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平成16年那審第13号
件名

プレジャーボートグリーン・フラッシュ遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成17年2月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田敏,杉崎忠志,加藤昌平,大城繁三,大城 武)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:グリーン・フラッシュ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
グリーン・フラッシュ・・・外板に破口,沈没
月光五世・・・マストに折損及び外板に凹損など
大海人・・・船底外板に破口及び甲板上の構造物に損傷など
白百合2・・・マストに折損,外板に亀裂,甲板上の構造物に損傷
スージー・・・外板に破口,マストに折損及び甲板上の構造物に損傷など
カントマリス−2・・・マストに折損など
Y号・・・甲板構造物に損傷など
Z号・・・外板に損傷など

原因
気象,海象に対する配慮不十分,船体の大きさに応じた係船索を十分に備えていなかったことおよび係留方法が適切でなかったこと

主文

 本件遭難は,台風の接近により猛烈な北風が予想される状況下,船体の大きさに応じた適当な係船索を十分に備えていなかったばかりか,係留方法が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月11日03時ごろ
 沖縄県宮古島荷川取漁港
 (北緯24度49.1分 東経125度16.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 プレジャーボートグリーン・フラッシュ
総トン数 19トン
全長 15.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 116キロワット
(2)船体構造
ア グリーン・フラッシュ
 グリーン・フラッシュ(以下「グ号」という。)は,平成10年5月に第1回定期検査を受け,沖縄県の宮古島,伊良部島,下地島及び池間島の各海岸から12海里以内の水域及び船舶安全法施行規則第1条第6項の水域に限定された沿海区域を航行区域とし,2機2軸を備えた最大とう載人員20人のFRP製スループ双胴型プレジャーヨットで,喫水線上約1.6メートルのところに甲板があり,同甲板上に高さ約1.2メートルのドックハウスと称する上部構造を設けていた。
 帆走艤装として船体中央部に側面側の幅32センチメートル(以下「センチ」という。)甲板上の高さ18メートルのマストを設け,太さ約22センチ長さ6.5メートルのブームを備え,マストリギンとして直径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)のステンレス製鋼索を用いていた。
 また,係留設備として,船首部,中央部の船首寄り及び船尾寄り並びに船尾部のそれぞれ両舷側にステンレス製クロスビットを各1個ずつ備えていた。
イ 月光五世
 月光五世(以下「月光」という。)は,昭和54年3月に第1回定期検査を受けたのち,平成14年にA受審人が購入した総トン数19.18トン,全長12.50メートル,幅3.70メートル,深さ2.00メートル,前示限定の沿海区域を航行区域とする最大とう載人員10人の軽合金製スループ型プレジャーヨットで,喫水線上約1メートルのところに甲板があり,甲板上にはセール用ウインチなどのほかに大きな構造物はなく,帆走艤装として側面側の幅25センチ甲板上の高さ約15メートルのマストを設け,太さ約20センチ長さ約4.5メートルのブームを備えていた。
ウ 大海人
 大海人は,Bが所有する総トン数5トン未満,登録長9.40メートル,幅2.75メートル,深さ1.20メートル,前示限定の沿海区域を航行区域とする最大とう載人員8人のスループ型プレジャーヨットで,喫水線上約0.9メートルのところに甲板があり,船体中央部にキャビンを配し,帆走艤装として側面側の幅約14センチ甲板上の高さ約9.9メートルのマストを設け,太さ約9センチ長さ約2.9メートルのブームを備えていた。
エ 白百合2
