(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月9日13時00分
山形県庄内空港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船龍宝丸 |
総トン数 |
1.24トン |
登録長 |
6.75メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
36キロワット |
3 事実の経過
龍宝丸は,刺網漁業に従事するFRP製漁船で,平成7年5月に取得した四級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み,設置した刺網を揚げる目的で,船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成15年11月9日12時30分山形県金沢漁港を発し,同漁港の北北東方2.3海里の,同県庄内空港沖合の漁場に向かった。
ところで,A受審人は,長さ約800メートル,幅約8メートルの刺網を,その両端に目印の旗を付けて錨を繋ぎ,水深5メートルないし10メートルのところに,海岸にほぼ直角となるように入れていた。
12時51分半A受審人は,鶴岡市湯野浜の133メートル三角点(以下「三角点」という。)から331度(真方位,以下同じ。)2,700メートルの地点に達したとき,針路を海岸に向く062度に定め,機関回転数を毎分1,000にかけ,5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,手動操舵により進行した。
A受審人は,出港前,天気予報を聞いた僚船から飛島では風速が毎秒10メートルとなっている旨を聞いたので,平素より早く出港することにしたもので,海面状態に注意を払っていたが,刺網付近にやや高起した磯波を認めたものの,波高もそれほどでもなかったことから,まさか大きな磯波が生じて転覆することはあるまいと思い,刺網への接近を中止することなく続航した。
こうして,12時58分A受審人は,三角点から351.5度2,900メートルの地点に達したとき,刺網の海岸側の目印に向く033度の針路に転じ,海岸とほぼ平行の態勢となって進行中,13時00分わずか前機関回転数を毎分1,000に減じて2.5ノットの速力としたとき,突然,高起した磯波を受けて右舷側に大傾斜して船内に海水が浸入し,13時00分三角点から353.5度3,000メートルの地点において,復原力を喪失して転覆した。
当時,天候は曇で風力3の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
転覆の結果,龍宝丸は,湯野浜海岸に漂着し,操舵機,魚群探知器及び漁ろう設備などに濡れ損を生じた。また,A受審人は,船内から自力で脱出し,船底に這い上がって浜に漂着するのを待って上陸した。
(原因)
本件転覆は,山形県庄内空港沖合において,設置した刺網を揚げるため同網に接近中,同網付近に磯波が発生しているのを認めた際,磯波の危険性に対する配慮不十分で,刺網への接近を中止せず,高起した磯波によって大傾斜し,海水が船内に浸入して復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,山形県庄内空港沖合において,設置した刺網を揚げるために同網に接近中,同網付近に磯波が発生しているのを認めた場合,高起した磯波に遭遇することのないよう,刺網への接近を中止するなどの磯波の危険性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,磯波の波高が高くなかったことから,まさか大きな磯波が生じることはあるまいと思い,磯波の危険性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により,刺網への接近を中止しないで海岸にほぼ平行に進行し,高起した磯波に遭遇して転覆させ,操舵機,魚群探知器及び漁ろう設備などに濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。