,04時25分尻屋岬港尻屋防波堤灯台(以下「尻屋防波堤灯台」という。)から320度(真方位,以下同じ。)220メートルの地点で,針路を056度に定め,同機の回転数を毎分1,000にかけ,5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,立って操舵輪を操作しながら進行した。
04時29分少し前A受審人は,尻屋岬港を過ぎたころ,西寄りの風が強まり,船体の動揺が増して波が高くなり始めたことに気付いたが,右舷機と舵を使用して高波でも航行できるものと思い,尻屋埼南西方沖合の釣場に向かうことを中止することなく,同一針路,速力で続航した。
A受審人は,船体の動揺がますます激しくなってきたので,同乗者と相談して帰航することとし,04時40分少し前暗くて周囲の波浪の方向と高さを確かめることができないまま,右舷機の回転数を上げ左舵一杯を取って反転中,ポパイは,左舷正横方向からの高起した磯波で右舷側に傾き,海水が船内に浸入して大傾斜し,04時40分尻屋埼灯台から233度965メートルの地点において,船首が021度を向き,速力が6.0ノットになったとき,復原力を喪失して右舷側に転覆した。
当時,天候は晴で風力5の西風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,波高2メートルを超す磯波があった。
転覆の結果,ポパイは漂流中に漁船に発見され,海上保安部の巡視艇により尻屋漁港に引き付けられたが,全損処理され,A受審人と同乗者は海中に投げ出されて海岸に泳ぎ着き,友人に連絡を取って救助された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,片舷機のみの操縦に慣れていないのに航行したこと
2 A受審人が,西風が強まった際に釣場に行くことを中止しなかったこと
3 ポパイが,左回頭中左舷正横方向から高起した磯波を受けて右舷側に傾き,海水が浸入して復原力を喪失したこと
(原因の考察)
本件は,ポパイが,釣場に向かっている際に西寄りの風が強まってきた状況下,釣場付近は磯波の発生が予測された海岸であるから,釣場に行くことを中止しなかったことによって発生したので,その原因について検討する。
1 A受審人が左舷機が使用不能になり,片舷機のみの操縦に慣れていないのに航行したうえ,西寄りの風波が強まってきたことに気付き,尻屋岬港から尻屋埼にかけての海岸には磯波の発生が予測されたのに釣場に行くことを中止しなかったことは本件発生の原因となる。
2 ポパイが左回頭して反転中,左舷正横方向から高起した磯波を受けて右舷側に傾き,海水が浸入して大傾斜し,復原力を喪失したことは本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件転覆は,夜間,尻屋埼南西方沖合において,船外機の左舷機が使用不能になり,右舷機のみで釣場に向かって航行中,西寄りの風が強まってきた際,早期に釣場に行くことを中止せず,風が強まり波が高くなり,船体の動揺がますます激しくなってから反転して帰航するにあたり,左舷正横方向から高起した磯波を受けて右舷側に大傾斜し,大量の海水が船内に浸入して復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,尻屋埼南西方沖合において,船外機の左舷機が使用不能になり,右舷機のみで航行中,西寄りの風が強まってきたことに気付いた場合,釣場付近が西寄りの風で磯波が発生するところであるから,釣場に行くことを中止すべき注意義務があった。
しかるに,同受審人は,右舷機と舵を使用して高波でも航行できるものと思い,釣場に行くことを中止しなかった職務上の過失により,反転して帰航するにあたり,左舷正横方向から西寄りの高起した磯波を受けて右舷側に大傾斜し,大量の海水が船内に浸入し,復原力を喪失して転覆を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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