 白百合2(以下「白百合」という。)は,昭和56年8月に進水し,Cが所有する総トン数9.58トン,登録長9.16メートル,幅2.57メートル,深さ1.72メートル,前示限定の沿海区域を航行区域とする最大とう載人員6人のケッチ型プレジャーヨットで,喫水線上約1メートルのところに甲板があり,船体中央部にドックハウスを配し,帆走艤装として側面側の幅約19センチ甲板上の高さ約10メートルのメインマスト及び同幅約15センチ同高さ約7.7メートルのミズンマストを設け,太さ約12センチ長さ約3.4メートル及び太さ約12センチ長さ2.3メートルのブームをそれぞれ備えていた。
オ スージー
 スージーは,昭和57年6月に進水し,Cが所有する総トン数5トン未満,登録長7.13メートル,幅2.19メートル,深さ1.41メートル,前示限定の沿海区域を航行区域とする最大とう載人員8人のスループ型プレジャーヨットで,喫水線上約1メートルのところに甲板があり,船体中央部にドックハウスを配し,帆走艤装として側面側の幅約12センチ甲板上の高さ約9.7メートルのマストを設け,太さ約10センチ長さ約3.5メートルのブームを備えていた。
(3)沖縄県宮古島荷川取漁港
 荷川取漁港は,宮古島西岸にある平良港の北部に位置しており,同漁港内には,南北方向に延びる長さ385メートルの岸壁(以下「岸壁」という。)とその南側に隣接して船揚場が築造されていた。そして,岸壁の北端から西方に向けて長さ120メートルの北防波堤があり,その西端から南西方に向けて長さ285メートルの沖防波堤と南方に向けて長さ140メートルの防波堤がそれぞれ築造され,沖防波堤の先端部に平良港荷川取沖防波堤灯台(以下「沖防波堤灯台」という。)が設置されていた。また,岸壁前面の約200メートル沖にあたる,同灯台から090度(真方位,以下同じ。)120メートルの地点を北端として南方に延びる長さ145メートルの西防波堤があり,その南端から南東方に延びる長さ170メートルの南防波堤などにより,外海と隔てられていた。
 そして,岸壁の北端から南方に約90メートル,約190メートル及び約290メートルの各地点を基部として,西方に向けてそれぞれ突出する長さ75メートル幅4.2メートルの第3波除堤,長さ80メートル幅7.6メートルの中央波除堤及び浮き桟橋に至る長さ60メートルの桟橋があり,岸壁南端部には南西方に延びる長さ80メートルの船溜防波堤があった。
 また,中央波除堤先端部北面から長さ56メートル幅3メートルの第6波除堤が,第3波除堤先端部西面から長さ35メートル幅4.2メートルの第4波除堤がそれぞれ北方に向けて築造され,第4波除堤の北端から30メートル隔てた地点を南端として北防波堤まで延びる第5波除堤があり,岸壁及び各波除堤の天端高は2.6メートルであった。
 岸壁及び各波除堤の付帯設備として,岸壁上には10トン耐用の係船曲柱が約10メートル間隔で,中央波除堤上には15トン耐用の係船直柱が約10.5メートル間隔で,その他の波除堤上には5トン耐用の係船直柱が約5メートル間隔でそれぞれ設けられ,岸壁前面には高さ20センチ長さ1.5メートルのV型ゴム製防舷材が取り付けられていた。
 このため,プレジャーヨットなど多くの小型船舶が,荒天時などの係留場所として第3波除堤,中央波除堤及び第6波除堤とで囲まれた船だまり(以下「中央船だまり」という。)並びに北防波堤,第3波除堤,第4波除堤及び第5波除堤とで囲まれた船だまり(以下「北船だまり」という。)を利用していた。
(4)グ号の平素の係留状態及び台風接近時用の係船索
 A受審人は,係船索として合成繊維製ロープ(以下「合成繊維製」を略す。)を使用しており,第3波除堤先端部付近の南面に入船左舷付けで係留し,船首部のクロスビットからバウラインとして直径24ミリ(以下「直径」を略す。)及びスプリングラインとして16ミリを各1本,船尾部の同ビットからスタンライン及びブレストラインとして24ミリを各1本,船体中央部船尾寄り及び船尾部の各クロスビットからスプリングラインとして船首方に16ミリを各1本それぞれ出し,同波除堤上の係船直柱にとっていた。
 A受審人は,台風接近時用の係船索としてグ号の建造時に造船所が装備した24ミリ,平成15年8月に購入した20ミリ,錨索としても使用していた18ミリ及び操帆用のシートやハリヤードとして使用した14ミリの各ロープを用意していた。

