(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月6日07時30分
滋賀県琵琶湖
(北緯35度05.5分 東経135度54.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートクイントレックスV−12LW |
総トン数 |
0.2トン |
登録長 |
3.22メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
9.5キロワット |
3 事実の経過
クイントレックスV−12LW(以下「ク号」という。)は,乗用車のカートップに積載できる軽合金製のモーターボートで,小型船舶操縦士免許証を受有するB船長が1人で乗り組み,同じく小型船舶操縦士免許証を受有するA指定海難関係人を同乗させ,バス釣りの目的で,船首0.02メートル船尾0.30メートルの喫水をもって,平成16年3月6日06時20分滋賀県琵琶湖大橋西端下の湖岸を発し,同県草津市琵琶湖博物館北方沖のテトラ防波堤付近の釣場に向かった。
ところで,ク号は,釣りポイントを維持するための船首電動モーターや釣用椅子などを取り付けることができる,バス釣り専用のモーターボートで,乾舷が低くて波が打ち込みやすいので,平穏な水域での使用が前提となっていたものである。
また,B船長とA指定海難関係人は,琵琶湖で釣りを行うとき,台風などの荒天を除いて,気象情報に注意していなかったので,このときもラジオなどにより気象情報を入手しないまま発航したが,当時付近では,彦根地方気象台から強風注意報が発表中であった。
B船長は,発航後,東方の湖岸にあるエリと称する定置網を避けるため,南東に位置する目的地に直行せずに,先ず滋賀県大津市堅田の湖岸に沿って南南西方に進み,その後目的地に東行する予定で,A指定海難関係人を船尾シートの左舷側に座らせ,自らは同シート右舷側に座って船外機ハンドルを握り,グリップを操作しながら進行した。
06時34分B船長は,同市堅田所在の浮御堂から041度(真方位,以下同じ。)1,140メートルの地点に至ったとき,針路を210度に定め,毎時4.0キロメートルの対地速力(以下「速力」という。)で続航した。
定針したころ,風力2の南西風が吹き,波高は0.5メートルで航行に支障はなかったが,南下し始めると,次第に風波が増大し,波が右舷側から船内に打ち込み始めた。
07時05分B船長は,浮御堂から198度1,040メートルの地点に達したとき,波高が1メートルばかりとなり,船体が激しく動揺を始め,船内に打ち込んだ水が船尾部に停留する状況となったことを認めた。
このとき,A指定海難関係人が引き返すことを提案したが,B船長は,最寄りの岸に寄せることも,発航地に引き返すこともしないまま,スロットルを若干落として毎時3.0キロメートルの速力としただけで船首を波に立てて進行した。
07時30分少し前,B船長が,少しでも船内の水を排水しようと,A指定海難関係人に船首部にある簡易排水ポンプのスイッチを入れるように指示し,同指定海難関係人が船首に移動し始めたが,07時30分ク号は,大きな波を右舷船首に受けて左舷側に大傾斜しつつ,沈み込んだ船尾から浸水しながら,復原力を喪失して,浮御堂から204度2,300メートルの地点において,原針路,原速力のまま,左舷側に転覆した。
当時,天候は曇で,風力5の南西風が吹き,波高は1.0メートルで,気温は摂氏5度,水温は摂氏6度であった。
転覆の結果,船体は陸岸に吹き寄せられ,のち引き揚げられたが廃船とされた。また,B船長とA指定海難関係人は,防寒服の上に救命胴衣を着用していたので,浮いたまま陸岸近くまで流され,14時ごろ救助されたが,B船長(四級小型船舶操縦士免許証受有)は寒冷死し,A指定海難関係人は低体温症を負った。
(原因)
本件転覆は,滋賀県琵琶湖において,バス釣りを開始しようとする際,ラジオなどからの気象情報の収集が不十分で,強風注意報が発表中であることを知らないまま発航したことによって発生したものである。
(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。