(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月26日01時50分
北海道松法漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船京清丸 |
総トン数 |
1.6トン |
全長 |
8.50メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
3 事実の経過
京清丸は,平成4年2月に進水した,刺網漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で,船首から順に揚網機用油圧ポンプ,その後方右舷側に揚網機,同側中央にGPSプロッタ,魚群探知器等を格納した操舵スタンド,船尾の左舷側に発電機,中央と右舷側に燃料タンクがそれぞれ配置され,また,直径6センチメートルの放水口が船首,中央及び船尾の左右舷に設置されていた。
京清丸は,A受審人(昭和56年7月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,ともに救命胴衣を着用し,操業の目的で,平成15年11月26日01時00分北海道松法漁港を発し,同港南東方1海里の漁場に向かった。
ところで,11月の根室北部の海上は突風を伴う強い西風や北西風が吹くことが多く,A受審人は,白波が立つような荒天時には出漁を中止していた。
前日の25日21時の天気図は,勢力の強い高気圧が北海道西方に張り出し,東方に低気圧に伴う寒冷前線があって冬型の気圧配置を示しており,21時30分釧路地方気象台は,強風,波浪注意報を発表し,松法漁港沖を含む根室地方の海上では北西の風が強まり,突風や高波に注意するよう呼びかけていた。
発航前A受審人は,テレビの天気予報を見て冬季季節風が強まることを知った際,自船の船型が同業船より小型で,漁具や漁獲物の積載により水線からブルワーク上縁までの高さが減少すると波浪が打ち込み易くなることから,出漁の検討を行ったが,同業船が出漁するから自船も大丈夫と思い,荒天に対して十分に配慮し,出漁を取り止めることなく漁場に向かったものであった。
A受審人は,1反の長さ25メートルで,12反を1本とする刺網を前日に投網しており,01時10分漁場に至り沖に向かって揚網を始め,01時30分残り25メートルとなったころ,急に北西風が強まり白波が立ち時化てきたのを認めた。
A受審人は,ほっけなど480キログラムを獲て揚網を終え,投網を中止して帰航することにし,船体前部に漁獲物を入れたかご6個を,中央部左舷側に刺網1本を,船尾部右舷側に刺網2本をそれぞれ置き,航行中の海水の逆流を防ぐため船首及び中央の放水口の蓋を閉め,乗組員が操舵スタンド右側に立ち,船首0.35メートル船尾0.45メートルの喫水をもって,01時40分松法港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から159.5度(真方位,以下同じ。)1.1海里の地点を発進し,針路を松法漁港南方沖0.3海里に向く325度に定め,機関を半速力前進にかけて6.0ノットの対地速力とし,手動操舵により進行した。
こうして京清丸は,風勢が更に増し,風向も西寄りに変わりつつあるなか,左舷船首方から海水の打ち込みを受けて続航中,01時50分南防波堤灯台から216度0.3海里の地点において,突風による高起した波浪を左舷方から受け,滞留した海水が右舷側に移動し大傾斜して復原力を喪失し,325度に向首したまま右舷側に転覆した。
当時,天候は晴で風力6の西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
転覆の結果,GPSプロッタ及び船外機等を濡損したが,同業船により松法漁港に曳航されたのち修理され,A受審人と乗組員は海中に投げ出されたものの,同業船に救助された。
(原因)
本件転覆は,夜間,北海道松法漁港において,冬季季節風が強まり,これに伴う突風により波浪の高まることが予想された際,荒天に対する配慮が不十分で,出漁を取り止めず,荒天のため操業を中止して帰航中,突風により高起した波浪を左舷方から受け,滞留した海水の移動により大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,北海道松法漁港において,冬季季節風が強まり,これに伴う突風により波浪の高まることが予想された場合,船型が小さく海水が船内に打ち込み易かったから,荒天に対して十分に配慮し,出漁を取り止めるべき注意義務があった。ところが,同人は,同業船が出漁するから自船も大丈夫と思い,荒天に対して十分に配慮し,出漁を取り止めなかった職務上の過失により,荒天のため操業を中止して帰航中,突風による高起した波浪を受け,滞留した海水の移動により大傾斜し復原力を喪失して転覆する事態を招き,GPSプロッタ及び船外機等を濡損するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。