3 事実の経過
(1)台風第14号に関する気象情報
 平成15年9月6日マリアナ諸島沖で発生した台風第14号は,同月9日15時には宮古島の東南東方約260海里の地点に達し,中心の気圧が950ヘクトパスカル,中心付近の風速が40メートルを超える勢力となって北西方に12ノットで進んでいた。
 このため,宮古島地方気象台(以下「地方気象台」という。)は,17時20分宮古島地方に強風波浪注意報を発表し,更に21時の天気図によれば,中心の気圧が940ヘクトパスカルに深まり,中心付近の最大風速が約45メートルの非常に強い台風となって西北西方に進んでいたことから,21時10分同島地方に波浪警報及び強風注意報を発表した。
 地方気象台は,9月10日03時の天気図によれば,中心の気圧が930ヘクトパスカルとなって宮古島の東南東方160海里の地点に至り,同島が強風域に入ったことから,06時20分宮古島地方に大雨,暴風及び波浪の各警報並びに雷及び高潮注意報を発表するとともに,今後最大風速40メートルの北風及び翌日には同風速45メートルの南西風がそれぞれ予想される旨を発表した。
 沖縄気象台は,10時55分の気象情報で10時には台風第14号が宮古島の東南東方約120海里の地点に達しており,中心の気圧が925ヘクトパスカルに下がり,中心付近の最大風速が50メートルとなって西北西方に進んでいると推測されることから,昼過ぎには宮古島地方が暴風域に入るおそれがあること,及び台風の中心付近では猛烈な風や激しい雨を伴っているので厳重な警戒が必要である旨を発表し,更に14時05分の同情報で翌朝には同島地方に最も接近するおそれがあり,昭和43年に宮古島地方で大きな被害を生じた第3宮古島台風に匹敵する最大風速50メートル以上,最大瞬間風速約70メートルの猛烈な風が吹く見込みと発表した。
 沖縄気象台は,17時00分の気象情報で15時には台風第14号の中心の気圧が915ヘクトパスカルに深まり,宮古島の南東方約80海里の地点を北西方に進んでいるため,宮古島地方が既に暴風域に入っており,翌日明け方には同島にかなり接近して通過するおそれがあるとともに,潮位も平均海面上2.5メートルに達する見込みであることから,厳重に警戒するよう注意を促した。また,地方気象台は,17時15分に前示警報に加えて高潮警報を出すとともに,今後最大風速45メートルの北風及び翌日には50メートルの南西風が予想されると発表した。
 台風第14号は,21時には中心付近の最大風速が54メートルを超える猛烈な台風となり,宮古島南岸まで約45海里の地点に達し,翌9月11日03時には中心の気圧が910ヘクトパスカルとなって同島南岸から約4海里の地点に迫り,その後宮古島東部を縦断し,09時には同島の北西方約20海里の地点に至っていた。
(2)宮古島における気象状況
 地方気象台の気象資料によれば,9月9日は,時折しゅう雨に見舞われたものの,ほぼ晴天状態が続き,1日を通しての平均風速も4.7メートルであった。
 9月10日は,04時ごろから断続的にしゅう雨が降り,11時過ぎから風速10メートルを超える北北東風が吹くようになるとともに,間断なく激しい雨が降り続き,22時ごろに風速20メートルを超え,22時58分に瞬間風速43.6メートルの北風を観測した。
 9月11日に入ると北風が一段と強まり,01時ごろから瞬間風速が50メートルを超え,02時過ぎには同風速が60メートルを超えるようになった。03時00分に最大風速38.4メートルを観測するとともに瞬間風速が70メートルを超え,03時12分に最大瞬間風速74.1メートルを観測したのち,急速に風勢が弱まるとともに風向が左転する兆しを見せ,04時に瞬間風速14.6メートルの北北西風を,05時45分ごろに瞬間風速60メートルを超える西風を観測した。
 また,平良港において,9月11日01時36分の低潮時には推算潮位より約0.9メートル,04時ごろには約1.4メートルそれぞれ上回る潮位を観測した。
(3)本件時の各船の係留状態
ア グ号
 A受審人は,グ号を第3波除堤近くに位置させて西方に船首を向け,バウラインとして左舷側から同波除堤に,右舷側から第6波除堤にそれぞれ24ミリと20ミリを各1本,更に右舷側から第3波除堤に18ミリを1本とり,スタンラインとして両舷側から岸壁に18ミリを各2本とり,ブレストラインとして船尾から第3波除堤に18ミリを1本とり,スプリングラインとして船体中央部船首寄り及び同部船尾寄りの各クロスビットから第3波除堤に14ミリを各1本とった状態で,第3波除堤及び岸壁からそれぞれ約6メートル離して係留した。
イ 月光
 A受審人は,月光をグ号と大海人の間に位置させて西方に船首を向け,バウラインとして第6波除堤に20ミリ及び18ミリを各1本,第3波除堤に20ミリを1本とり,スタンラインとして両舷側から岸壁にそれぞれ16ミリ及び14ミリを各1本とり,ブレストラインとして船首及び船尾からグ号の左舷側にある船体中央部船首寄り及び同部船尾寄りの各クロスビットに14ミリをそれぞれ1本とった状態で,グ号から約10メートル及び岸壁から約6メートル離して係留した。
ウ 大海人
 B所有者は,大海人を中央船だまりの中央部付近に位置させて西方に船首を向け,バウラインとして中央波除堤に18ミリ及び14ミリを各1本,第6波除堤に18ミリを1本及び第3波除堤に18ミリを2本それぞれとり,スタンラインとして両舷側から岸壁に18ミリを各1本とり,更に船首から右舷斜め後方の岸壁に14ミリを1本とった状態で,船尾を岸壁から約6メートル離して係留した。
エ 白百合
 C所有者は,白百合を大海人の南側に位置させて西方に船首を向け,バウラインとして中央波除堤に14ミリを2本,第6波除堤に20ミリ及び14ミリを各1本,第3波除堤に20ミリ及び14ミリを各1本とり,スタンラインとして右舷側から岸壁に16ミリを2本及び左舷側から1本それぞれとり,更に船首から両舷斜め後方の岸壁に16ミリを各1本とった状態で,船尾を岸壁から約7メートル離して係留した。
オ スージー
 C所有者は,スージーを白百合とプレジャーヨットのカントマリス−2との間に位置させて西方に船首を向け,バウラインとして中央波除堤に12ミリ及び14ミリを各1本,第6波除堤に12ミリ及び14ミリを各1本及び第3波除堤に16ミリ及び14ミリを各1本それぞれとり,スタンラインとして両舷側から岸壁に16ミリを各1本とり,更に船首から16ミリを右舷斜め後方の岸壁に2本及び左舷斜め後方の岸壁に1本それぞれとった状態で,白百合から約7メートル及び岸壁から約10メートル離して係留した。
カ その他
 カントマリス−2と中央波除堤との間には,それぞれ西方に船首を向けたプレジャーボートのY号及び遊漁船のZ号が北から順に係留していた。
(4)本件発生に至る経緯
 グ号は,台風第14号の接近に備えて中央船だまりの奥に移動することとしたが,既に大海人など6隻が同船だまりの中央部付近から中央波除堤にかけて係留していたため,第3波除堤近くに係留することとし,平成15年9月9日11時20分平素の係留場所を離れ,11時30分第3波除堤の基部付近にあたる,沖防波堤灯台から080度320メートルの地点に船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって係留した。
 また,月光は,平素の係留場所である第4波除堤西面から中央船だまり内に移動することとし,同日11時40分同場所を離れ,11時50分グ号の南側に最大2.4メートルの喫水をもって係留した。
 A受審人は,9月10日朝の気象情報で台風第14号の接近に伴って最大風速40メートルの北風及び翌日には同風速45メートルの南西風が予想されるとのことから,同日08時ごろスタッフともども中央船だまりに赴き,グ号及び月光の係船索の増し取り作業などを始め,19時ごろそれぞれ前示の係留状態にして同作業を終えた。
 ところで,A受審人は,当初は24ミリを用いてグ号を係留し,これを補助する目的でやや細いロープを併用していたが,その後最も強い風が予想される風向に対応する係船索に24ミリを使用し,大きな張力がかからないと予想されるところには中古のシートやハリヤードを使用するようになったが,これらの係船索が切断することもなかったため,大丈夫と思い,新たに24ミリを購入するなど,船体の大きさに応じた適当な係船索を十分に備えていなかった。
 また,A受審人は,9月10日午後の気象情報で翌朝には最大風速が50メートル以上,最大瞬間風速が約70メートルの台風第14号が宮古島地方に最も接近するおそれがあることを知ったが,西方ないし南西方からの吹き返しの風に備えた係留方法で耐えうるものと思い,バウラインに24ミリ及び20ミリを使用したものの,北風に対応しかつ距離の短いスプリングラインに14ミリを,スタンライン及びブレストラインに18ミリをそれぞれ使用したうえに,その風下側に係留させた月光からブレストラインをグ号のクロスビットにとるなど,係留方法を適切に講じなかった。
 このため,グ号は,北寄りの強い風が吹くと自らの風圧力に月光の同圧力が付加され,スプリングライン,スタンライン及びブレストラインのいずれかに破断荷重を超える張力がかかって切断するとともに,連鎖的に他の係船索も切断して漂流状態に陥るおそれがあった。
 こうして,A受審人は,スタッフともども事務所に戻って待機する一方,22時ごろから2時間おきに交代で各船の係留状態を見て回ることとし,翌11日02時ごろ風速40メートル前後の北風が吹き,瞬間風速が時折50メートルを超えるなか,自ら中央船だまりに赴いたところ,猛烈な風を受けたときにグ号及び月光が約1メートル横移動し,スプリングラインなどがかなり緊張する状況となっていたものの,係船索などに異状が認められず,また,同船だまり内では大きく波立つことも,波浪が外海から入り込むこともなかったので,そのまま事務所に戻った。
 グ号は,その後一段と風勢が強まるとともに潮位も上昇し,風上側の係船索に過度の張力が繰り返しかかる状況下,03時ごろ前示の係留地点において,猛烈な北風が吹いた折りにスプリングライン,スタンライン及びブレストラインのいずれかに破断荷重を超える張力がかかって切断し,連鎖的に他の係船索も切断して流され始めた。
 当時,天候は雨で風力12の北風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 一方,月光は,スタンライン及びブレストラインのいずれかに破断荷重を超える張力がかかって切断し,更に順次他の係船索の切断が進行したものの,かろうじて残ったバウラインにより,第6波除堤付近に寄せられた。
 また,グ号が流される状況となったのち,大海人,白百合及びスージーなどの係船索が次々と切断し,大海人は岸壁に寄せられ,白百合及びスージーなどは風下に流されて中央波除堤に押し付けられるなど,中央船だまりに係留していた全船舶が風波に翻弄される事態となった。
 A受審人は,03時12分最大瞬間風速74.1メートルの風が吹き,その後俄に風勢が衰え,台風第14号の目に入ったことを知ったものの,吹き返しに対応した係留状態としていたうえに,02時ごろの見回りで係船索などに異状がなかったことから,各船の係留場所に赴いて係留状態の点検などをすることなく事務所で待機していたところ,03時50分ごろ知人からの連絡で前示の事態に陥っていることを知った。
 A受審人は,スタッフともども中央船だまりに駆け付け,中央波除堤に押し付けられていたグ号に乗り込み,取りあえず係船索を4本とるとともに,同波除堤と船体との間に防舷物を入れるなどして吹き返しに備えた。
 グ号は,05時過ぎに南西方からの吹き返しが始まり,その後瞬間風速が50メートルを超える状況下,05時45分全係船索が再び切断し,A受審人及びスタッフを乗せたまま第3波除堤の基部付近に向けて流され,その後船体が同基部付近に激しく接触するようになった。
 A受審人及びスタッフは,なすすべもないままこれを見守り,頃合いを見計らってグ号から岸壁上に逃れた。
 この結果,グ号は,外板に破口を生じて第3波除堤の基部付近で沈没した。また,月光はマストに折損及び外板に凹損などを,大海人はその後高潮により岸壁上に押し上げられて船底外板に破口及び甲板上の構造物に損傷などを,白百合はマストに折損,外板に亀裂,甲板上の構造物に損傷及び主機に濡損などを,スージーは外板に破口,マストに折損及び甲板上の構造物に損傷などを,カントマリス−2はマストに折損などを,Y号は岸壁上に押し上げられて甲板構造物に損傷などを,及びZ号は外板に損傷などをそれぞれ生じた。
 一方,北船だまり及び中央波除堤の南側に係留していた船舶に船体漂流などの事態は生じていなかった。

(本件発生に至る事由)
1 グ号が風上側となる第3波除堤近くに係留していたこと
2 中央船だまりに北側から順にグ号,月光,大海人,白百合及びスージーほか3隻が係留していたこと
3 グ号の建造時に造船所が装備した24ミリのほかに同径のロープを備えていなかったこと
4 猛烈な北風が吹くことを知っていたこと
5 グ号のスプリングラインに14ミリを,スタンライン及びブレストラインに18ミリをそれぞれ使用したこと
6 月光のブレストラインをグ号にとっていたこと
7 台風第14号の接近に伴って荷川取漁港に猛烈な北風が吹き,かつ高潮が発生したこと
8 北側船だまり等に係留していた船舶に船体漂流などの事態は生じていなかったこと

(原因の考察)
1 係船索の強度について
 グ号,月光,白百合及びスージーがそれぞれ使用していた係船索の最高荷重値及び切断荷重値を鑑定するために,各係船索を長さ約1メートルに揃え,その端をループ状にしてクリップ4個で固定したのち,国立大学法人琉球大学が所有するD社製の万能試験機(容量50tonf)を用いて引っ張り速度毎分35ミリで静的引張試験を実施し,荷重−伸び線図を記録した。なお,B所有者から提出された大海人の係船索は,いずれもその長さが不足していて同試験を行うことができなかった。
 本件時にグ号及び月光が使用していた係船索としてA受審人が提出したロープは,長さ約1メートルに切断された24ミリ(三つ打ロープ),20ミリ(八つ打ロープ)及び18ミリ(八つ打ロープ)が各1本並びに14ミリ(網組ロープ)が3本であった。また,本件時に白百合及びスージーが使用していた係船索としてC所有者が提出したものは,いずれも三つ打ロープで,20ミリが4巻き,16ミリが2巻き及び14ミリが1巻きであった。そして,20ミリから8箇所,16ミリから5箇所及び14ミリから2箇所を適宜選択し,約1メートルの長さに切断した。
 前示静的引張試験結果をまとめるに際し,各係船索の供試ロープが破断するまでの間に生じる最高荷重値を破断荷重値とし,その後三つ打ロープにおいては2本以上のストランドの切断により,八つ打ロープ及び網組ロープにおいては荷重−伸び線図より適宜判断して切断荷重値とした。また,予備試験として,E社製のクレモナ1号(10ミリ)を購入して静的引張試験を実施したところ,破断荷重値は同社カタログ値の約86パーセントであった。
 表−1及び表−2に静的引張試験で得た各係船索の破断荷重値及び切断荷重値並びに両荷重値に予備試験で得た補正係数(1.16)を乗じて得た補正値を示した。なお,参考値として,三つ打及び八つ打両ロープについてはF社のロープカタログに記載された同社製タストンライトの同径ロープの強力(同社が定めた安全率を含めた規格強度)を,網組ロープについてはヨットロープのカタログ写に記載されたG社製ヨットロープの破断強度値を示した。
(1)グ号及び月光
 20ミリの係船索に擦り傷が認められたものの,他の係船索に外見上特筆すべき損傷などはなかった。
 鑑定の結果,参考値と破断荷重の補正値との比較において,24ミリの係船索で参考値の66.0パーセント,20ミリで80.2パーセント,18ミリで52.2パーセント及び14ミリで41.8ないし71.6パーセントであった。また,荷重−伸び線図から,破断荷重値に達するまでの各係船索の伸び量を求めたところ,24ミリ及び14ミリは20ミリの約67パーセント及び約56パーセントであった。

表−1 グ号及び月光の係船索静的引張試験結果
係船索径
(mm)
破断荷重(Tonf) 切断荷重(Tonf) 参考値
(Tonf)
破断荷重値 補正値 切断荷重値 補正値
24 4.06 4.71 2.16 2.51 7.14
20 3.38 3.92 3.38 3.92 4.89
18 1.88 2.18 1.48 1.72 4.18
14 1.7 1.97 1.7 1.97 2.75
14 1.42 1.65 1.15 1.33 2.75
14 0.99 1.15 0.99 1.15 2.75

(2)白百合及びスージー
 20ミリの係船索のうち3本に擦り傷が,他の2本に変形とストランドの切断がそれぞれ認められ,16ミリのうち1本に膨らみが認められたが,他の係船索には外見上特筆すべき損傷などはなかった。
 鑑定の結果,参考値と破断荷重の補正値との比較において,20ミリの係船索で既にストランドが切断していたものを除いて参考値の75.5パーセント以上,16ミリで64.7ないし86.2パーセント並びに14ミリで72.1及び77.0パーセントを示した。また,荷重−伸び線図から,破断荷重値に達するまでの各係船索の伸び量を求めたところ,20ミリ及び14ミリは16ミリの約77パーセント及び約78パーセントであった。

表−2 白百合及びスージーの係船索静的引張試験結果
係船索径
(mm)
破断荷重(Tonf) 切断荷重(Tonf) 参考値
(Tonf)
備 考
破断荷重値 補正値 切断荷重値 補正値
20 3.61 4.19 2.35 2.72 4.89  
20 3.3 3.83 1.95 2.26 4.89 擦り傷
20 2.02 2.34 1.88 2.18 4.89 ストランド1本切断
20 4.36 5.06 2.98 3.46 4.89 変形
20 3.54 4.11 2.48 2.88 4.89 擦り傷
20 4.16 4.83 4.16 4.83 4.89  
20 3.54 4.11 2.04 2.37 4.89  
20 3.18 3.69 2.01 2.33 4.89 擦り傷
16 2.29 2.66 2.29 2.66 3.26  
16 2.42 2.81 1.37 1.59 3.26  
16 1.82 2.11 1.82 2.11 3.26  
16 2.51 2.91 2.51 2.91 3.26 膨らみ
16 2.11 2.45 1.53 1.77 3.26  
14 1.76 2.04 1.14 1.32 2.65  
14 1.65 1.91 1.08 1.25 2.65  

2 風圧力によって各係船索にかかる張力
 H社においてグ号,月光,大海人,白百合及びスージーの風圧側面積,風圧力及び2本の係船索の組合せにおける各係船索にかかる張力を計算した。
(1)風圧側面積(A)
 本件時の風向が9月11日01時から最大瞬間風速74.1メートルが吹くまでの間,ほぼ一定して北風であったこと及び各船が東西方向に係留していたことから,各船の一般配置図,船舶検査手帳抜粋及びメーカーパンフレット各写から船体,マスト,ブーム及び各ステイによる風圧側面積を求めた。
 その結果,グ号が33.825平方メートル(以下「m2」と表す。),月光が21.094m2,大海人が11.817m2,白百合が15.337m2及びスージーが10.412m2の側面積を有していた。
(2)風圧力(Fw)
 風圧力を次の算式から求めた。
 Fw=Cd×0.5×ρa×A×V2
 ここで, Cd:風圧抵抗係数
 ρa:空気密度(Kg・sec2/m4)
 A:風圧側面積(m2
 V:風速(M/sec)
を示す。
 なお,風圧抵抗係数には一般的な構造物の風圧力を求めるときに用いられる1.2を,空気密度には気温15度及び1気圧における0.125をそれぞれ使用し,受風面に一様な風速の風が当たっていたものと仮定した。

表−3 各船の各風速に対する風圧力*
風速 グ号 月光 大海人 白百合 スージー
20m/sec 1.015 0.633 0.355 0.46 0.312
25 1.586 0.989 0.554 0.719 0.488
30 2.283 1.424 0.798 1.035 0.703
35 3.108 1.938 1.086 1.409 0.957
40 4.059 2.531 1.418 1.84 1.249
45 5.137 3.204 1.795 2.329 1.581
50 6.342 3.955 2.216 2.876 1.952
55 7.674 4.786 2.681 3.48 2.362
60 9.133 5.695 3.191 4.141 2.811
65 10.714 6.684 3.745 4.86 3.299
70 12.431 7.752 4.343 5.636 3.826
75 14.27 8.899 4.985 6.47 4.393
*単位はTonf
(3)各係船索にかかる張力
 各係船索にかかる張力を計算するに当たり,位置が固定された二次元の3つの力の静的釣り合い状態での係船索方向の各分力を求めることとした。なお,動的にかかる力並びに係留装置及び岸壁などとの摩擦力は無視することとした。
 また,各船の係船索は,8ないし12本とっていたが,そのうち風上側の2本のみが同時に作用していたものと仮定し,各係船索にかかる張力をそれぞれ計算した。


図−1 風圧により各係船索にかかる張力

ここで,Fw:風圧力
 T1:係船索(索−1)の張力
 T2:係船索(索−2)の張力
 θ1:係船索(索−1)の岸壁との角度
 θ2:係船索(索−2)の岸壁との角度
 を示す。
釣り合いの関係から,次式が得られる。
 Fw=T1×sinθ1+T2×sinθ2 (1)
 T1×cosθ2=T2×cosθ2 (2)
上式(1)及び(2)から
 T1=Fw/{sinθ1+(cosθ1/cosθ2)×sinθ2}
 T2=T1×(cosθ1/cosθ2)
が得られ,各係船索にかかる張力を求めることができる。

3 係船索の組合せと各係船索が破断荷重値等に達する風速
 グ号,月光,大海人,白百合及びスージーの係留状況図をもとに,上記の式を用いて各係船索の組合せにおけるそれぞれの係船索にかかる張力を各風圧力ごとに計算し,破断荷重値,補正値及び参考値に達する風速を求めた。表−4から表−8にいずれか一方の係船索が破断荷重値に達する風速を示すとともに,同風速において耐えうる他の係船索には−印を記入した。なお,各係船索の破断荷重値及び補正値については,表−1及び表−2におけるそれぞれの径の最大値を用いた。
(1)グ号

表−4 係船索の組合せと破断荷重値等に達する風速
係船索の組合せ 破断荷重値に達する風速
(m/sec)
補正値に達する風速
(m/sec)
参考値に達する風速
(m/sec)
T1* −T2* T1 T2 T1 T2 T1 T2
3(24mm) −7(14mm) 20〜25 25〜30 30〜35
3 −8(18mm) 25〜30 25〜30 40〜45
3 −9(18mm) 25〜30 25〜30 35〜40
3 −10(18mm) 25〜30 25〜30 40〜45
4(20mm) −7 25〜30 25〜30 30〜35
4 −8 25〜30 30〜35 40〜45
4 −9 25〜30 25〜30 40〜45
4 −10 25〜30 30〜35 40〜45
5(18mm) −7 30〜35 30〜35 30〜35 30〜35 35〜40
5 −8 30〜35 30〜35 45〜50
5 −9 30〜35 30〜35 30〜35 30〜35 45〜50 45〜50
5 −10 30〜35 30〜35 45〜50
6(14mm) −7 25〜30 25〜30 30〜35 30〜35 35〜40 35〜40
6 −8 30〜35 30〜35 40〜45
6 −9 30〜35 30〜35 30〜35 30〜35 35〜40
6 −0 30〜35 30〜35 45〜50 45〜50
*係船索の番号は参考図(2-1)に示した番号,また( )内は係船索の径

 なお,計算上3-7の組合せにおける7の係船索(スプリングライン,14ミリ)に最も大きな張力がかかることから,同係船索に24ミリを使用した場合,破断荷重値,補正値及び参考値に達する風速は,それぞれ35〜40m/sec,40〜45m/sec及び50〜55m/secとなった。
(2)月光

表−5 係船索の組合せと破断荷重値等に達する風速
係船索の組合せ 破断荷重値に達する風速
(m/sec)
補正値に達する風速
(m/sec)
参考値に達する風速
(m/sec)
T1* −T2* T1 T2 T1 T2 T1 T2
3(20mm) 6(16mm) 40〜45 45〜50 45〜50
3 −7(14mm) 30〜35 35〜40 40〜45
4(14mm) 5(14mm) 45〜50 45〜50 45〜50 45〜50 55〜60 55〜60
*係船索の番号は参考図(2-2)アに示した番号,また( )内は係船索の径

 なお,A受審人から月光が使用していた16ミリの係船索の提出がなかったため,白百合及びスージーが使用していた係船索の破断荷重値及び補正値を流用した。
(3)大海人

表−6 係船索の組合せと破断荷重値等に達する風速
係船索の組合せ 破断荷重値に達する風速
(m/sec)
補正値に達する風速
(m/sec)
参考値に達する風速
(m/sec)
T1* −T2* T1 T2 T1 T2 T1 T2
4(18mm) −6(14mm)         60〜65
4 −7(18mm)         75〜 75〜
5(18mm) −6         70〜75
5 −7         75〜 75〜
*係船索の番号は参考図(2-2)イに示した番号,また( )内は係船索の径

 なお,大海人の係船索については,静的引張試験が行えなかったため,参考値に達する風速のみを記載し,破断荷重値及び補正値に達する風速欄は空欄とした。
(4)白百合

表−7 係船索の組合せと破断荷重値等に達する風速
係船索の組合せ 破断荷重値に達する風速
(m/sec)
補正値に達する風速
(m/sec)
参考値に達する風速
(m/sec)
T1* −T2* T1 T2 T1 T2 T1 T2
5(16mm) −7(16mm) 50〜55 55〜60 60〜65
5 −8(16mm) 50〜55 55〜60 60〜65
5 −9(16mm) 50〜55 55〜60 55〜60
6(20mm) −7 45〜50 45〜50 55〜60
6 −8 50〜55 55〜60 65〜70 65〜70
6 −9 40〜45 40〜45 50〜55
*係船索の番号は参考図(2-3)アに示した番号,また( )内は係船索の径
(5)スージー

表−8 係船索の組合せと破断荷重値に達する風速
係船索の組合せ 破断荷重値に達する風速
(m/sec)
補正値に達する風速
(m/sec)
参考値に達する風速
(m/sec)
T1* −T2* T1 T2 T1 T2 T1 T2
5(16mm) −7(16mm) 65〜70 65〜70 70〜75 70〜75 75〜 75〜
5 −8(16mm) 55〜60 55〜60 60〜65
5 −9(16mm) 65〜70 65〜70 70〜75 70〜75 75〜 75〜
6(14mm) −7 55〜60 55〜60 65〜70
6 −8 45〜50 50〜55 55〜60
6 −9 50〜55 50〜55 60〜65
*係船索の番号は参考図(2-3)アに示した番号,また( )内は係船索の径

4 まとめ
 本件遭難は,台風第14号の接近に備えて中央船だまりに係留していたグ号の係船索が切断したことによって発生したものであり,その原因について考察する。
 A受審人が風上側となる第3波除堤近くにグ号を係留したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,グ号を移動させる時点において,既に他船が台風第14号の接近に備えた係留状態に入っていたこと及びその時点ではまだ予想される風向などが明らかでなかったことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 中央船だまりにグ号ほか7隻の船舶が係留していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同船だまりが十分な水面及び付帯設備を有していたと認められることから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 小型船舶安全規則において,小型船舶には適当な係船索を備え付けなければならないと定められているものの,その長さ,強度及び備えるべき本数についての明確な規定はない。しかしながら,船体の大きさ及び係留する地域の気象的特殊性などを考慮した係船索を備えることは言うまでもないことである。造船所がグ号に装備した係船索は24ミリであったことから,同船の大きさに応じた係船索は24ミリであると考えられ,一方,宮古島において観測された過去36年間の最大瞬間風速の平均値が42.7メートル及び過去43年間の最大風速の平均値が26.9メートルであるという地域の気象的特殊性を考慮すれば,スプリングライン,スタンライン及びブレストラインにも24ミリを使用することができるよう,十分な長さを備えておくべきであった。したがって,船体の大きさに応じた適当な係船索を十分に備えていなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人は,猛烈な北風が吹くことを知っており,また係留状態から北風による風圧力が最も大きいことも予測できたのであるから,各ロープの耐力に応じた張力がかかるよう,その伸びなども考慮した係留方法をとるべきであり,同方法をとることは,可能であったものと認められる。また,大きな張力がかかると予想されたスプリングラインなどに24ミリを使用していれば,相当程度の風速まで耐え得たものとも認められることから,北風に対応する係船索に細いロープを使用したうえに,その風下側に係留させた月光からブレストラインをグ号のクロスビットにとるなどしたことは,係留方法を適切に講じなかったものと判断でき,本件発生の原因となる。
 本件時,北船だまり等に係留していた船舶に船体漂流などの事態が生じていなかったことから,グ号の漂流が中央船だまりにおける事態の原因とも考えられ,条件を付した鑑定の結果からも,まずグ号の係船索が切断して流されたものと認められる。しかしながら,最大瞬間風速74.1メートルの風が吹く状況下において,風圧力,波力,潮位及び係留方法などが複雑に作用して船体が三次元で移動を繰り返した状況を再現することは困難であること,また,同鑑定において,中央船だまりに係留していた他船にも係船索が切断する可能性があったと認められることから,グ号の漂流と他船の損傷とについては,その相当なる因果関係を明らかにすることができない。
 ところで,財団法人日本船渠長協会発行の台風対策関係資料によれば,岸壁等に係留して台風をしのぐ場合,最大風速によって生じる風圧力の1.3倍に耐えうる係留方法を提示している。この提示によれば,グ号が係船索の増し取り作業などを始めたころに予想されていた最大風速が40メートルであったことから,その1.3倍,即ち風速約50メートルの横風に耐えうる係留方法がとれるよう心掛けておくべきであったとも考えられる。また,宮古島における過去の最大瞬間風速及び最大風速の記録から,その地に船舶を係留させる者として,それ相応の係留方法を講じることができるよう,十分な検討が求められるところである。

(海難の原因)
 本件遭難は,台風の接近により猛烈な北風が予想される状況下,沖縄県宮古島荷川取漁港内の船だまりに係留する際,船体の大きさに応じた適当な係船索を十分に備えていなかったばかりか,係留方法が適切でなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,台風の接近により猛烈な北風が予想される状況下,沖縄県宮古島荷川取漁港内の船だまりにグ号及び月光を係留させる場合,その係留状態から北風による風圧力が最も大きいことを予測できたのであるから,同風に対応した適切な係留方法を講じるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,船体の大きさに応じた適当な係船索を十分に備えていなかったばかりか,西方ないし南西方からの吹き返しの風に備えた係留方法で耐えうるものと思い,北風に対応する係船索に細いロープを使用したうえに,その風下側に係留させた月光からブレストラインをグ号のクロスビットにとるなど,適切な係留方法を講じなかった職務上の過失により,猛烈な北風が吹いた折りにグ号のスプリングライン,スタンライン及びブレストラインのいずれかに破断荷重を超える張力がかかって切断し,連鎖的に他の係船索も切断して漂流状態に陥り,波除堤に激しく接触する事態を招き,グ号の外板に破口を生じて沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 なお,中央船だまりに係留していた他船に生じた損傷については,猛烈な風が吹く状況下において,風圧力,波力,潮位及び係留方法などが複雑に作用し,かつ,船体が三次元で移動を繰り返した状況を再現することは困難であること並びにこれらの船舶にも係船索が切断する可能性があったことから,グ号の漂流と相当なる因果関係を明らかにすることができない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1

参考図2-1

参考図2-2
参考図2-3

参考図3


参考図4






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